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狩野川の治水は一筋縄じゃ行かないかもな

 さて、治水と政治というもの密接につながっていて、飛鳥・奈良の時代では渡来人の秦氏の治水技術を駆使して湿地帯であった京は整備されて都となったりもしている。


 ただし京の都は鴨川の洪水にたびたび悩まされていたりもするわけだが、狩野川はその流路や地域の特性から治水を行うといっても簡単に行くものではない。


 三島という地名はもともと中洲の多さを示したもので、源頼朝が配流されたという蛭ヶ小島ももとは狩野川の中州の小さい島であったという話だ。


 そして沼津は富士山からの地下水と狩野川の氾濫などにより沼が多かったことに関係している。


 地名に龍とか竜、蛇とか亀などがついている地域は洪水被害が度々起こる事が多いが、島とか沼という文字があるのもだいたい同じようなものだな。


 そもそも伊豆の天城は、もとは雨木(あまぎ)でこれも雨の多さに由来しているものであるらしい。


 備中ではむしろ水不足で水争いが起こりやすい環境で困るほうが多かったわけだが水が多すぎるのはそれはそれで困るということだな。


「とりあえず地元の古老などに話を聞きつつ、動植物の名前がついている地名や島とか沼とかの水に関係する地名や草という名前がついている地名の場所は無理に開墾を進めさせないで、遊水地として使うべきだろうな」


 俺がそう言うと大道寺重時もうなずいた。


「ああ、草は(くさ)だからな。

 あまり近づかないに越したことはない」


  そして風魔小太郎もうなずく。


「よそ者があれこれ頭ごなしに言っても反感を買うだけですからな。

 声を聞くということも自由でございましょう。

 無論それをすべて聞いていては何もできなくなりますが」


 二人の言葉に俺もうなずく。


「ああ、そうだな」


 要するに草がつく地名の場合は動植物の死骸や枯れ草などが溜まってヘドロのような臭い匂いを放つ場所という意味だな。


 もっとも温泉地の場合は単純に硫黄の匂いから草がつく場合もあるし、伊豆は火山地帯なのでどちらであってもおかしくはないが。


 ちなみに興国寺城の南は浮島ヶ原とか浮島沼と呼ばれて、湿地に大小の沼がたくさん点在していると言うより中小の中洲がたくさん点在しているという方が近い場所で、それは城の防御のためにはありがたいが、江戸時代にはこのあたりはかなり埋め立てられて水田になっていたはずなので、沼のままにしておくのももったいないだろう。


 後は迷信だと思われておることにもちゃんとした理由がある場合もあるし、理由はなくとも迷信が真面目に信じられている時代でもあるので余計面倒は増えそうではある。


 実際に下手な場所で木や石を切り出してその結果として洪水やがけ崩れなどの被害を増やしても民衆の反感を買うだけだろうから、事前の情報収集はきっちりやらないとな。


 もっともきちんと管理すれば、水田は大雨のときに雨水を一時的に溜め込み、その後にゆっくり排出することができるので、いわばダムのような役割も持たせることはできるんだけどな。


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