60.エルド(ルヴィン王子視点)
「いやはや、驚いたネ。やはりいくらか人を殺していると、いいこともあるものだ」
ルヴィン王子は、震えながら魔族のことを眺めていた。結果として、自分は魔族の使う転移魔法によって、どこか分からない場所に連れて行かれることになった。
恐らくは屋敷の中だとは思うのだが、しかし明らかに空気が違う。人間が住まう場所……ではなさそうだ。
魔族は嬉々とした様子で、ぎろりと自分のことを睨んでくる。
「やはり王族はいい……肌つやもよくて、身なりも綺麗だネ。けれども人間はひ弱だ……まるで芸術作品のよう……ああ、壊しタイ!」
ルヴィン王子は震え上がる。もう今すぐにでも逃げ出してやりたいが、そんなことをしてしまったら追われて凄惨に殺されるだけだろう。しかし逃げなくても殺されそうなのだから、精神状態は到底まともなものではなかった。
「でも、壊すのはよくないネ。これは貴重な道具なのだから、もっと丁重に扱わなければ」
ルヴィン王子は震えながらも、自分の処遇が気になった。
「あの……僕はどうなるんですか?」
「君? ああ〜それはネ。君のパパに人間の領地を明け渡せ、っていう交渉材料にしてあげようと思っているんダ♪ だから君は〜殺さないし壊さない。まあでも、向こうに断られたら、もう私の好きなようにするけれど」
好きなようにする……すなわち殺すということだ。しかし、その話を聞いてルヴィン王子は希望を抱くよりも先に絶望した。
今、この状況で父上は自分を救ってくれるだろうか。見捨てずに助けに来てくれるだろうか。
こんな自分に手を差し伸べてくれるだろうか。
もし断られたら……死ぬのか?
嫌だ……嫌だ! そんなの……あんまりだ。
過呼吸になりそうになるルヴィン王子を、魔族は優しく背中を撫でる。
「大丈夫ダヨ、不安にならないで。君はとても良い子だからね?」
そう言いながら、魔族はハッとする。
「不安の解消……そうダ! 自己紹介がまだだったネ。私はエルド、君たちが大好きな魔族さ」
エルドという言葉に、ルヴィン王子は顔を上げる。何故なら、聞き覚えがあったからだ。父上との会話で、出たような記憶がある。
近頃人間界で悪さをしているという、犯罪組織の長だ。
ルヴィン王子は苦笑することしかできなかった。自分はとんでもない人物に捕まってしまったと。




