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Verkleiden wir sich!  作者: meiro
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Kapitel 5 “der Unfall” Szene 9

「どらどら、私のジロンドちゃんは」

 空腹ながら千鳥足の伯爵はノックも無しにジロンドの部屋に入り込む。

「まあっ、病人相手に敬意が足りませんこと!」

 フェルメールの描いたターバンの少女の様ないでたちの看護士がぷりぷりと怒っている。

「あ~君は、そうかそうか後できっちりと相手してやるからな、な! それて息子の容体は。おおっとワシの下腹部について聞いているのでは無いぞ断じてな!」

「有り得ないわね……聞きましたわよ、こんなに美しい少年が無理矢理ここで働かねばならないって! 貴方様の様な地位を持つ賢者が何を企んでいるのです、世間での素晴らしい風評からはとても考えられませんわ!」

「なんだ君はメスか下らん。いつもの男娼奴隷が取り込んで来ていると思ったら、単なる普通の看護士じゃないか。いや申し訳無かった、詳細は後で来る執事にでも伝えてくれ。その分ではせいぜいのぼせただけだろう。うん済まなかったな、ではな」

 そそくさと部屋を後にする。

 

「う、う~ん……み、皆に謝らなきゃっ……マズイんだぜっ……」

 ベッドからのそのそと起き上がろうとするジロンドを馬乗りになって押し倒す。

「ねぇ、あなた」

「はぁ」

「たまたま担当が非番だったから私が来たけど。貴方こんな所にいたら人生を失うわよ」

「ええっ」

「むさ苦しい男だらけで怪しい屋敷だと思ったけど。簡単に話すと、貴方数週以内に人生の厳しさ、辛さ、ドス黒さを味わうことになるわね、このままじゃ」

「な、なんだよっっ! 大人しく介抱されてりゃ勝手なこと言いやがってっ、失礼だと思わねーのかっ」

「分からないの、あの伯爵は世間で尊敬されてるみたいだけど、私からしたら唯のケダモノね。教育というものを全く心得ていない。あ、本職は保健の先生なのよこれでも。貴方位の子供達に相談を受ける事が仕事なのよ」

「なんつーか……オレみたいなも看護しなきゃなんて、大変っすね、忙しそうっすね」

「何言ってるの、貴方は今すぐここから出て、啓発的な教育を受けて、お友達を作って楽しい学生生活を送らなきゃいけないの、これは権利ではなく義務なのよ!」

「……あの、さぁ……そこのカバンの底にあるはずのスポーツドリンク、取ってくれねーかなっ。ケツ重いし顔もちけーしっ。ちょっと落ち着こうぜっ」

 放たれた眼光は反抗のしるし。

 しぶしぶと探し出し、擬音を交えながら固い蓋をこじ開けぶっきらぼうに差し出す。

「あんがと」

「ヴェルニオーさん、どうやら数年前、州の教育委員会の代表理事を務めていた時期があったのよね。不謹慎だけど、どんな人なのか楽しみで……ああ、私の方が失礼な事してたのかしら、何も知らず思い込みで決めつけて……」

「うん、よく分かんねーけど、飲みなよ。オレもさっき知り合ったようなもんだけど、そんな悪いオッサンじゃねーって。まぁ詳しい事は言えねーけど、もう後には引けないんだよね。まぁアンタは結構潔癖っつーか、生徒からしたらカタブツって思われちゃうタイプだね」

 一リットルドリンクの三分の二程度まで一気に飲み干す。

「ぷっふぁー! なぁ、夢が無い子供だっているし、友達がいなくて強引に席をくっつけてご飯食べたり、順調そうな学生生活でしたって親にアピールしなきゃいけないヤツだっているんだぜっ。アンタはなんつーか、押しつけ過ぎじゃねーのかな」

「そ、それは違うわよ、誰も彼も子供達に責任を取らないからこそ、教師をはじめ良識ある大人たちが使命を持って子供達に奉仕しているのよ! だから私はつい、その……き、君が何か悪だくみに利用され騙されているんじゃないかって、少し心配になって」

「あのオッサンが? 冗談も休み休み言えってーのっ。オレはね、あのオッサン……伯爵様に救われてんだよ。魂の救済とか、そういったレベルでなっ。オレの母さんも妹も、今現実と全力で向き合って戦ってんだよ。毎朝祈ってるし母から貰った聖書も毎朝読んでいる。出来る事は全てやってる。第一オレはアンタの学校の生徒じゃないんだ。オレじゃなく悩みに悩んで死にたいって毎日死にそうになってる奴を助けてやんなよ。まぁオレがすっぽんぽんで逃げ出すような事があれば助けてほしいけどさっ。で、あれ何でオレパジャマ姿なんだ」

「それは執事が着替えさせていましたわね。様々な背景があるんでしょうけど、でも現実、私じゃどうにも出来なさそうね。確かに得体の知れない不気味な伯爵と喧嘩なんてしたくないし。そうね……『また来るわ』とだけ。簡単に名前だけ教えておくわ、皆からはボネフェルト先生って慕われる。愛する子供をここに置き去りにするのは主義に反するけれど、これ以上こじらせてもね」

 ジロンドのお腹に掛けていたウール地のブランケットを丁寧に折り畳み、果物が沢山入ったバックの上に被せる。

「アカデメイア学園中等部で養護教員をしているの。看護士の資格も持ってるけど、二足のわらじって所ね。今は退くけど、またお会いしましょう、ジロンド君」

 微笑を浮かべながら、手甲を撫でるように優しくキスをして、その場を立ち去って行った。

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