第46話 私のすごいところ見ていてください!
これから、魔法の授業だ。
「ちなみに、オレも使えるぜ。魔法」
「へぇ、何属性の魔法?」
「見た目通りのさ」
頭上に乗るスライムも、魔法を使うことが出来るという。
見た目通りの属性の魔法を使うというが、見た目通りと言うならば……
「ってことは、水属性か」
水のような見た目である、水属性で決まりだろう。
「残念、土属性だ」
「見た目通りって言ったよな!?」
スライムという見た目から確実に水属性だと思ったのだが、実際には違ったらしい。
水どころか、想像もつかない土属性だと。
見た目通りの属性だと言ったその発言を、一から見直してほしい。
「お前はいつも、俺の斜め上をいくな」
初めて会った……とはいえ数時間前だが、その時から達志の中でのスライム像は、いろんな意味で崩れていっている。
スライムなのにヘラクレスという名前然り、見た目通りの水魔法の魔法かと思いきや見た目とは全く異なる土属性の魔法を使うこと然り。
あとクラス内で、結構親しまれているということ。
雑魚キャラっぽいからって、いじめられてなくてよかった。
「あ、じゃあ俺もみんなといれば、魔法が使えるようになるってことだよな」
リミに、ルーアに、ヘラクレス。これだけ魔法を使える人に囲まれていれば、自分だっていずれ使えるようになるはず。
達志は、浮かれていた。
「まあな。タツみたいな奴は他にも居るが、基本的にやることは同じさ。
実際に魔法が使われてる場面を見て自分の中でイメージするもよし、魔法を使える奴に教えを乞うもよし、ただただ見て知識を高めるもよし。
……ま、人それぞれだわな」
「自由意思尊重ってことか」
授業とはいっても、自由時間に近いかもしれない。
ひとまずは、みんなの様子を見ていよう、初めてだし。ふと、達志の頭の上で、ヘラクレスは体から生やした手で、達志の頭をパシパシ叩く。
「タツ、そろそろ着くぜ」
「ん、おう」
ヘラクレスからの呼びかけに、達志は視線を前に。
道は、みんなについていく形だが……廊下から一旦外へ。下駄箱から、靴は上履きのまま少しだけ歩いていくと、目の前には巨大な建物。
達志の知るものとはやはり、大きさが段違いだが……その場所に建っていることを考えると、そこは体育館のはずだ。
ぞろぞろと、クラス全員が体育館の中へと入っていく。
そこは広々とした空間で、銀色の空間に包まれていた。壁、天井、床……それらが銀色に施されている。
体育館というよりも、まるで何かのトレーニングルームのようだ。
「ここが……」
「へへ、驚いたみてーだな」
ここなら、魔法をぶっ放すにはおあつらえむきの場所だ。
ちょっとやそっとのことではこの建物は壊れない……というのは、見るからに頑丈そうな内装を見るに、一目瞭然だ。
魔法実技をこの建物で行っているのなら、そのことは考慮されているはずだし。
「タツシ様タツシ様! 私と一緒にやりませんか!?」
室内を見渡していると、ルーアと言い合いをしていたはずのリミが、ぴょんぴょん跳ねながらやって来る。マジでウサギだな、と思う。
その後ろから、ルーアが歩いてきているのが見えた。
「一緒にって……俺、魔法使えないどころか今日が初めてだから、おとなしく見とこうと思ったんだけど」
「えぇ、ですから! 私を見ててください!」
「ヒューゥ」
お誘いはありがたいのだが、リミの迷惑になるのではないか。そんな不安を、リミは関係ないとばかりに振り払う。続いた言葉に、ヘラクレスが茶化すかのように、口笛を吹く。
口笛が妙に上手い。
「まあ、どうせリミの魔法見たかったしな。そうするよ」
「やった!」
達志の返事を聞いたリミは、それはそれは嬉しそうに笑っていた。
それから、少しみんなから離れる。周囲に人がいないことを確認し、リミは深呼吸を繰り返す。
そして……
「せい! えい! えいや! せいや!」
広々とした空間に響く、掛け声。それに呼応するように、次々と床から氷の柱が生まれる。
やや緊張感に欠ける掛け声だが、それによって生まれる氷の柱は素晴らしく、そっして恐ろしくもある。
あんなのに貫かれたら、人体など粉々だ。
「これがリミの魔法かー。確かにすげーや」
その様子を、少し離れた所から見物する達志。氷の柱を生み出している張本人リミは、まるでダンスでも舞うが如く、鮮やかな手口で魔法を使っている。
それも、ただの柱には飽きたらない。
「どっせい! ……ちらっ」
ひときわ太い氷の柱が出来上がり、その表面には、先端の尖った小さな氷の柱がいくつも生まれる。
言うなれば、それはまるで、氷のサボテンのようだ。
「あーらよ! ……ちらっ」
次の瞬間には、氷のサボテンは雪に変化し、まるで花を散らすように弾けて消える。
弾かれた衝撃により、辺りには雪が舞い、幻想的な景色を醸し出している。
そんな光景を生み出しているリミは、一つ一つ行動を起こす度に、体育座りにて見学している達志に、ちらちらと視線を向けている。
まるで、「どうぞ存分に私のすごさを見てください」と言っているかのようだ。




