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まずは安定を優先させつつ災害の備えなどもしておかねばな

 さて、姉上との話し合いで当面は遠江・駿河・伊豆の安定に力を注ぐことになって俺はほっとしていた。


今までの備中荏原荘や京や大阪などでは伊勢家の名前を出しておけばある程度なんとかなってきたが、駿河の守護代や伊豆の堀越公方の打倒という命令を受けた後は、伊勢という名前や朝廷や公方の指示だからという理由が必ずしも通用するわけではなくもっと直接的な実利や武力を示していかなければならないということがようやく理解できたと言うべきだからだ。


 そしてもともと比較的安定していた今川の守護領国であった駿河ですら一時は内乱状態になったわけで現状では駿河はともかく、遠江や伊豆が十分安定していると言えない現状のままに三河や甲斐へも手を伸ばすつもりだと言われたら正直俺は頭を抱えていただろう。


「今更だけど俺が京で好き勝手できたのは伊勢家という血筋の看板があってのことだったわけだな」


 俺がそういうと大道寺重時は笑っていった。


「何だ、お前さん今頃気がついたのか」


「ああ、実際だいぶ驕っていたと思うよ。

 伊豆で色々うまく行かないこともあってようやく気がついた」


「まあ、それに気がついたならばいいじゃないか。

 気が付かないでそのまま突っ走っていたら、堀越公方や太田道灌と同じことになる可能性が高いと思ったからな」


「確かにな」


 俺がそう言うと風魔小太郎が言った。


「我々風魔にとってはそれがありがたかったとも言えますが」


「まあ、これからも差別をするつもりはないさ」


「そう願いたいものです」


 それから俺は話を変えることにした。


「ああ、おそらく直ぐではないが大きな地震や野分(台風)に対しての備えもしておくべきだな」


俺がそういうと大道寺重時は重々しくうなずいた。


「確かに遠江・駿河・伊豆のような海と面している国では、起きた場合には湊の高潮や津波の被害が馬鹿にならんであろうからな」


「ああ、そうだな。

 かといって駿河や伊豆は米などの穀物栽培の農業を主軸にできる土地ではないからな」


「上方からの下りものの交易によって経済が潤っている部分が大きいのは間違いないからな」


 実際に明応7年(1498年)に発生するはずの明応大地震に対しての備えはしておかねばなるまい。


  この地震では紀伊半島から房総半島の広い地域にかけての太平洋側で被害が出ているが、揺れによる被害以上に場所により10メートルの高さにおよんだ津波による被害が大きく、震源が遠州灘付近であることから、遠江・駿河・伊豆半島西岸の津波被害は特に大きかったはずだ。


 そして津波被害が一番問題に成るのは湊で、壊滅的被害が出る可能性も少なくない。


 まあ、建物は最悪再建すればいいが人はそういうわけには行かないから、高台への避難場所の用意と避難した人間が飢えてもともとの住人たちなどと問題を起こしたりしないように食料の備蓄もしておくべきだろう。


「山間部での焼畑で稗を栽培して貯蔵できるようにするか。

 貯めたら貯めたで鼠対策をどうするかとかの問題はでてくるだろうけどな」


 俺がそう言うと風魔小太郎が言った。


「いざというときに飢えずに済むのであればそれにこしたことはございませぬ」


「ああ、確かに」


 伊豆の山中の場合、多くは山地の渓谷で日照時間が短いうえに、水が奇麗すぎるため栄養分が少なく、水温が低すぎることから水田にはむいていない。


 ワサビ栽培には向いているし、魚介類を食べる上ではワザビがあれば生臭さを減少させることができるのでワサビ栽培をある程度行うのもよいが大々的に栽培するほどではない。


だが焼き畑であれば粟、稗、藁麦、大豆、小豆、大麦などを栽培するのはそこまで難しくはない。


まあそういったものの場合は米と違って美味しく食べるには粉にして加熱する必要性があるから余計な手間はかかるが、場合によっては水車小屋を作って脱穀や製粉を水力で行うようにしてもいいだろう。


 焼き畑と言うとあとに残るのは荒れ地だけというイメージがあるが実際には木々などを焼いた土地を使うのはせいぜい3年でその後は植林して森に戻し4箇所を4年毎に切り替えて山として13年間は保全するので禿山ばかりに成るようなことはない。


 実際に切り倒した木の枝などの多くは炭にするなどちゃんと利用もする。


 焼き畑というのは意外とエコな農法なのである。


ともかく俺は災害時の対応のために普段から高台へ逃げられるようにしておくこととそういった場所への非常時用の穀物などの貯蔵をするように国人たちへ伝え、下田のような直轄領では代官にそれを実行するようにさせ、修善寺周辺の野山での焼き畑を開始させたのだった。

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