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来年の正月の儀式を集めてくれと来たか、本当に胃が痛いぜ

 以前は年末になると正月関係の行事で忙しくなるのが普通であったが応仁の乱で市街戦が行われている京では当然そのような余裕はなかったためそういった儀式はここ何年かは一切行われていなかった。


 しかし、来年の正月についてはどうやら状況を変えたいらしい。


「わたしに朝廷と幕府の正月の式典行事の銭を集め、行事を開催できるようにせよ……ですか」


 そんな無茶振りを言ってきたのは日野勝光だった。


「うむ、そなたのおかげで御霊会はようやく行えたが、元旦の四方拝(しほうはい)朝賀(ちょうが)子朝拝(こちょうばい)元日節会(がんじつせちえ)や、2日の歯固(はがため)、7日の白馬節会(あおうまのせちえ)、15日の左義長(さぎちょう)、16日の踏歌節会(とうかのせちえ)などすべてを行いたいとのお言葉だ」


「き、今上様のお言葉とあらば最善は尽くします。

 が、全ての行事を行なうための銭を集めるのは難しいかと」


「うむ、銭に関しては妹も出すと言っている。

 だから全ての銭をあつめる必要はないが、できるだけ多くを集めてくれ」


「か、かしこまりました」


 四方拝は毎年1月1日つまり元日の早朝に、宮中で天皇が天地四方の神祇を拝する儀式。


朝賀は四方拝の後に天皇が大極殿において皇太子以下の文武百官の拝賀を受ける行事。


小朝拝は、朝賀の後に大臣以下公卿・殿上人が天皇に拝謁する儀式。


元日節会は小朝拝の後に天皇が大極殿、紫宸殿、豊明殿などに出御し、臣や公家の皆々に宴をさせる行事。


 ここまではすべて元旦に行われる。


 歯固めは天皇の長寿を願い、鏡餅・大根・瓜・押鮎・猪肉・鹿肉などを献上する儀式。


 白馬節会は邪気を祓うという青馬を天皇が御覧になり、のちに宴を賜る儀式だったが、現在では白馬を用いるのだがなぜか呼び方はそのまま。


 左義長は清涼殿東庭で「左義長」という吉書を焼いたり爆竹を鳴らす儀式。


 爆竹と言っても火薬は使わないが。


 踏歌節会は和歌の名人を集めて年始の祝詞を歌い舞わせる儀式だ。


 その他にも細かい儀式などはあるはずだが、要するに挨拶や宴会と厄払いの儀式がほとんどなんだが一体どれだけ銭を集めなければならんのだ。


 しかも今上陛下の直接のお声とならば断れるはずもない。


「うぐ、ますます胃がいたくなってきた……。

 父上と話をするしか無いか」


 というわけでまずは父へ相談してみた。


「ふむ、宮中行事に必要な銭をあつめよか。

 本来ならば室町殿経由で行うことなのだが……。

銭だけではなく付け届けの品も含めればなんとかなるのではないか」


 そう言われればそうだな。


 何も銭でぜんぶなんとかしようとすることもないか、どうせ付け届けの品は倉に積み上がるばかりだし反物や打ち掛けなどは逆に喜ばれるかもしれない。


「なるほど、銭だけでなく現物での納付もありですか。

 それは気が付きませんでした」


 その後、俺は遊郭や座や寺社などあちこちに回っては頭を下げたリ脅したり宥めすかしたりして、なんとか銭や物品をかき集めた。


「足りるかどうかわからんが、まあやれるだけはやった。

 これで足らないとか言われても知らんよな」


 結局ほとんどは公家たちの宴会のために使う銭だと思うとなんだか腹も立つんだが、既に大内や今川の元などに下っている公家もかなり居そうだしそこまで銭などはかからないと信じたいものだ。

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