Kapitel 1 “Gironde” Szene 4
「はぁ……」
(何だよ、勝手なお節介になっちまったじゃねーかっ、オヤジのバカヤロウ……)
照れ隠しの溜め息と共に太ももの筋肉が脱力し、ワックス掛けして間もないタイルの床にへたりと座り込む。
季節外れの向日葵が大輪の花を咲かせるように、心配性の少年を励ますかのように、まぶしい浮かべている。
「でさ、シュバ」
「よ、良かったじゃんよっ。これでオレももう一安心、ジロンドの進路も決まってこれにて一件落着ウッッッ!!って、とこかな」
戦地に赴く若人の如く胆を据えて臨んだ告白、懺悔の内容。
ほんの数分前の出来事を見事綺麗にさっぱり忘れている。
「まぁオレが言いたいことはよっ……勝手にオレのメイド服なんて想像してんじゃねぇえええええええええっっ!」
「げぶしっっっ!」
ジロンドの華麗なる右腕アッパーがシュバイニの顎にクリーンヒット。
「あと、オレの裸エプロンなんか勝手に想像すんじゃねぇえええ気持ちわりぃいいんだっつーのっ!」
「がぶちっっっ!」
(は、ハダカなんていってな……)
「パジャマも絶対いらねぇ! い、いらねぇからなっ! し、心配してキレーなのとか持ってくんじゃねーぞっ!」
膝を落としたシュバイニに容赦なく、左、右の華麗なステップによるシャイニング・ウィザード。
「最後に……お、おおオレのコトをドサクサに紛れて『嫁ぐ』なんて言葉を使ってんじゃねぇええええええええええええええええっっっ!」
「はんむらびっっ!」
ぎゅうっと優しく締め付ける、白い妖精による贅沢なギロチンチョーク。
意識が遠のき世界が光に包まれる最中、愛を告げた一人の少年に三つの幸運に恵まれる。
一つは、『お風呂に一緒に入ること』に反抗しなかった事。
親友とバスルームでいちゃいちゃ一時間、泡だらけの浴室で肌を滑らす光景を、どれほど切望しただろう。
二つ、ギロチンチョークで照れ隠し精一杯の中で、男子生徒なら当たり前だがジロンドの白いブラウスから、小さな小さな、しかしそれは確かにジロンドの眩い銀髪と匹敵する輝きを放つ、オトコでもオンナでも産まれながらにして胸元に付いている『あの記号』が確かに見えた事。
三つ、『オレの気持ち』への返答を、荒々しいボディランゲージで自信が確信に変わった事。
(コイツ、いっちょまえにはずかしがってやんの……ヘヘッかわいい……)
制服から垣間見えた『オトコノコ』の魅力と刺激。
たとえ千キロ離れた土地で暮らす事になろうとも、赤い糸はいっそう強く紡がれる。
悩みを突き抜けて歓喜に到る放浪者、有名な子爵の息子が恍惚の表情を浮かべ廊下で失神した事件は今でも全校生徒の間で語り草となっている。
こうしてようやく、ジロンドは丘の上に聳え立つヴェルニオー伯爵様の元で『メイドさん』として働く運びとなった。
ジロンド自身、今後の運命など知る由もないように、その容貌はヴェルニオー伯爵から寵愛されるのには十分過ぎる程の素養の持ち主であることを彼自身は知るはずもない。
そしてその屋敷では、他の二人の『オトコノコ』との出逢いが待っていた。
いづれは一流シェフ顔負けの料理の腕を振るい、また少しの粗野で乱暴な性格というギャップにより、伯爵様とそのお客様達を大いに喜ばせる一人の『メイドさん』として、ブランデス内外にその噂を轟かす『オトコノコ』として成長していくのだが、 その話はまた今度の機会にさせて頂くことにしよう。
Verkleiden wir sich!
Kapitel 1 “Gironde”
Das Ende.




