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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
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第77話 魔物は危険なもんで



 魔物という存在について、深く理解したわけではないが……多分、動物であることに変わりはないのだろう。

 動物にテニスボールをぶつけ倒し、それをみんなが黙って見ている。なにこのとんでも状態。


「なあ、さすがにちょっとかわいそうじゃ……」


「あ! ダメです!」


 コート内に侵入してきただけで、この仕打ちはあんまりではないか。

 そう思い近づく達志であったが、その背中に待ったがかかる。


 しかしそんなに焦らなくても、魔物は倒れてるし危険はないだろう。

 平気平気と、振り向きリミに笑いかけるが……


「ギシャアアアア!!」


「ぎゃあああああ!?」


 再び魔物の方を向いたとき、魔物の口からなにかが出ていた。ていうか伸びていた。

 舌にしては長すぎるそれは、ぐんぐん伸びていき、先端が口のようにかぱっと開かれる。


 まるで、魔物のもう一つの顔のようだ。それは鋭い牙を見せ、達志に襲い掛かる。


「うらぁ!」


「ぎゃん!」


 このまま噛まれる……そう覚悟し目を閉じたが、なにやら切ない叫びが聞こえてきた。そのまま数秒経っても、痛みはない。

 恐る恐る目を開けてみると、そこには地面に落ちた、あの変な舌のような化け物がいた。


 ピクピクと痙攣しており、口と思われる場所からは、涎を垂らしている。

 控えめに言って、気持ち悪い。


「な、何これ……?」


「触手、ですね。魔物は体内に触手を飼ってる種もいるので、油断して近づいたらガブリですよ。指を噛まれて持っていかれた人もいるんですから」


「また触手かよちくしょう!」


 マンガとかだと、単ににゅるにゅるしているだけの、男の子の妄想のお手伝いをしてくれるような存在のはずだが……

 実際に見たそれは、以前見た者以上に、グロテスクこの上ない。


 なんか個別で生きてそうだし、今とても嫌な事実話をされた気がする。

 深くは聞くまい。


 それにしても、昼間のトサカゴリラといい……今日は触手に厄介な目にあわされる日である。

 なんだこれ、触手デーか。


「まったく、危険だとヴァタクシアが言っていただろう」


「マルちゃん……」


「誰がマルちゃんだ」


 触手に対するイメージを大きく変えていたところへ、近づいてきたのはマルクスだ。

 他の部員は、達志の心配をしたりグロッキー状態の魔物に近づき、処分を話し合っている。


 その動きは、もう慣れているものだった。


「えっと、もしかしてあの魔物……いや触手、マルちゃんが……?」


 さっき襲われそうなところを、救ってくれたなにか。

 それがなんなのかいまいちわからなかったが、近くに落ちているテニスボールを見て、まさかと思った。

 だが……他には考えられない。


 誰も駆け寄ってきていないのに、触手は吹っ飛んだ。それは遠距離からなにかがぶつかったということで……

 それは、なんらかの魔法の可能性もある。


 だが直前に聞こえた声は、マルクスの声だったように思う。彼は魔法が使えないと、自分で言っていた。

 それに……彼は先ほど、コート内に侵入した魔物を吹っ飛ばしている。

 だから、まさかまたテニスボールで、今度は狙いを触手に定めてぶっ飛ばしたのか。


「ふん、テニスで魔物をしばき倒すことくらいできんと、副部長は務まらんさ」


「いやいやいやいや……」


 さも当然のように語るマルクスだが……ちょっとなに言ってるかわからない。


 これ軟式用のソフトボールだし。そもそも当たったとして生き物があんなに吹っ飛ぶとか……あり得ない、とは言えないが。

 マルクスの超すごサーブを見てしまったわけだし。


 だが、だとしても……


「いろいろ、頭の整理が追いつかねえ……」


 気持ち的に痛くなる頭を、抱える達志であった。


 魔物の乱入により中断となった、達志とマルクスの試合。

 あのあと魔物はしばかれ、部員たちに捕まってしまった。


 魔物の脅威がなくなった今、さあ再開となるのか……そんな達志の不安を読み取ったのか、対戦相手のマルクスは「興が冷めた」と言って、結局決着付かずとなった。


 もしかしたら、情けをかけられたのかもしれない。あのままやっても、達志が負けていたのは確実だし、試合を中断するいい言い訳もできた。

 マルクスは試合中断とか、曲がったことが嫌いそうだが、それだけ達志の状態がひどかったということだろう。


「はぁ、情けね……」


 情けをかけられたにしろ正々堂々やって試合に負けてたにしろ、どっちにしろかっこつかない。

 試合はボロボロ、魔物に襲われ、挙げ句対戦相手のマルクスに助けられる始末だ。


 少しはテニスの勘が戻った気はするが、体がついてこなければ意味がない。

 あれじゃあ、マルクスはおろかテニス部の一番弱い人とやっても、結果は変わるまい。


 そんな、落ち込みまっしぐらの達志の隣に立ち、彼を励ますのは……


「まあまあ、そんな落ち込みなさんな」


「そ、そうですよ! 仕方ないですって!」


 リミ……ではなく、テニス部部長のヤーと、エルフ少女シェルリアである。

 こういうときには、いの一番にリミが来そうではある。が、彼女は今、マルクスに呼ばれて魔物の所へと行ってしまっている。


 で、どうしてこの二人がいるのかというと……


「そりゃキミ、未来の我がテニス部員を無下にはできまいよ」


「ま、魔物はちょっと怖くて……」


 ……とのこと。

 いつの間にか達志がテニス部に入るような言い方なのが気になった。

 未来のテニス部員かはともかく、世話焼きな部長だということはわかった。


 シェルリアは怖がりなのか、見た目期待通りの控えめな性格らしい。魔物が怖くて逃げていたようだ。

 そんな二人に挟まれ、慰められているのはなんとも……情けない気がする。

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