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目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~  作者: 白い彗星
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
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第71話 現れたキミはまるで妖精



「……そうですか」


 どんな部活に興味があるのか。達志の答え「運動系」と聞いたリミの反応は、それはそれは残念そうであった。

 それでも無理に調理部を勧めないあたり、達志の意思を尊重してくれているのだろう。


「さてさて、まずは、と……」


 下駄箱から外へと出て、まず始めに、これから見学しに行く部活をどこにするか考える。

 空は晴天で、絶好の運動日和だ。太陽の日差しを真正面から浴びていると、それだけで日焼けしてしまいそうだ。


 そもそも今の達志は少し白いくらいなので、焼きたい願望もあるのだが。女の子ならともかく、男なら少しくらい焼いてみたい。


 焼く……泳ぐ人ってよく焼けるイメージがあるし、水泳部もいいんじゃないかな。達志の中の勝手なイメージと、水泳部=水着と若干以上の下心が浮かんだ時だった。

 足元に、なにかの球が転がってきたのだ。


「うん? ……これ」


 足にぶつかった球を見て、達志はそれを拾う。手の平に収まる程度のそれは、達志にも見覚えがあるものだ。握ると弾力もある。

 それは、テニスのボールだった。それを拾い上げ見つめていると……


「あっ、すみません! ボール転がっちゃって!」


 察するに、このテニスのボールを取りに来たのだろう。女の子の声だ。

 声の主を確認するため、達志は顔を上げて正面を見る。……瞬間、頭が真っ白になり、体が固まった。


 ……美しい金髪が、達志の目の前で風になびいたからだ。

 それは宝石のように美しく、この世のものではないように思える光景。達志はしばし、言葉を失った。


 ちょうど、達志の正面に位置する空に太陽が浮かんでいるため、後光が差している。

 髪が輝いて見えるのは後光によるものか、それともあまりのインパクトゆえ達志の中でそう見えているだけなのか、はたまた別の要因なのか……それはわからない。


 だが、間違いなく目の前の髪……いや人物は輝いていた。少なくとも達志にはそう思えた。


「……あのー?」


「はっ」


 あまりの衝撃に、思わず固まってしまっていたが、話しかけられてようやく戻ってくる。

 見れば、目の前の人物は笑みを浮かべながらも、困ったように眉を下げているではないか。いかんいかん。


「あ、あぁごめんごめん。ボール、だよね」


 目の前の人物のその目的は、今達志の手の中にあるテニスボールだ。

 それを差し出すと、目の前の人物……金髪を揺らす少女は、嬉しそうに手を差し出してくる。


 その白い手の上に、ボールを落とす。


「ありがとうございますっ」


 手に落としたソフトボールは、瞬間軽く弾む。それをキャッチした少女は、ほぅ、と一息。

 吐息すら、一つの芸術品のようだ。


 思わず見惚れる達志は、少女の顔が……瞳がこちらを向いたことに気付く。ただ見つめられているだけだというのに、まるで吸い込まれてしまいそうな感覚があった。

 そんな達志の心境を知るよしもない少女は、花が咲いたようににっこりと笑い……お礼を告げる。


 鈴のように透き通る声。

 あぁ、見た目だけでなく声まで綺麗だな……と思った達志は、思わず……


「……妖精だ」


「……はい?」


「あっ」


 目の前の少女を、そう評した。また口をついて出てしまった、ととっさに口を押さえるが、もう遅い。


「えっと……まあ確かに、妖精って表現は間違ってないと思いますけど……」


 だが少女の反応は、思いの外普通のものだった。むしろ、どこか納得の色を見せている。


 というのも、少女が自分に絶対的な自信を持っているから、自分のことを妖精と評した……というわけではない。

 それは、己の種族による呼び名として、間違ったものではないからだ。


「……?」


 輝くような金髪はおそらくロングだろうか。それをうなじ辺りまで上げて、一つにとめている。体を動かす際、髪が邪魔にならないようにしているのだろう。

 瞳は宝石のようなエメラルドグリーンで、本物の宝石なら盗まれてしまうんじゃないかと思えるほど。

 女性にしては背が高く、達志とそう変わらない。


 白い肩出しのテニスウェアは、まるで少女の清廉さを表しているかのよう。

 露出した腕や脚は白くありながらも、健康的に日焼けしており美しさを引き立てている。


 白い羽根くらい生えていても、まったく不思議じゃないと思えるほどの美しさ。それはもはや芸術品だ。リミとはまた、違った美しさの持ち主と言える。


 そして……少女の印象とは別に、達志が彼女を『妖精』と評した理由が、長い髪から覗く、尖った耳だ。それは達志含め、元々この世界の人間の中にはいない。

 だとしたら、異世界人。そして、異世界人で金髪、白い肌、緑色の髪、尖った耳という特徴は、一つの種族を思わせる。


 その容姿はまさしく、エルフ。実際に妖精とも呼ばれる、ある意味異世界ものお約束の種族であった。


「え、え……エルフ?」


「は、はい……そうですけど」


 驚愕する達志に動揺するエルフ少女だが、そんなもの達志は気にしない。

 この衝撃は、もちろん少女の美しさもあるが……一番の衝撃は別の所にある。なにせ……


「そうこれだよこれ! スライムとか頭の変な中二娘とか不良優等生とかゴリラとか……そんなんばっかじゃなくて! 俺が求めていたのはこれなんだよ!」


 エルフだなんて、これまで目にしたことがなかった。街中でもだ。

 異世界っぽくなったこの世界で、ようやく身近にザ・異世界が現れたような気がする。


 無論、リミら獣人も現実とはかけ離れたものではあるが……『エルフ』というのはまた、特別な意味を持つ。

 ファンタジーもので一番二番に思い浮かぶのが、間違いなくエルフだろう。

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