26.できちゃった……
2巻プロローグ的な感じなので短めです。
――彼女が欲しい。
よほどモテる人間か、生ものに興味がないパターンを除いて、普通の思春期男子高校生という生物は〝それ〟を欲して止まないものだと俺、真田信二郎は思う。
中には〝いたらいたでダルい〟とか〝おひとりの方が楽だから〟なんて特殊性癖もいるだろうが、そんなことは全て経験してから言えという話だ。
SNSによく生息してる〝結婚したことないのに、結婚は悪とのたまうモンスター〟や〝異性と触れ合ったこともないのに、異性を憎むモンスター〟なんか特にそうである。
まぁ、経験した上での発言なら好きにすればいい。個人の自由だからな!
しかし。そう、しかしである。
今現在、十五歳の俺から見た未来の〝重み〟を考えてみると、だ。
学生時代の三年間と大人になってからの三年間の〝価値〟が、全くと言っていいほどに違うことは確定的に明らかだと確信を持って断言できる。
恐らく友人ひとつとってもそうだろう。
思うに大人になっても友人が増える人間は、学生時代から元々友人が多い人間。
もちろん環境次第で例外はあるだろうが、基本当てはまらないから例外なのである。
この世は正真正銘、格差社会だ。
金持ちは金があるから金を稼ぎ続け、モテる人間はモテるからモテ続ける。
そうして生まれる経験の格差は世代を跨いで、どんどん広がっていく。
つまり、敗者側に立つ人間が人生で勝つには、どうにか例外になるしかないのだ。
――彼氏がいる幼馴染、東雲小夏と付き合いたい。
俺のそんな願いを叶えるのにもたぶん、例外的な何かが必要なんだと思う。
だから俺は、幼馴染たちの中にもしかしたらあるかもしれない〝気づかなかった本当の気持ち〟を引き出すため、幼馴染の彼氏の幼馴染である久住春乃先輩と同盟を結んだ。
それは周囲を幸せにするような偽の恋人を演じ、上手いこと別れさせるための密約。
大前提として他の誰にもバレてはいけないこと……の、はずだった。なのに、
「隠さなくてもいいのに。安心して。誰にも言っていないわ。まだ」
クラスメイトの女子、飾森瑞希に俺たちの関係が知られてしまった。
誰にも言っていないのも本当かどうかはわからない。とにかく、その代わりに――
「わたし、ずっと前からあなたが好き。いっぱいいっぱい好き。愛してます」
付き合って欲しい、と。告白され、キスをしたのが昨夜のことだった。
少し乾いた唇にもまだ、熱くて柔らかい飾森の感触が残っている。
結局、あの後も何回かキスを求められて、一緒に写真を撮らされた。
飾森は楽しそうだったが、俺はちっとも楽しくなかった。
そもそもの話。あいつが俺のことを好きだってこと自体、本当なんだろうか。
まるで実感がわかない。頭の中に宇宙が広がっていくような気分だ。
つまりいつも冷たかったのは、好きの裏返しってやつで。春先にそれとなく言っていた好きな人っていうのも俺で、一日中ぐしょぐしょのデレデレだったってこと?
んな馬鹿なことがあるか? 素直じゃないにもほどがあるだろ。
(俺は小夏が好きだ……それは嘘なんかじゃない。でも……同じくらい俺のことを好きな可愛い子が好き、になってしまうかもしれない……)
これが意識して印象が変わるってやつなんだろうな、と。
第三者視点に勝手に立っている脳内俺が言う。
だってほら、飾森に〝可愛い〟とか言っちゃってるくらいなのだ。
もうこれ、しまいには夢で瑞希ちゃん好き好きとか始めそうな勢いである。
一昨日までの俺が聞いたら、まず間違いなく笑い死んでる自信があるね。
でも、一つだけ。思うところがあるとすれば――
(俺も回りくどいことをやめて、ストレートに告白したら何か変わるんだろうか……)
まぁ、考えても仕方のないことだな。二人に実は嘘だったと打ち明けることのリスクもそうだし、俺だけの問題じゃない以上、好き勝手な判断はできないだろう。
……と、今さらながらこんなことを長々と考えているのは一種の思考停止だった。
何故なら今は朝の登校中で、隣には小夏ではなく件の飾森がいるからである。
「――ねぇ、さっきからずっと黙っているけれど。何を考えているの、信二郎?」
「ん? あぁ、お前のこと」
「あら。嬉しい」
本当に心の底から嬉しそうな笑顔だった。
普段の彼女とかけ離れた表情の豊かさに脳が混乱してくる。
「それで。わざわざ一緒に登校しようと誘ってまでしたい話ってなにかしら」
「昨日は動揺して伝え忘れたんだけどさ。春乃先輩、俺のこと思考盗聴できんだよ」
「…………は? なにそれ」
ですよねー。とても凍てついた視線を向けられて、今にも解体させられそうだ。
「つまり、先輩とは〝波長が合う〟ってそういうこと? わたしを嫉妬させて楽しい?」
「いやそうではなくて!」
ものすごい勢いで物理的に詰め寄ってくる。こわい。
近所のご老人たちも明らかに「朝からご機嫌じゃのぉ」という感じである。埋めるぞ。
「だったらなに? なんなのかしら。泣いちゃうわよ」
「飾森お前、そんなキャラだったの……?」
自分で言葉にした瞬間、俺は思わずハッとさせられた。
(あぁ、これも〝変わってしまったあの子〟を脳へ叩きつけられる感覚の親戚か)
まぁ、こいつもクラスで堂々と〝こう〟はならないだろうし、被害者は出ないか。
いいとこ、飾森の親友――柚本秋那。もとい俺のママが、何とも言えない微妙な変化に気付……かねぇな、たぶん。そんなカンの良いヤツじゃないだろ、うん。
「……だって。好きなんだもの」
「お、っぉう……」
なんか今日は暑いな。ど、どう反応すればいいんだ、俺は……。
「けど本当なんだって。どの程度の距離で盗聴してんのか知らんが、なんつーのかな……たとえば、そうだな。一人称の小説でモノローグと地の文を読んでくる感じ?」
「……そう。ねぇ、今日の最初の授業、サボるつもりはあるかしら」
「ん? ……な、なんで?」
「一度戻って、わたしの部屋に来てもらおうと思って」
女子の部屋っ!? い、いや今は一応……彼女の部屋になるのか。
そう思うと無駄に緊張してくる。なんだかんだと行ったことなかったしな。
「え、ま、まぁ……打開策があるなら行くけどさ。ど、どうせ一限は日本史だし」
「決まりね。あぁ、あと次からふたりの時は飾森って呼ばないで」
「きょ、拒否権は……」
「あると思うのかしら」
「いいえ……」
「ありがとう、好きよ」
ちゅっ。
頬にいきなり昨日の感触がやってきて、俺は後ろへ跳びのいた。
「う、ぉっ! や、やめろ急に! そ、それでお前の家に行って何すんだ!」
「えっちなこと」
「――――っ!?」
いつもなら嘘だと笑い飛ばせるのに、今のこいつはやりかねないという疑惑しかない。
身体が内側から熱くなってくるのがよく分かる。俺は今、飾森の手のひらの上だ。
「冗談よ。本気にした? かわいい」
「ま、マジで俺は何しに行くの?」
「そんなの決まっているわ――催眠術、よ」
「えぇ……」
オカルトにはオカルトだった。
これを読んでくださっている読者様方の好みとは外れるかもしれませんが、
『Project:Embody〜ガシャ運のない俺が、長年使えない雑魚だとバカにされてきたカードたちの真の実力を引き出し、世界最強にのぼりつめるまで〜』
というロボ小説を書き始めましたので、よろしくお願いいたします…!
(毎日投稿でブクマ0はあまりに悲しい……)




