Kapitel 5 “der Unfall” Szene 4
牡蠣の揚げ物、朝採りキャベツを添えたウインナーソーセージ、仔羊のあぶり肉、エンドウ豆、玉葱、馬鈴薯を煮込んだシチュー、香ばしいクラッカーに添えられた蝶鮫の卵。
「どうだねしかし、『腹八分目に医者いらず』なんて東洋の格言があるらしいが、オトコノコ歓迎パーティにしては地味過ぎやしないかね」
「そんな事はございません、熟慮した結果でございます伯爵様」
芳醇な椿油の香りを漂わせた黒髪の一執事が意見を挙げる。
「サツキ、お前の甘いマスクに免じ全てを任せたがしかし、もうちょっとこう、鮮魚の解体ショーに七面鳥のオードブルとか、なんかこう、『さあ諸君、朝まで呑もう!』という威勢があって良いんじゃないか? ワシの趣味を理解してない筈無いだろうに。それより貴様胸元にアクアマリンのネックレスなんかしおって……鎖骨との対比を狙っているんだろう、さっきからワシの視線を釘付けにしおって……『フフ、伯爵が鎖骨にみとれているゾ』なんて妄想で今晩のオカズにしてしまおうなんて腹だろう! これは不可抗力ではないかええ、けしからん、けしからんぞサツキ!」
「本日の正装に似合う装飾を施したまでです。眼が血走っておりますが、頓服薬はいかがなさいますか」
「そんなはだけた胸元から更に第三、第四ボタンを外し、執務中に『もうそろそろ良いでしょう、伯爵さま♡』なんて迫ってきても心の準備というものがだな、ええっこらっ!」
「お言葉ですが、食前の抗不安薬は投与されましたか? 二日前に処方されたものを貴方は何を……あらら、知らぬ間にヘルタ様の入浴タイムが終わっていましたね」
「ホントかねそうかね! あぁ~何で言ってくれなかったのっ、そこは裸の付き合いまで行かずともね、今まで染み付いた衣服の匂いをチェックするチャンスだったでしょおっ! 今日洗濯したら、うちの匂いに変わっちゃうでしょおっ! 全くお前はそういう所に気が回らない……」
「勿論存じ上げております。誠に勝手ながら、伯爵様の財を以てしてもヘルタ様の御家族を敵に回すリスクは回避すべきとの判断を下しました。要は最低限のサービス描写以外は何もしておりません。彼らの行動スケジュールはプライバシーに当たる部分を除き、最低限の御報告はさせて頂きますので」
「うるさい奴だわい、全く!」
サツキが用意した数種類の錠剤をしぶしぶと服用する。
夫婦漫才を繰り広げる最中、湯上りバスローブ姿のヘルタがダイニングに姿を現す。
「ごきげんよう、良いお湯加減でございました。ところで、この牡蠣の産地はどちらです?」
「アドリア海直送の品です。クロアチア南部のドゥブロヴニク産でございます」
「へぇ、流石ヴェルニオー様です、我が家でも直送品が手に入った記憶は無いですね」
「いやいや当然だよ、君みたいに気品溢れるいんら……インビシブルな女装少年には最高級のおもてなしをだね」
「何をおっしゃっているのか……透き通るような艶やかな素肌、そう言って欲しかったですがね」




