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相模への足がかりを掴むために相模の松田氏も味方に引き入れておくか

 さて、あれこれ工作をしているうちに文明7年(1475年)になった。


 正月の除目で大道寺重時が従六位上左衛門大尉、風魔の頭領の小太郎が正七位上の左衛門少尉に任命されたのだ。


「俺が従六位上左衛門大尉ねぇ」


 大道寺重時は笑いながら言ったがその官位をどう捕らえるかは相手次第でもあるだろう。


「まあ、お前さんは俺の腹心でもあるからそのくらいは持っておくべきだよ」


「私が正式に正七位上の左衛門少尉の地位につくことが出来たとは誠にありがたき幸せ。

 今後我が風魔一族は伊勢駿河守殿に忠誠を誓います」


 一方の風魔小太郎は俺にひれ伏してそういった。


 今までの”まつろわぬもの”から正式に朝廷の官位を持つことになったことで、中央に繋がりがある俺の庇護と周辺のサンカを従える大義名分を得られたはずで、そばの栽培などで食糧事情の改善も見込めるしな。


「ああ、今後よろしく頼むな」


 これで東の相模や北の甲斐の情勢の情報を得るのが楽になった上にいざというときには彼らにゲリラ戦を仕掛けてもらい、そちら方面からの侵攻の足止めをしてもらうことも可能になったろう。


 伊豆や遠江についての問題を解決するほうが優先順位としては先で、相模に直接関与するのはまだ早いと思うが、相模波多野氏の松田頼秀や丹後松田氏で幕府右筆の松田秀藤には話を通しておいたほうがいいだろうな。


 丹後松田氏は二階堂氏・波多野氏とならんで室町幕府評定衆に列し、また応永年間には政所執事代として活躍していて、俺たち伊勢とは遠縁に当たるらしい。


 もっとも丹後松田氏は相模波多野氏と同様に秀郷流波多野氏であるという話もあるので実のところよくわからんというのが実状でもあるのだが、松田氏は扇谷上杉氏とは敵対しているので手を結ぶのもありだろう。


 史実において1495年に伊勢盛時が大森藤頼を倒して小田原城に入城した時には奉行衆丹後松田氏、奉公衆備前松田氏、相模松田氏は協同して戦っており、この時に奉行衆丹後松田氏、奉公衆備前松田氏からも松田数秀、松田長秀、松田頼亮、松田秀致、松田晴秀らが応援に送られているがこれは将軍の指示でもあるのだろうが、相模松田氏を純粋に助ける意図もあったろう。


 まあ要するに当の松田氏自身も先祖が誰なのかはっきりとはわからないが、皆同族だとみなしているということだろう。


 というわけで正月の挨拶として松田郷の松田頼秀の元へ話をしに行くことにした。


「お初にお目にかかる伊勢駿河守にござる」


「松田頼秀にござる。

 しかし、隣国の駿河守護今川の後見人たる方がここにナンのようですかな?」


「ええ、実は風間谷の風間小太郎を召し抱えるに当たり彼は南北朝の争いで散り散りになった、相模波多野氏の末裔の一族であると聞き及びまして、ならば主筋に当たるであろうこちらにも話をしておくべきかと参りました」


 と、俺は銅銭や茶器に緑茶などが載った目録を彼にわたした。


「風間谷?

 成るほどそういった者もいたかもしれませんな」


 おそらくそんな者はいないと彼にも言い切ることは多分出来ないのだろう。


「そして出来うることであれば扇谷上杉との争いに助力させていただければと思うのですがいかがでしょうか?」


「それはこちらとしても助かりますがな」


「私の下に入ってもらえるのであれば正六位下左馬助として官位を奏上させていただきますが」


「ふむ、左馬助にござるか。

 それは悪くない話でございますな」


 正六位下左馬助というのは武士にとっては憧れの官位の一つで、従六位上左衛門大尉よりも上。


 大道寺重時が官位にこだわりを持っていれば苦言を呈するかもしれないが、ちゃんと土地を持っている松田頼秀のほうが立場は上でもおかしくないだろう。


「では今後ともよしなに」


「こちらこそ」


 というわけで相模の松田氏を俺の被官とすることに成功した。


 これで扇ヶ谷上杉との戦いに助力する必要はあるが、逆にこちらも助力を受けることが出来るようになったろう。


 なお朝比奈などの駿河の国人に対してこういったことを行わないのは、彼らはあくまでも今川の被官であって俺の被官ではないからだ。


 要するに今川の家臣である彼らに対して俺は基本的に直接の指示を出来ないのだな。


 無論、今川の庶流が遠江を奪還するべしと俺に言ってきたりなど、龍王丸がまだ稚すぎるから必要であれば今川の代行者として行動しないといけない場合はあるんだけどな。

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