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座の権利に関してやっぱりあれこれあちこちからと口を出されちまった

 さて、寺社の復興と引き換えに、俺は京都における主要な座の権益を手に入れたかに見えたんだが、実際はそう甘くはない。


 石清水八幡宮で行われている放生会という行事はもとは殺生を戒める仏教の戒律から生じた儀式であるように、このころは神仏習合が当たり前に行われているが、宇佐八幡宮から八幡神を勧請したのは真言宗の僧の行教だから、天台宗などとも折衝をしないといけなかったりするわけで、結局は伊勢家という家の名前を持ち出してなんとかしていたわけだが、それならばと細川勝元や伊勢貞親などの被官のものが直接交渉をする代わりに権限を一部譲らざるを得なかった。


 細川の場合は今までは政治工作などに忙しすぎただけではあるんだろうけど。


「それではよろしくお願いいたします」


「うむ、我々に任されよ」


 それだけでなく山名宗全も石清水八幡宮の復興を手伝うと言ってきた。


「我々源氏にとっては元服の際に元服式を行なう大事な場所であるからな。

 その復興を手伝うのはやぶさかでない」


 とまあいうが実際は油座の利権を東軍だけに抑えられるのはよろしくないということでもあるんだろう。


 ここで断れば山城の大部分を制圧している西軍と敵対することになるわけでもあるから、俺はそれを受け入れざるを得なかったが、その分警護に必要な兵などが減ったのは楽になったがな。


 さらに日野富子の兄で将軍足利義政の側近でもあり、従一位内大臣でもある日野勝光の名代に呼ばれて、俺は花の御所へ呼び出された。


 今上様である後土御門天皇や後花園上皇、伏見宮貞常親王(上皇の実弟)などは室町御所に避難されているのでここは事実上内裏でもあるのだ。


「ふむ、君が伊勢駿河介か」


「は、伊勢駿河介にございます」


「うむ、実は私は伊勢伊勢守(貞親)とも親しくしていてね。

 君が京の都における寺社の復興を率先して勧め、朝廷へ油や紙などを奉納させるようにしているとも聞いてぜひとも一度会いたかったのだよ」


 貼り付けたような笑みを見せながら彼は言うが、魑魅魍魎の住み着く朝廷や幕府の要職に居るわけだから一筋縄でいく筈もない。


「天神様や御霊様の社を焼いたままにしておくなど、恐ろしきことにあれば、復興を早めに行なうは当然と思ったまでにございます」


「うん、君は変わっているね。

 君と同様の武士たちが寺社を破壊しその材木で陣を築いたり火をかけたりしているというのに」


「変わっていると言えば、そうやも知れません。

 しかし武士は縁起を担ぐものでもあります。

 そして神として祀るということに意味がないのであれば、とっくに神社はなくなっているのではないかと自分は考えます」


「うん、そうだね。

 理由は色々あるものの京の都が日ノ本で一番の都であったのは

そういった理由も割とあるだろうとおもうよ。

 君には天神様や八幡様が知恵や力を貸しているという噂もあるけど、それも嘘ではないのではないかと思うしね」


「そ、そうでしょうか?」


 確かにそもそもなぜ俺がこの時代に来たのか、誰がそれをやったかということを考えて見れば、神が介入していたとしてもおかしくはないとは思う。


「今上様も殊の外お喜びでね。

 六位蔵人として昇殿をさせ、自らお声をかけてもよいのではないかとおっしゃられていた」


「誠にありがたきことですが、このような若輩の田舎者には誠に荷の重きことかと」


「ふむ、駿河介の官位同様に六位蔵人も今では大した意味は持たぬものではあるがな。

 ところで富子? お前は彼をどう思う」


 なんか御簾の後ろに誰かいると思ったらまさかの将軍正室様だった。


「なかなか金に対し目端の利くものであるかと。

 私も関銭を取るよりも座を抑えておけばよかったと今では思いますわ。

 とは言え兵を持たぬ私達では難しくもあったでしょうとも思いますが」


「ふむ、どうやら妹のお眼鏡にも叶うようだ。

 これからぜひとも仲良くやっていこうじゃないか。

 私にできるのは官位の発給の奏上ぐらいではあるがね」


「………何卒よろしくお願いいたします」


 ちなみにそれは現在でも朝廷が保持している最大の権威だったりするのだが。


 それから御所様こと将軍足利義政にも呼び出された。


「うむ、君が伊勢駿河介か」


「は、伊勢駿河介にございます」


「うむ、この度は紙や油の献上嬉しく思うぞ。

 なにせ守護共が合戦を始めてからというもの、ほとんどそういった物が地方から送られてこなくなってしまったからな」


「は、はい、微力でもお力になれたなら幸いでございます」


「私は日ノ本を平和にしたいだけなのになぜ誰もわからぬのだろうか?

 そもそもは……」


 と延々続く守護大名達への愚痴のエンドレスリピートに、次第に輝きが無い目で相槌を打ちながら頷く以外の選択肢が無くなり、まさに誰得の会合になったのは言うまでもない。


 室町将軍の側近というのは愚痴をひたすら聞き続けるという仕事なんだな……そりゃストレスで早死もしそうだ、まあ将軍自体がちょっとしたことすらままならないわけだからストレスも当然溜まってるんだろうけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が頑張ってもどんどん奪われちゃうなぁ 力が無いのだからしょうがないんだけど。
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