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Verkleiden wir sich!  作者: meiro
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Kapitel 5 “der Unfall” Szene 7

 エミール・フックス。 

 母とは物心付いた頃に離婚し父方の裕福な住まいで幼少期を過ごす。

 父は陸軍部隊の一曹長を務めていたが戦時中に脊髄を損傷、下半身不随で年金生活。

 戦後の資産の運用に非常に神経質になり、思春期を迎えた長男次男との喧嘩が絶えず、召使いの仲介の甲斐なく養育義務を放棄、六百キロ離れたスペインのバスク地方に隠居中。

 末っ子として愛玩動物の様に育ててきたエミールへのささやかな未練と良心の呵責。

 雀の涙程の養育費を仕送りしているものの、母を捨てた男の穢れた金など受け取れぬ! との固い信念を貫く兄弟により真実は伏せられている。


「参りましたね、これでは私共執事達全員がクビどころか、男娼として隣国に売られる事も覚悟しなければ……」

 救命救急士から聴いた病院窓口と地元警察の発する情報によると、確かに老執事の居眠り運転による軽度な交通事故、ヘアピンカーブの多さで数ヶ月に一件死傷者が出る程に有名な山岳地帯であったと確認出来る。

 それ以上に、喉から手が出る程に欲しているエミール・フックスの情報が何一つ出てきやしない。

 既に親権者とは話が付いているものの、エミールをここに引き入れた筈の末端の人物は一ヶ月程連絡が付いていない。

 エミールの父親、兄弟、伯爵様、御三家のうち一番早く耳に入れるのはどこであろう。

 彼らの逆鱗に触れてしまえばそこまで、大学時代に詰め込んだ膨大な智慧と経験をフル動員させ、差し迫った不測の事態に必死に対峙する。

「待て待て、執事ナナ・シーサンの嘘が発端とすれば良い……実際に乗っていたか、それとも最初から乗せていなかったのか、不幸にも轢いてしまったか、隠したか、ともあれ錯乱したナナ・シーサンの狂言だと……最悪、エミールを山中に埋めてしまった事にしてしまえば良い、検察が無理矢理でも言質を取ってしまえば私が非も負うことは何一つとして無い……うん、我ながらグッド・アイデア」

 電話帳を引っ張り出し、ヴェルニオー懇意の国防省長官直通の番号を探し出す。

 黒ダイヤル一つひとつ回す度に臆病な心がざわめきためらい、眼光鋭く口を一文字に結ぶ中世の騎士アントニウスの様な表情を浮かべる伯爵が脳裏に浮かぶ。

「これを踏み越えてしまえば……バレれば性奴隷生活は間違いない。いっその事退職願だけそっと忍ばせて雲隠れすれば」

 煩悶するサツキの元に、コンコンコンと慌てた様子で革靴を響かせ、息を切らした執事が入ってくる。

「サツキ様! 今しがたエミール・フックスを名乗る少年が現れました!」

「何だって!」

「まるで一週間程雑木林の中をさまよっていた様ないでたちで、全身に細かな裂傷と頭頂部に出血の痕、何より頭にターバンの様なものを身につけている以外はその、靴も無く、一糸纏わぬ全裸の姿でありました!」

「はあぁ?」

「素晴らしいです、絵画の世界ではなく現実に若いオトコノコの裸というものは!」

「貴様、今の言葉は伯爵の耳に入れねばならぬぞ。まさか貴様がエミールをキズモノに仕立てあげたのだろう!」

「とんでもございません! サツキ様、心を平穏に。いやはや私も興奮しておりましたな。とにかく大事にしてはならぬと、敷地の別館の一室を使い医師を呼び治療体制に入っております。伯爵が気まぐれを起こさなければ立ち入る事も無いでしょう」

「して、その子の容態は?」

「ブドウ糖注射と睡眠導入剤を服用させ、今は穏やかな表情を浮かべ眠っている、との事です」

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