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人間のイメージは最初が肝心だ

 さて、狩野川の治水に取り掛かるに際して基本的には各地に派遣した代官などに仕事は投げているが、自分自身でも現地を見て、地元住民の声も聞いて回っている。


 全部の場所の指揮を俺が自らとるのは不可能なので、結局のところは指示をして実行させる必要はあるんだが、俺の指示が俺の意図と違うようにつたわっていたりすることも少なくないしな。


 もっともこれは俺がこの時代の様式というものとずれていることもあるのでなんとも難しいところもあるんだが。


 例として言えば天災が起きた時の住民の避難所として作らせている、避難所兼物資集積所が結局山城になっていたりすることだったりするんだが、この時代の食料、特に長期保存が可能な穀物や布というのは一種の通貨そのものでもあるという認識が俺から抜けているところもあったからな。


 下手すれば反抗的な住民が立てこもる場所にもなりかねないのではあるがそうならないようにするためにも、現地において住民が俺たちのやっていることをどう感じているかを直に感じる必要がある。


 要するに政治とは生活そのものであるということだ。


 堀越公方の足利政知が多くの国人の離反を招いたのは結局関東を平和にするという目的にこだわりすぎて足元の国人や民衆の苦しみを無視していたからだ。


 無論すんなりと関東の戦乱が収まれば彼の評価はまた違ったものだったのであろうけどな。


「まあ、生活が良くなれば人は従うし、生活が悪くなれば人は離れるってことだよな」


 俺がそう言うと大道寺重時もうなずいた。


「大方の国人などはそうなるな」


 この時代の幕府や守護の権力というのは本来は徴税権にあるのではなく任命権や警察権・司法権にある。


 ただ幕府はその警察権や司法権のほとんどを投げ捨ててしまったのでその権力は大きく弱体化したわけで、守護の間でも権力を強化できている者とそうでない者の差が大きくなっているわけだが。


「殿が来てから多くの者の生活は良くなっておりますからな。

 無論そうでない者も一部ではいるわけでありますが」


 風魔小太郎がそう言ってくれるのはありがたい。


「堀越公方やその重臣たちの一族の当主達は今までの権力を失ったわけだからな」


 当主や嫡男ではないその家来扱いであった兄弟や分家は取り込めるが流石に当主の一族などは取り込むのは無理だからな。


 それに直接仕えていた者などからの恨みを買うのは仕方ないが割合的には少数だ。


 そしてこの時代の人口はせいぜい一千万に届くか届かないかくらいであり、2階建て以上の家がほぼないにしても危険な地域にわざわざ家を建てるバカはそういない。


「まずは飢饉や合戦に巻き込まれて農民が逃散した地域の農地に加えて堤や道路も含めた再開発が優先だな」


「ああ、そうなるな」


 この時代の農地が荒れ果てている場所は戦に巻き込まれたり、飢饉なのに税を収めさせられた結果農民が逃げ出した場所が多い。


 伊豆の三島あたりはちょくちょく小さな争いもあったしな。


 本来ならば斯波と今川の争いで同様にあれている遠江に対しても同様に再開発をすすめるべきなのだがあちらは朝比奈や遠江今川が幅を利かせているので俺が直接的にできることは少ない。


「今は俺がやれることをやれる範囲でやるだけだな」


 ぶっちゃけて言えば人間は最初のイメージが大事だ。


 伊豆の国人や住民にとって俺が良い統治者であるというイメージを植え付けるには最初に何をやるかが肝心だ。


 だからこそ俺は、堀越公方よりはずっとずっとましだというイメージを刻みつけねばならん。


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