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Verkleiden wir sich!  作者: meiro
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Kapitel 2 “Hölder” Szene 3

「オイタロス先生はご在宅でしょうか?」

 景気の良さそうなインターホンを押し、応答した男性に要件を話す。

「あぁーあのアルトマイヤーさんの息子さんね、要件は聞いているよ、では門を開放しますので、どうぞ上がってください」

 お邪魔します、と少しせわしなさそうにヘルタはお辞儀を下げ、玄関先に腰を下ろし、ローファーを脱ぎ、鞄を下ろす。

「あぁーどーもー私がオイタロスだ。きみの父とは以前からお世話になっ……えええええええええええっっ!」

 赤髪の美少年の容貌に遅まきながら驚いてしまう。

「あ、いつも父がお世話になっております、息子のヘルタ、ヘルタ=アルトマイヤーと申します。本日は父がオイタロス先生にお借りしていたというハイドン交響曲のレコードの返却に来ました」

 教授の反応には微塵も気には留めず、鞄の中からごそごそとレコードを取り出す。

 その包みは、ピンクと赤のストライプの包装紙で包まれていた。

 決して好色家ではないが、肯定的に捉えられる人間だ。

 オイタロスはそのシチュエーションに、雷を打たれたような思いになった。

 目の前にいるのは、顔貌はどこからどうみても女子高生、いや少し大人びた一人の女性だ。

 胸元からほんのりとラベンダーの香りを漂わせ、真摯で一途な向学の精神を惑わせた。

 生理現象ではあるものの、権威あるグレートヒェン大学の教授は、友人の息子を対象に勃起させた。

 ふと、彼の父親が何の気無しに呟いた、山の上の屋敷で少年の給仕を募集している件を思い出した。 

(まさかあいつ、あのろくでなし野郎、私だってあの伯爵の事はよく知らない、黒い影があるのは確かなあの伯爵は怪しすぎる。そもそも少年に限定する辺り、非常に気持ち悪い。それをまさか、鵜呑みにする奴が……)

「これで要件が済んだようですし、僕はそろそろ帰らせて頂きますね」

 ヘルタは深々とお辞儀をして踵を返し、玄関のノブに触れた瞬間、

「ちょ、ちょっっとちょっっと待ってくれ!!!!!!」

「やぁっ!!!!」

 肩を掴まれたヘルデルの予想外の敏感な反応に、オイタロスは少し驚きながらも、話を切り出した。

「ヘルタ君!他でもない君にしか言えない事なのだが……実はね、兼ねてから、知人の屋敷でメイド募集の話があるんだ、それも条件が物凄く良い、君にしか出来ないうってつけの話があるのだが、急な話で申し訳ないが…………ど、どうだね?」

 鼻息の荒いオイタロスは自分が何を言っているのか、百も承知だった。

 目の前にいるのは、まだ未成年で、しかも女装少年である。

 お互い初対面でアルバイトどうですかなどと、未成年をかどかわす企みをもった男にしか見えないだろう。

 葛藤の価値は、ヘルタの艶やかな美貌の前では簡単に陥落した。

 ほっそりとくびれた腰。

 プリーツスカートから覗くなめらかな太腿。

 余分な脂肪を感じさせない腿を彩る滑らかなラインが眩しいストッキング。

(こ、この僕に、さ、さささささささささささささささささ触るなんて……気の触れた奴……気持ち悪い……う、嘘泣きして吹聴してやろうか……ハァッ……こ、この気ちがい、どうしてやろう……)

 心の動揺を落ち着かせながら、顔を真っ赤にしてうずくまる。

 いかがわしい、非合法的な勧誘を聞いて、非常に憤りを感じる。

(僕を安く見積もるな、このクズ、クズクズクズッ……未来永劫貶めてやる……ストッキングを破いて外に出て、泣きながら警察に駆け込んでやろうか……)

 盲目的な天啓を信じる人間は弱い。

 全てを肯定的に、仕組まれた運命だとしても希望を持って踏みしめる。

 二人の利害の一致。

 サディスティックな精神と義憤心を燃え上がらせた美少年にとって、等身大の、精一杯の虚勢。


「い、いま貴方が私にしたことは……水に流しますから……あ、あの、今言った話、もう少し詳しく聞かせて貰えませんか?」


 こうしてようやく、ヘルタは丘の上に聳え立つヴェルニオー伯爵様の元で『メイドさん』として働く運びとなった。

 ヘルタ自身、今後の運命など知る由もないように、その容貌はヴェルニオー伯爵から寵愛されるのには十分過ぎる程の素養の持ち主であることを彼自身は知るはずもない。

 そしてその屋敷では、他の二人の『オトコノコ』との出逢いが待っていた。

 いづれはヴェルニオー伯爵様から学費援助を頂き、第一志望の大学に通いながら、他の二人の『メイドさん』の裏方に周りつつ、財産管理、資産運用といった高度な学を必要とする事務を任され、『メイドさん』でありながら会計事務のスペシャリストとして、次第にはブランデス内外にその噂を轟かす『オトコノコ』として成長していくのだが、 その話はまた今度の機会にさせて頂くことにしよう。


 Verkleiden wir sich!

 Kapitel 2 “Hölder”

 Das Ende.


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