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Verkleiden wir sich!  作者: meiro
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Kapitel 5 “der Unfall” Szene 2

「ローマの休日だっけか、こんなんあったなぁ」

 ふさふさのたてがみを蓄えた凛々しいマーライオンの口から、浴槽にこんこんと湯水を注ぎ込む。

「手を突っ込むとどーにかなるんだっけ、知らねーけどっ」

 慣れない天蓋付ダブルベッドにふかふかの羽毛布団の誘惑に身を委ね、小一時間のうたた寝に付いたジロンド。

 目を覚ましてみても未だに太陽は沈まない。

「伯爵様より、自慢の浴室を一度体験して欲しいとの伝言です。夕食までまだ時間がありますので、散策がてら汗を流してきてはいかがでしょうか。いやらしい意味ではなくて」

 信用に足る大人たちであるかはとりあえず置いておき、廊下に飾ってある高級な陶器や絵画をちらほらと物色しつつ、大浴場に向かう。

「一面に拡がる大理石に最新型ジェットバス、サウナ、伯爵様の趣で古代ローマをイメージした洞窟風呂が用意されています。本来ならば伯爵様とサツキ様とお客様以外に使用許可は出ていないのですが、ジロンド様とヘルタ様は雇用契約上、自由に使用して良いとのお達しです。いやはや羨ましい」

「あ、なんか本当、すいません」

(この人たちの方が何倍も働いてるのに……やっぱ、ヘンだよな)

 ひと時の呵責を味わいながら、寝汗で張り付いた紺のスキニージーンズ、下着、えんじ色のタートルネックをいそいそと脱ぐ。

(ここでアイツがいれば「何でズボンから脱ぐんだよっ!!」とか突っ込むんだろうな……)

 浴槽から適温の湯水を浴びながら景色を見渡す。

 大理石のイスを動かす音が一面に響き渡る。

(ホントに大富豪じゃねーかっ、ゼータクに過ぎるっつーか……隅っこの洞窟風呂はいらねーっしょ……)

 一〇〇平方メートルを超すであろうトルマリン大浴場、周りに十個程のシャワースペース。

 手入れの届いた景色から珍しい野鳥がこちらを覗いている。

(へっ、オレにはドラム缶風呂で十分だってーのっ。ユウレイに覗かれてるみたいでキモチわりぃし、身体だけ流してさっさと着替えよっと)

 カラスの行水といわんばかりにシャワーノズルから勢い良く湯水を吹き出し、荒々しく銀髪を整髪する。

「んだこのシャンプー! ギトギトしてて、オリーブオイルを塗りたくってるみたい……ああもうっ、お泊り用のシャンプー脱衣場に忘れたし!」

 落ち着かない足取りで浴場を出た瞬間、鮮烈な画像が飛び込んで来る。

 

 髪を結わえた赤巻き髪の艶やかな美少女が、私服であろうクリーム色のホットパンツを脱ぎ捨て、全身スパイダー柄の透けたボディストッキング姿を顕にしている。

 鎖骨まで覆い隠す薄い補正下着。

 うなじから肩甲骨に掛けて白の妖艶な輝きを放ちながら、うぶな銀髪少年を誘惑する。

 鏡に映る長身痩躯の美貌にうっとりと見入っている。


 一年前、水泳の授業前、誰もいない教室で遅刻に慌てた女子生徒の着替えシーンに出くわした時のバツの悪さとは違う。

 シュバイニや男子クラスメイトから身体の細さや仕草がオンナっぽいとからかわれた時の気恥ずかしさとも違う。

 (ななななな…………なんでオンナがここにいるんだよっ! お、女湯と間違えちまったか……混浴なんて書いてなかったし、お、オレがヘンタイ扱いされちまう……やべぇっ!!)

 「ふぅ……ん……伯爵様ったら……どさくさに紛れてボクの腰元に手を伸ばすものだから……フフッ、逆手で小指の関節を捻じ切ってやろうとも考えたが……」

 上半身部分のストッキングをゆるりと脱ぎ始め、黒と薄紫の気品あるヒップハングショーツがちらり。

 眼球に焼きごてを突き付けられるように、鮮明に刻まれる。

 (やばいやばいやばいっ、おれあの人に、このままじゃコロされるっ……伯爵に追い出されるっ……)

 妻を亡くし、戦陣の先頭を切る特攻隊長の如く覚悟を決めたジロンド。

 音を立てない様に戸を閉めると、マーライオンの注水音に紛れながら、抜き足、差し足、浴場の隅の防空壕に身を潜めた。

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