34. 溺愛王子様からは逃げられない
それから、あっという間に月日は流れ───
今日は私とシグルド様の結婚式。
「───ルキア、綺麗だ! 可愛い!」
「シグルド様?」
控え室で準備をしていると、花婿のシグルド様がやって来た。
「えっ? シグルド様、準備は? 準備はよろしいのですか??」
「何を! 愛しい愛しいルキアの花嫁姿! 私が一番に見なくて誰が見ると言うんだ!!」
シグルド様の圧に圧倒される。
急いで駆けてきた理由が……まさかのウェディングドレス姿を一番に見たいから。
「そ、そんなに?」
シグルド様はグイグイ近づいて来ながら勢いよく頷く。
「だって、ルキアは仮縫いの時から全然私にウェディングドレス姿を見せてくれなかった!」
「そ、それは! シグルド様が、私のウェディングドレス姿を想像するだけで鼻血が出そう……なんて言うから!」
「くっ……」
「万が一があったら大変だと思って」
血で染まったドレスで結婚式を迎えるのは勘弁して欲しい。
「仕方ないだろう? あれもこれも想像したら可愛いルキアしか残らなかった!」
「い、意味が分かりません!」
相変わらずシグルド様は、私のことになるとおかしな発言ばかりする。
何年経っても変わらない。
でも、それが堪らなく嬉しい。
「……ルキア」
「はい?」
シグルド様がじっとウェディングドレス姿の私を見つめる。
「愛してるよ。無事にこの日が迎えられて本当に嬉しい」
その言葉に私の頬がポッと赤くなる。
く蕩けた表情でそんなことを言われたら、照れてしまう。
「……色々ありましたから、ね」
「そう、色々……」
二人で顔を見合せてふふっと、笑い合う。
「ルキアは……何度も婚約解消を言い出して逃げようとしていたよね?」
「ええ。シグルド様には全部お見通しでバレバレでしたけど……」
だって、力を失くした私は“役立たず”
そう思ったから。
「ルキアは、“役立たず”なんかじゃない。私の誰よりも一番大事な人だ」
「シグルド様……」
「だから、最初からルキアは私から“逃げる”なんて無理だったんだよ」
シグルド様が笑顔でそう言った。
───そうね。
今なら分かるわ。
あの頃も今も、シグルド様がどれだけ私のことを深く愛してくれているか……
「大好き……私もあなたを愛してます、シグルド様」
「ああ」
互いの想いを口にしながら私たちは抱きしめ合う。
結婚式はこれからなのにすでに本番を迎えてしまったような気持ちだった。
「───ルキア。お前は本当に殿下のことが大好きなんだな」
「!?」
シグルド様と抱き合っていると背後からそんな声が聞こえて振り返るとそこには私のお父様が立っていた。
「お父様!」
「控え室に来てみたら何やら話声が聞こえて来て……式の前なのにすでにラブシーンが始まってるとは」
そんなまじまじと言われると、とても恥ずかしくなる。
私とシグルド様はそっと身体を離す。
お父様はじっと私を見つめた。
「ルキア。侯爵の件ではすまないことをした……だが殿下との婚約だって、そもそもルキアの力や魔力目当てだったから複雑な気持ちだったが……」
「お父様?」
「こんなに幸せそうな姿が見られるとは……な。くっ、うぅぅ……」
「ええええ……」
感極まったお父様がおいおいと泣き出した。
「エクステンド伯爵……いえ、義父上!」
シグルド様が泣いているお父様の前に進み出て頭を下げる。
「で! でで殿下!? 何を……」
王子様に頭を下げられたお父様はアタフタし始めた。
シグルド様は頭を下げたままお父様に向かって口を開く。
「……ルキアが私の婚約者に選ばれた理由が、強い魔力や癒しの力の能力があったからだということは否定しません」
「……」
「しかし私は、そのままのルキア……ルキア・エクステンド伯爵令嬢を愛しているんです」
「殿下……」
「だから、必ず幸せにすると誓います!」
シグルド様はお父様に向かってハッキリとそう口にしてくれた。
「殿下…………娘を、ルキアをよろしくお願いします」
お父様もシグルド様に向かって頭を下げる。
「……ルキアは思ったことがすぐに顔に出てしまう素直な子です」
「知っている。でもそこが、たまらなく可愛い」
(ん?)
「そんな子なので、王太子妃……後の王妃に向いてるのかと言われると……父親としては今も心配でなりません」
「いや、ルキアは芯のしっかりしている強い女性だ。そしてそこもたまらなく可愛い」
(んん?)
何この会話……
シグルド様にかかると私は何でも可愛いらしい。
そんな受け答えにはお父様も涙が引っ込んだのか苦笑していた。
「……ルキアはすごく殿下に愛されているんだな」
「ええ! そうでしょ?」
私が笑って胸を張るとお父様は優しく私の頭を撫でてくれた。
────
式で大勢の前で愛を誓い合った後は、国民へのお披露目が待っている。
「ルキア、緊張している?」
私の足がガクガク震えているのを見たシグルド様が心配そうに寄り添ってくれる。
「し、しますよ! しないはずがありません!!」
「そうか……では」
「んむっ!?」
シグルド様がニヤリと笑ったと思ったら、やや強引にキスをしてくる。
お披露目待機中の今は、大勢の人が私達の周りを行き来しているというのに!!
(ひえっ!?)
皆が見てる!!
「こ、こんな所で、な、何をするんですか!?」
「……緊張が解れるかと思って」
「も、もう!!」
私は顔を赤くして抗議する。
それなのに、シグルド様ときたら楽しそうにケラケラと笑うばかり。
だけど、確かにびっくりし過ぎて足の震えは止まった。
(もう……!)
シグルド様は分かっててこうした…………のよね?
まさか、ただキスをしたかっただけ……?
いえ、これは考えたら負けよ!
私は首を横に振ってこれ以上考えるのをやめる。
「ルキア、大丈夫だ」
シグルド様がそっと私に手を差し伸べる。
「シグルド様?」
「だって───私のルキアは強くて可愛くて最高なんだ。だから……」
「だから?」
「……っ」
私が首を傾げながら聞き返すと、シグルド様が一瞬だけぐっと黙り込む。
でもすぐに真剣な面持ちになった。
「逃げないでくれ!」
「逃げません!」
私は笑顔でそう答えた。
だって、私は魔力があっても無くても役立たず……なんかじゃなかったから。
ずっとずっとシグルド様に必要とされていた。
(───だから、これからも大丈夫!)
「……ルキア、行こう!」
「はい!」
差し出された手に自分の手を重ね、私たちは共に前へと歩き出す。
今日から私は大好きな人の妃として生きて行く。
(一応、今はまだ王太子妃だけど……何だかんだで王妃となる日が実はすぐやって来る予定……)
この先もまだまだ色んなことがあるかもしれない。
けれど、あなたと一緒なら大丈夫!
どんな困難が来ても、きっと二人で乗り越えてその先は間違いなくいつだって幸せが待っているから───
~完~
これで完結です。
ここまでお読み下さりありがとうございました!
元々この話を最初に書いて(他サイトに)投稿したのは2022年の7月。
3年も前なので今回、かなり加筆修正しているのですが、
この頃の私はとにかく溺愛ブームでした……
とにかくヒーローにはヒロイン(主人公)を大事にして欲しくてそんな話ばかり……
ですが、楽しんでもらえていたなら嬉しいです。
また、完結記念に色々ポチポチしてくれたらもっと嬉しくて喜びます!
今回が古めの話を持ってきたので、
次の話は、わりと新しめの話を持ってこようかなと考えてます。
(溺愛ブームは去りました……)
もし、お見かけした時はまたお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは、本当にありがとうございました!




