22,水の大精霊との契約〔1〕
帰ってきてから10日ほど経って、土の大精霊が約束通りやってきた。
「おまたせ、水の大精霊ちゃんを連れてきたよ」
巨大モグラの隣には、大きな白蛇がいた。「彼女」と言っていたから、水の大精霊は女性ということなんだろう。
「お待ちしておりました。まずは土の大精霊様にはこちらを」
レイトが土を持ってきた。あれからさらに改良を加えた土だったが、改良すれば味がよくなるのかは実はよくわからない。
「おおおおおおおお」
モグラはそこらへんを激しく飛び回っている。たいへんやかましい光景だ。巨大ハンマーでモグラ叩きでもしてやりたくなる。
しかし、この反応なら間違いはないと思う。
「いい、すごくいい。気に入ったよ。予想の斜め上をいってるよ。それじゃあ、いろんな植物の件はこっちの精霊に頼むといいよ」
モグラがそう言うと、小さなモグラが現れた。一般的なモグラの大きさだ。土の精霊も大精霊もモグラで統一されているようだ。
「初めまして、土の精霊です。今後ともよろしく」
「あ、どうも」
この精霊に言ったら、時間をかけていろんなものを持ってきてくれるらしい。
報酬は土であり、土がなくなったらふて寝するようだから、気をつけなくてはいけない。
「それで水の大精霊様にお願いなのですが、こちらの愚息、カーティスと契約を結んでくださいますでしょうか?」
「うーん、そうねぇ……」
けだるそうに返事をする。
おや? 流れがちょっと変わってきたか?
「そうねぇ……。どうしようかしらねぇ……。私と契約してた人って今いないから、私って結構貴重なんだよね」
「そんなセコいことを言わないでさ、契約してやりなよ」
「あんたは土をもらったからいいけど、私はそうじゃないしねぇ……うーん」
とてもめんどくさい性格のようだ。
事前にモグラと相談をしておいてよかった。どこまで効果があるかはわからないが、水の大精霊と交渉してみよう。
「実は水の大精霊様に差し上げたいものがございます。こちらを……」
「んー、何その濁った水は……。ん、これは…………あらやだ美味しい! 何よこれ、いいわね、好きよ、この味」
この世界の大精霊は美味しいものに弱いという設定のようだ。
川上さんがヒロインは大精霊と契約する際に渡していたものがあって、それによって気に入られて使える魔法が異なると言っていたが、渡すものといったらどうせお腹に入るものだろうとは予測がついていた。
子爵領の祠でモグラと別れる際に、水の大精霊の好物を訊いておいたのだった。
「美味しい水」という答えが返ってきたので、なかなかそれは難しいと思った。美味しい水といっても綺麗な大自然の水だろうか、山水だろうか、湧き水だろうか、ろ過した水だろうか、それを分析したり採取する時間もない。
「待てよ、水というか飲み物として考えたらいいのか?」
それですぐに用意をしたのは麦酒、すなわちビールだった。




