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MYST REMNANT  作者: 笹上パン工房
―ガイゼン編―
7/19

第7話「夢の迷い道で」

 慎之介が霧神流の奥義習得を許されてから約二週間、ついに慎之介と快斗が勝負する日となった。時は新緑しんりょくかおる五月、土曜日の19時である。

 今はその一時間前、18時とはいえ五月なのでまだ明るく、街も人通りは多い。


 その街中で、一人の男が不吉な笑いを浮かべながら大通りを歩いていた。

 アメリカ系の白人だろうか、身長は180㎝後半ほどの長身でかなり筋肉質な体格をしているが、奇異なのはその見た目。


 髪はいわゆるモヒカンカットで緑色。

 服装はシャツを着ず素肌の上にびょうのついた真っ黒なレザージャケットを羽織り、下半身はこちらも鋲やチェーンのついたスチームパンクズボン。

 男はポケットに両手を突っ込み街中を我が物顔で歩いている。


 それだけなら奇異きいとは言え反骨心はんこつしん旺盛おうせいなパンクミュージシャンと見られないこともないだろうが…通り過ぎる人々はみな恐怖を感じて彼を見る。

 彼の顔には、額から口端まで、刃物の傷跡のような大きなあざがついていた。

 いやそれだけではない、他にも彼の顔、それに露出して見える彼の上半身からも大小の傷跡が見える。


 人々は恐怖を感じ彼を避けて通り、彼の周囲からは人がいなくなっていた。

 しかし彼はそれを何も気にしないかのようにまた歩いていく。

「ああ、楽しみだなあ。ガイゼン、早く会いてえよ。

 会って切り刻みてえ、殺人鬼の悲鳴を聞きてえなあ」

 彼…仲間内からは『クラッシュ』と呼ばれている男は、誰に言うでもなくそう独り言をつぶやいた。


 やや離れた大通りで、黒塗りの高級車が路上停車している。

 後部座席に座っている大きな体格の男はその両隣に美女をはべらせ、がはは!と笑っている。

 男はスキンヘッドで寺の住職のような格好をしているが、その袈裟けさはたくさんの宝石が飾り付けられてぎらぎらと輝いている。

 しかも車内には彼が飲んだと思われる高いシャンパンが散乱しており、これほどまでに生臭まなぐさ坊主ぼうずという言葉が似合う人間はいまい。


 その高級車の中で運転手が電話を終え、生臭坊主に向けて事の経緯を説明する。


金豪きんごう様、ガイゼンと思われる男が宿泊しているホテルがわかりました。引き続き監視を…」


「なんじゃあ!?まどろっこしいのう、居場所が分かったのなら火をつけい、火を!!悪鬼あっき魍魎もうりょうを清らかな炎でいぶりだしてやらんか!!」


 金豪と呼ばれた男は、坊主どころか人間として道の外れた、まさに自分こそが悪鬼魍魎のような発言をしてまた両脇の美女の肩に手をかけ大笑いした。

 運転手もさすがにその命令を監視員に伝えるわけにはいかず、監視を継続するようメールで伝え、ため息をついた。


 さらに数キロ程度離れた場所、大通りで四人の男が、一人の少年に平伏している。少年は慎之介と同じ年くらいで、背格好も慎之介よりやや低身長のようだ。

 中国人のようだが、高級ブランドのスーツに身を包み、部下の報告を興味なさげに聞いている。


「で…ホテルを出たところまではわかったものの、その後のガイゼンの居場所はまだつかめないというわけだ。ふん、そろいもそろってこの無能どもが」

 少年は平伏している部下には目もくれず、スマホをいじりながら侮蔑する。

 道行く人々は、なんだなんだ、なんかの撮影か?ユーチューバーかな?カスハラかな?と彼らを見てざわざわしている。

 中にはスマホのカメラで写真を撮る者もいる。

 大の大人が、大通りで年端も行かぬ少年に頭を下げ平伏へいふくし、道行く人がそれを見て笑っているというのは耐えられない屈辱でもあった。

 それを知ってか知らずか、少年がさらに侮蔑ぶべつする。


「貴様ら無能どもの下らん報告など聞いている時間はないのだ。

 私が聞きたいのは、ガイゼンを発見したという報告のみだ。

 殺した、でも構わんが…まあ貴様ら無能にそこまでは望むまい。

 しかしなぜ貴様らはそれがわからんのだ?

 貴様のこの頭に詰まっているのは脳みそではなく生ゴミなのか?

 文字通りの無能なのだな、貴様らは」


 と少年は、平伏している四人のうちリーダーらしき男の頭を靴のまま踏みつける。

 既定の定期報告を届けに来ただけのリーダーは、申し訳ありません、直ちに…と頭を下げたまま発言するが…。

 同じく頭を下げていた他の一人の堪忍袋の緒がついに切れたのか、ふざけるな!いつもいつも見下しやがって!!と叫び少年に殴りかかった。


 が…少年はスマホを見たままその拳をあっさりとかわし、逆に殴ってきた部下の胸に拳の一撃を加えた。

 部下は一瞬で意識を失い、その場に倒れ込む。


 ほかの部下たちはすぐにその男の容態を確認するが…死んではいないものの気絶している。心臓震盪しんぞうしんとう心室細動しんしつさいどうもあるかもしれない。かなり危険な状態だ。


「ふん。緊急時ゆえ、殺すのは勘弁してやる…今のところはな。

 しかしガイゼンを発見できなかった時は、命はないと思え。

 その男だけではない、貴様ら四人まとめてな」


 とまたスマホをいじりながら少年は部下たちに吐き捨てる。

 リーダーは直ちに!と言い立ち上がり頭を下げた。


「見つけられなかっただけではない。

 クラッシュや金豪、そして滝魔に先を越された時も貴様ら全員に罰を与える。

 特に滝魔には先を越されるな。私は幹部の中でも特にアイツが大嫌いだ。

 その辺を考えてよく行動しろ」


 リーダーは倒れた部下を抱えながら、ははっ!!と返事をし、すぐに散開した。


「無能、無能、無能ばかりだ。なぜ私の部下には無能しかいないのだ?

 まったく、私や井上さんという優秀な部下がいるソーマ様が羨ましい限りだ」

 周囲の人々がざわついているのも気にせず、中国人の少年…空燕くうえんはそう笑って前髪を手で流し、またスマホをいじりだした。


 さらに離れた臨海コンビナート。

 バイクをかたわらにした若者が集まり、大集団が集会をしている。

 その中のリーダーと思われる青年が、大声で部下たちに声をかけた。


「いいかぁ!!俺たちが狙うのはとんでもなくあぶねえ殺人鬼だ!

 決して1人で行動すんな、4人一組で行動しろ!」


「「「ウオオオオッッッス!!」」」


 という大勢の部下の返事。リーダーの青年は金色に染め上げたマレットヘア、襟足えりあしは肩に届くほど伸びている。

 それ以上に奇異なのはそのファッションだった。

 昭和後期の暴走族のような白に染め上げた特攻服を着ており、背中には金の刺しゅうで『殺滅舞霊’Z 初代総長 黄金地獄之滝魔』と文字が入っている。

 袖など他の場所にも『天上天下唯我独尊』『神殺邪滅 我真人也』など入れ、部下たちも特攻服にアイパーやリーゼント、サングラスにスキンヘッドというまるで集団ごと昭和から令和へタイムスリップしてきたかのような錯覚を受ける。

 リーダーの青年…滝魔たきま―本名、中条ちゅうじょう琢真たくま―はさらに部下に号令し、一目見ただけで車検に絶対通らないと確信できるほど過度すぎる装飾をほどこしたバイクに飛び乗った。


「しゃあっ!行くぞ!殺滅舞霊’Z 、麗泥レディゴー!」


「「「神殺邪滅しんさつじゃめつ仏契ぶっちぎり !!」」」


 そう叫び彼らは一斉にバイクを走らせる。


 最近巷を騒がせている時代錯誤な大規模暴走族、殺滅舞霊Zデッドブレイズ …彼らもまたガイゼンを狙い動き出したのである。

 そしてその構成員には、慎之介に敗れ花宮高校を退学し、しかし家に帰ることもできず、堕ちるところまで堕ちた柴崎嘉一も末端に加わっていた。


 クラッシュ、金豪、空燕、そして滝魔。

 彼らは巨大な反社会的組織『IDM』の幹部衆である。

 既にガイゼンの日本再入国を察知し構成員にマークさせていたものの、数週間前にマードックがガイゼンにあっさりと敗北したという報告を受け、ついに幹部衆がガイゼンを殺すため本腰を入れて動き出したのである。

 なぜガイゼンがIDMを狙っているのか、それは彼らにもまだ謎は残っているが、それは関係ない。

 捕えてから吐かせてもいいし、なんなら殺してしまえば謎が残ろうがさしたる問題もない。

 彼らはそう考えていた。


別の国道、自らの愛車『レクサスLX』にてカーラジオのニュースで通行止めの情報を聞き、大輔が愚痴を言う。

「集団による暴走行為で道路一部通行止めだってよ。

 まったく、暇な奴らもいるもんだな」

 助手席にはお菓子を食べ続けている詩音、後部座席に緊張した面持ちの慎之介を乗せていた。


 今日は慎之介と快斗の闘い…いわば非公式ながら快斗の引退試合だ。

 場所はモーゼス道場。約束の時間は19時で、今は18時半…。

 ここからそう遠くはないため間に合わないことはなさそうだが、あまり遅れて到着したくはない慎之介が大輔に提案する。


「姉さん、大輔さん。なんだったら僕、走っていっても…」


「駄目だ」


「ダメに決まってるだろ」


 と詩音と大輔二人でその案を却下する。

 それもそのはず、詩音は強敵・清原快斗との闘いで慎之介の成長具合を確かめたいし、大輔はそれに加えてプロレス界の超新星と呼ばれる清原快斗の戦いを見たいのだ。

 この二人が一斉に反対するのであれば、それにはさすがに逆らえない慎之介が窓の外を眺める。


 奥義伝授が認められてから、慎之介が身に着けた、あるいはすでに身につけていた奥義はたった二つ。

 霧神流古武術の奥義は全部で12あり、それぞれが十二支をモチーフにして奥義を定められている。

 もっとも干支のうちの奥義はすでに失われており、現代まで伝わっているのは11。

 そのうちひつじの奥義は、実は物心ついたときからすでに教えられていた。


 その奥義とは『柔睡じゅうすい』。

 非戦闘技で、通常以上に深い睡眠状態になり、体力の回復や怪我の治癒が普段の何倍もの速さになるという地味だが非常に便利な奥義である。

 そういえば子供のころから母や祖母に寝る前のおまじないとして安静安息のための呼吸法を教えられていたのだが、実はそれが奥義の一つだと姉の詩音に教えられた時に、慎之介は

(えっ、あれも奥義だったの?)

 と拍子抜けした。

 とはいえ、毎日の山越えを過労で倒れず健康に続けられたのも、この奥義あってこそのものだと考えると、確かに納得するところではある。

 この奥義だけは山道30分越えの伝授条件の例外なのだろう。これがまず一つ。


 そしてもう一つ、今回慎之介が詩音から教えられたのは、干支でいぬに当たる技『戌閃じゅっせん』。こちらは戦闘用の技である。

 たくさんの奥義をいっぺんに教えてどれも使いこなせないより、まずは自分と親和性の高い一つの奥義を極めた方が良いという詩音の考えにより、この技が授けられていた。

 それにより慎之介もなんとか戌閃を形だけは使えるようにはなったものの、奥義の中ではどちらかというと難易度の高い方の戌閃を完全にマスターしたとは言えず、まだまだ未熟という状態である。


 とはいえ、当たれば強力な一撃であることは間違いない。

 しかし戌閃は密着状態で繰り出す拳技。

 逆に密着状態はプロレスラーの快斗にも得意距離、むしろ望むところだろう。

 慎之介は、戌閃が間違いなくカギになる、しかし使いどころを考えなければ…。

 と逡巡しゅんじゅんした。


「おっ、見ろ。あそこに黒塗りの高級車ベンツが止まってるぞ。確か高いんだろ?あの車」

 と詩音が指差す。まさかそれがIDM幹部の金豪の車だと知らずに。

 大輔は詩音の言葉を聞いてフッと軽く笑う。


「まあ、あれもそれなりに高いが、俺のレクサス…。

 名付けて『激情げきじょうくんV3』の方が高いぞ。

 なんせこの激情くんV3は大金持ちの香田さんちのお力を借りつつ、何回もディーラーに頼み込んでなんとか実現した俺専用のロマンシングカスタム仕様だからな」

「その割にはひどい名前だね」


 大輔のその言葉に、詩音がおおっと声を上げる。

「この車そんなに高かったのか。いつも普通にお菓子とか食べててごめんな」

 と言葉上は謝っているものの、まったく気にせずに食べ続けている詩音が言う。


「それは別にいいが、こぼしたらあとで掃除してくれよ。

 …というか慎之介お前今ボソッとひどい名前とか言わなかったか?」


 しっかり聞き逃さなかった大輔が、運転しながら慎之介を静かに問い詰めた。


 同時刻、ところかわりここはモーゼス道場。

 静かに闘いの時を待ち、座禅を組んでいる快斗に、リュウ、優太、そして次藤が立ち、声をかけている。

「快斗…何度も言ってすまないが、お前、やっぱり本当に気は変わらないのか?」

 と次藤が声をかけるが、快斗は静かに、すいません、でももう決めたんですというばかりだ。


 その快斗の姿に、たまらずリュウと優太も快斗に声をかける。


「快斗、お前は何も間違っていない。

 お前が殴らなければ、俺が溝端を殴っていた。

 お前が責任を取る必要なんてない!責任を取るのはアイツの方だ!!」


「そうですよ!快斗さんは正しいことをした!

 間違ってるのは溝端さん…いや、溝端のクソヤローです!」


 同僚たちの言葉に、快斗も心が揺らぎそうになる。

 しかし、快斗は自分で自分が許せなかった。

 溝端を殴ったことではない、それ以前、溝端が逮捕された時に、クズである溝端を無実であると思い、信じきってしまった自分が許せなかった。


 快斗にとってプロレスラーとは、試合の熱狂により観客に悩みや苦しみをひと時でも忘れさせ、そして大逆転の感動と困難に立ち向かう勇気を与える存在…それがプロレスラーのはずだった。

 自分もモーゼスの創始者であり今は亡き伊沢義晴の熱狂的な闘いに胸を打たれ、親の猛反対を押し切って家出同然にプロレスラーの道を選んだのだ。


 だが先輩レスラーの溝端はまだ若い片山の心に一生の傷を残してしまった。

 そして知らぬこととはいえ、溝端を護ることが団体を護ることと妄信もうしんし、片山を疑ってしまった。

 そんな自分が許せなかったのである。

 正義と勇気に潔癖すぎる快斗だからこそ、もう退く道はなかったのだ。


 少しして、道場のドアを開けて井上が現れる。

 井上は外部の人間で、今回自分が引退することは伝えていなかったはず。

 その井上がなぜ現れたのか?不思議に思う快斗だが…。

「俺が井上さんを呼んだ。

 お前を『プロレス界の超新星』と最初に呼んだのは井上さんだ。

 井上さんがいないお前の引退試合なんてありえねえからな」

 と次藤が言う。


「どういうことだ、快斗君!怪我でもないのに引退なんて…?

 君なら間違いなく日本のトップレスラーになれる!

 いやそれどころか、歴史に名を残すレスラーにさえなれるはずだ!

 なのに、なぜ!?その若さでなぜ引退なんて…」


「すいません、井上さん。でも、もう決めたんです。俺は俺が許せないから…。

 今までよくしてもらって、本当にありがとうございました。

 この恩は、絶対に忘れません」


 井上は必死に説得するが、快斗は頑として聞き入れない。

 もしかして井上さんなら…と期待して井上に引き留めてくれるよう頼んだのだが…空振りになってしまった次藤はまたため息をつく。

「こうなったらしょうがねえ…引退試合の相手に最後の望みを託すしかねえ、か」


 その言葉を聞いた井上が、引退試合とは?と尋ねるが…。

 横で聞いていた優太が代わりに答えた。


 快斗の最後の試合、その相手。

 それは一介の高校生にすぎないが、強者で知られている高校ボクシング界の帝王澤山哲司や不良御曹司香田喜太郎に圧勝し、また溝端さえも一瞬のうちに倒し、そして快斗と認め合い、最後の決着をつけることを快斗自身が望んだ…。

 その名前は、霧神慎之介。その戦いが、これから始まるんです、と。


「霧神…?はて、どこかで聞いたような…」


 と井上は逡巡する。珍しい苗字だ。つい最近聞いた名前か?

 いや、それなら鮮明に覚えているはず。もっと昔、どこかで…と。


 井上がその名前を思い出そうとしていた時、道場の外から騒がしい声が聞こえる。


「だってすっごくダサい名前じゃんか激情くんV3って!

 大輔さんの付ける名前はそんなもんばっかりだよ!

 僕のゲームのキャラ上書きして『あいうX』とか『ライオンRX』とか付けたり!」


「なんだよ!俺のネーミングセンスにケチをつけんのか!?

 お前だってゲームの猫に『シュバルツガイスト』とか

 『シュバルツシュタイン』とか『シュバルツシルト』とか付けてるくせに!!

 猫にひどい名前を付けるな!だいたいなんなんだよシュバルツって!?

 シュバルツのなにがお前の心にそこまでくさびを打ち込んだんだよ!?」


「おい、もう着いたんだから喧嘩するな!」


 男性二人と女性一人の喧騒。

 快斗は…来たか、それにしてはだいぶやかましいな、と呟き笑みを浮かべる。


 少しして道場のドアが開き、怒っている慎之介とムスッとしている大輔、そして呆れたような表情の詩音が姿を現す。

 その三人を見て快斗が笑う。


「なんだよ、兄弟喧嘩か?」

 快斗は、慎之介から当日同行する人間をすでに聞いていた。

 自分以外には、心から信頼している姉の詩音と最高の兄貴分の仲村大輔を見届け人として連れていく、と。


 仲村大輔、すなわち拳帝。もちろん快斗も知っている。

 そんな人物と一緒に来るならば、今までの噂も、そして溝端を倒したのも嘘ではないのだろう。

 快斗が慎之介を強者と認め、そして一介の高校生を相手としての引退試合を次藤が許可したのは、それも大きな理由だった。


 その大輔を見た井上が驚く。仲村大輔と言えばその道では超有名人だ。

 拳帝、金獅子、赤き反逆のカリスマとも呼ばれ一部では伝説とさえなっている。

 その人物と親しげに口げんかするなんて、一体あの子は何者なんだ…と。

(そして霧神と言う姓…おかしい、確かに聞いたことがあったはずだが…)

 なおも井上は逡巡する。はるか遠い過去の記憶を掘り起こして。


 三人を見て笑った快斗が道場のリングに上がり、先に慎之介を待つ。

 慎之介も上着を脱ぎリングに上がろうとするが…。


「ふん、せいぜい痛い目見てこいや、シュバルツガイスト」

 と言う大輔を見て、えい、とばかりに上着を投げつけた。

 そしてそのままリングに向かう。

 大輔は舌打ちしながらも軽く笑みを浮かべ、上着を丸めて肩にかけた。


 リングで慎之介と快斗が向かい合う。

 お互いそれぞれの闘いを観た時はないが、間違いなく強者である。

 そう、両者同時に確信していた。


「よし…始めるか。プロレス界の超新星『だった』男、清原快斗の幻の引退試合だ」

 快斗はそう言い構えるが、慎之介も構えて軽口をたたく。


「悪いけど、夢とか幻とか…『だった』なんて言葉で終わらせるわけにはいかないよ。あんたはこんなところで終わっちゃいけない人間だ。

 …まあ、今回は僕が勝つけどね」


 慎之介にとっても、おそらく互角であろう人間と戦うのは初めての事である。

 ついに二人の戦いが始まろうとしていた。


「…ところで、シュバルツってどういう意味だ?」


「うるさいな!知らないよ僕も!!」


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