京都市街が主戦場ではなくなってきたから神社の復興に取りかかるか
さて相国寺の戦いなどにより内裏や花の御所、公家や守護の屋敷、寺社などがある北側の上京は壊滅的な被害が出ているが、今川義忠などが駿河に帰るころには、市街での戦闘はほぼ行われなくなった。
市街戦が行われなくなり、陣地構築の木材確保のためにと家が叩き壊されたり、燃やされたりなどが行われなくなったのは良いが、当然遊女の客も減っている。
「そろそろ他の手も打っていかんと駄目だな」
俺は伊勢貞親や細川勝元を通じて話をすることにした。
「伊勢伊勢守(貞親)様、細川右京太夫(勝元)様。
今では職人などが散逸しております石清水八幡宮が管轄している大山崎油座の伊勢家による保護とそれに対して管理権限を得る代わりに石清水八幡宮への勧進復興を行なうこと、同様に六波羅蜜寺を本所とした紙漉座、祇園社を本所とした堀川の材木座や綿座・錦座、三条の鋳物師の集まりである釜座その他織物座、魚座などの復活や、北野社の麹座の酒座としての復活などを行うことを御所様にお許し願いたいのですがいかがでしょうか」
「ふむ、そういった職人や材木を優先的に手に入れることは有益なことであるな。
わかった御所様と話しをしてみるとしよう」
伊勢貞親がそう言うと細川勝元もうなずく。
「うむ、悪くない提案である。
わたしも協力するとしよう」
「どうぞよろしくお願いいたします」
なお釜座というと釜だけを作っていたかのように思えるが、実際は寺社で使われる梵鐘や鰐口をはじめとする打ち鳴らすためのものや灯籠・水盤・塔九輪・擬宝珠・露盤などの道具を中心に、鍋・釜・鉄瓶・茶道具・銚子燗鍋などの日常雑器に至っるまでそこで作られていたのだ。
応仁の乱に巻き込まれるのがいやで堺などに逃げたやつも多いはずだが、これをさっさと呼び戻さないと生活物資の不足にも通ずるしな。
またこういった座は本所油座なら八幡宮が淀川に船を出すときの奉仕や、八幡宮が使う油を使者などにも献上する代わりに、関所の関銭や港の津料の免除、油の原料である荏胡麻を優先的に買い付ける権利、そして油を定期市で独占的に販売する権利を八幡宮から得るのでこの利権は大きい。
本来であれば石清水八幡宮を無視して、京都などで油を販売しようものなら即座に神人に取り囲まれたりするわけだが現状では神社にはそんなことをできる余裕はない。
伊勢貞親は復帰したばかりの幕府内の地位固めに忙しいし、細川勝元は現状劣勢な東軍の形勢逆転のための朝廷工作や寝返り工作に忙しいから、そんな細かいところまでには手が回らないから任されるとは思うけどな、そもそもうまくいくかどうかすらわからないし。
そして後日これらに関しても俺が任されることになった。
「御所様より”座の管理”もそちらが行えるように話はついた。
無論、こちらはこちらで運上金は室町殿へある程度収めるようにする必要がある」
「かしこまりました、有難うございます」
俺はまずは石清水八幡宮へ向かうことにした。
「本日より八幡油神人は伊勢家が保護することとなった。
朝廷及び御所様に対して油の献上は行なうが、荏胡麻運送に関しての警備などはこちらで行い朝廷や御所の津料や関料は改めて免ずるものとする。
また油を売った利益については社屋などの復興に優先して使うものともする」
「わかりました」
「なお油絞りに使う器具に関しては俺の方で新たなものを用意するのでそれを使うように」
「は、はあ? わかりました」
こうして油座に関しての管理権限を得た俺はスクリュー式搾り器で圧搾の効率を上げて油を売らせてそこの儲けを得るようになった。
石清水八幡宮は都の南西の裏鬼門にあたり、王城の守護神として皇室・貴族から篤い崇敬を受けているとともに、源氏・足利氏の氏神として武士からも八幡神信仰を受けたため、朝廷・幕府から特別な存在として認識されていたが、応仁の乱では寺社の例に漏れず本殿などが荒らされていたこともあって、ことのほか朝廷は喜んだらしい。
去年は行われなかった「石清水放生会」に関しても今年は開催できるように取り計らった。
応仁の乱の勃発により神人たちは逃散する事態となったが、そういった者たちも京都に戻ってきた。
六波羅蜜寺を本所とした紙漉座では笹の葉などを使って紙を作らせることで増産させたりもした。
北野麹座を酒座として復活させたことは比叡山から反発を受けたが、そもそも寺が酒を作ることは仏法的にゆるされることではないという事を指摘したこともあってしぶしぶに京都の中での酒造りからは延暦寺も手を引いた。
なお、これにともなって禅寺に対して禁酒令も発令されている。
「坊主が酒を作ったり、飲んだりしちゃいけないのは当然だよな?」
この頃の臨済宗は幕府とのつながりが強かったこともあって結構腐敗していたらしい。
それはともかく俺は岩清水八幡宮や北野天満宮、上御霊神社などの特にヤバそうな神社を優先的に修復していったんだが、何故かそのために”八幡様の生まれ変わりらしい”だの”天神さまがついているらしい”だのという噂が流れることになった。
いや、俺が転生者であるのは事実だがそんな大それた立場の人間じゃないんだけどな。




