74,手配
デザイアの手が離れ、リオンも時を動かした。
「ひとまず、知り合いと間違えて、あなたに声をかけたが、人違いだったと三人には伝えます。ただ、あなたはすぐに私が森の民だと気づいたことにしませんか。そこで、森の民に興味があると話してくれたことにしましょう」
「確かに、森の民に興味があるのは事実だ」
デザイアの提案に、リオンは驚く。状況に応じた判断が早い。
「王城での仕事が終わったら、話しを聞きたいと誘われたとします。かまいませんね」
「ああ、その方向でよろしく頼む」
「用事がおわるまで一刻はかかるでしょう。待ち合わせは、この表門でかまいませんか」
「かまわない。この辺で、俺はいつまでも待とう」
デザイアは身をひるがえし、三人を追いかけた。合流するなり、ジャンと呼ばれた男が「いきなり、どうした」と訝る。デザイアは謝罪しながら、預けた箱を受け取った。そうしながら、三人に状況を伝えているようだった。
四人はちらりと俺に視線をなげ、会釈し階段をのぼっていった。
(しばらく暇だな)
そう思いながら、広間や裏門、表門を歩き回る。
その時、声をかけられた。
「リオン殿、何をされているのですか」
武官のリュートだった。
「ちょっと人を待っています」
「どちらかへとお出かけに?」
「出かけはしません。森の民と呼ばれる人達と、表側の階段ですれ違いまして、俺が彼らに興味があるということで、用事が終わったら、時間を割いてくれると約束してくれたのです」
「すれ違いましたか。今日は納品の日ですからね」
「納品?」
「魔物の核を王城へ届けてくれているのです。リオン殿は、森の民に感心がおありですか」
「そうですね。魔物についてなど、彼らの方が詳しそうなので、話を聞きたいと思っています」
「確かにそうですね。実際に魔物を狩るのは彼らですから」
「できたら、森の民の暮らしも見てみたいですし。フェルノも気にしてました。彼女は出れませんので、俺が代わりに見に行けないかと考えています」
「さすが聖女様ですね。そのようなところまで関心を持たれるとは。リオン様、もしあなたが森の民の方についていかれたいなら、フェルノ様の了解だけでは無理です。文官長、武官長、司祭、王、最低でも、この方々の了解も必要です。ならば、先に文官長と武官長に会いに行きませんか」
「そんな急な訪問が許されるのですか」
「俺はちょうど、武官長に呼ばれてきています」
リュートはなんてこともないと軽く笑みさえ浮かべている。要人に約束もなく会えるというのが解せなかった。
「ようは雑用です。一緒に来ても、リオン殿ならかまわないでしょう。目的も目的ですし行きましょう」
リオンは、歩き出したリュートについていった。
表門の横の通路を歩く。階段を上がると、礼拝室がある。
天井が低い通路を通り抜けると、事務仕事に励む人々がいる。今日は昼間であるためか、一階には目いっぱい人がいた。
「ここはどういうところですか」
「文官の職場です。主に書類仕事などをこなしています。奥の階段をのぼれば、文官長と武官長の執務室があります」
環の国は小さく実務も少ないのかもしれないとリオンは考えた。環の国以外世界は砂漠と森のみ。他に国はない。森の民とは呼ばれる人々はいるが、それを国とは呼んでいない。
(三百年前にどれほどの被害にあったか、知れないものだな)
地図の絵を見た限り、砂漠は広かった。森も広い。しかし、その中で人が住んでいる地は、すごく狭かった。あの絵は誇張でもなく、この国の実像なのかもしれない。
人間の国は、国土全域に人が住んでいる。様々な国が乱立した時代を経て統合した。住んでいない地を探す方が難しい上に、地域ごとに特徴もある。それぞれ文化の違いを色濃く残している。
環の国のような単一的な国と違い、さまざまな文化の国が寄り集まっているのが人間の国であった。
(歴史も文化も消滅したからだろうか……)
歴史を好んで学んでいないリオンでは、疑問を感じても答えまでは出せなかった。
武官長の執務室に行くと、文官長も同席の上、森の民の人々と話し込んでいた。リュートだけでなく、リオンが顔を出したことで、その場の全員が驚いた。
リュートは下の広間でリオンと出くわしたことをかいつまんで説明する。森の民についてはフェルノも関心があると、リオンが伝えると、文官長と武官長の目の色が変わった。
(フェルノの名は絶大だな)
反応を見て、リオンは思った。聖女様の言うことは、極力かなえたいと彼らは考えているのかもしれない。
話はトントンと進み、リオンの同行を森の民も了解した。
学園から帰宅したフェルノに意向を確認し、了解を得れば、リュートが森の民が住まう屋敷まで送る段取りが組まれた。学園から戻るまでに時間もあるため、文官長が司祭と王には話をすることになる。森の民達は、屋敷にリオンが来た際に詳しい話をするとした。リオンがいかない場合の連絡もリュートが行うことになる。
フェルノがリオンに命じれば、すぐに事が進む段取りが、リオンの目の前で、リオン抜きで進んで行く。
(ここは本当に、意志決定が早いな)
リオンは、とんとんとまとまっていく話を横で聞いているだけで良かった。
その後、リュートが森の民たちが持ってきた箱を抱え、退出する。リオンも彼に続く。
去り際に武官長の口から森の民たちへ「この度、我々は聖女の召喚に成功した」という話が始まった。
箱を持ち運ぶリュートの背を追いかけ、リオンは駆け寄る。
「先ほどは、ありがとう。助かりました」
「気にされなくて結構です。リオン殿」
「この箱を運ぶために呼ばれていたと……」
「そうです。倉庫に運びます。これは大事な魔物の核です。分配も考えなければなりません。我が国は資源の乏しい国ですから」
「よく考えられていますね」
「やっとここまで立ち直った、小さな国ですから」
そんな話をしているうちに表門と裏門の広場に到着し、二人は分かれた。森の民と会う約束もなくなり、表門に立っている必要がなくなったリオンは部屋に戻る。
部屋で運ばれてきた昼食を食べ終え、休んでいると、扉をノックする音がした。
「どうぞ」と声をかけるとレントが顔を出した。
「今、お時間よろしいですか」
リオンは頷き、立ち上がった。
レントも入室し、リオンの傍に近づき、足を止めた。
「例の件につきまして、伝言で参りました。リオン殿が森の民の居住区へ向かわれることが了承されました。後はフェルノ様の一存のみです」
「伝言、ありがとうございます」
リオンは深々と頭をさげる。
「フェルノ様が帰り次第、リオン様がお話があるとお伝えします。いつものことですけど、リオン様のお部屋にすぐに向かわれると思います。
お話がすみまして、どのような結果になりましても、一度階下までお越しください。
表門にてリュートが待っております。森の民の待つ屋敷へ向かう場合、すぐに自動車でお送りします」
リオンは、(よし)と心の中で拳を作った。アノンとライオットの居場所が分かったのだ。フェルノなら了承すると予想できた。




