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73,遭遇

 フェルノとアストラルを見送ったリオンは一息つく。昨夜の謁見と晩餐で、気疲れした。その緊張が身体にまだ残っている。腕を回して、肩をほぐす。


 一階と庭は自由に見てかわまわないとアストラルには確認していた気ままなリオンは、城内を散歩するために部屋を出た。


 フェルノの護衛について以降、まとまった休みどころか、休暇らしい休暇もなく過ごしてきた。異世界に飛ばされたと言えど、これではまるで長期休暇を得て異国に滞在しているような状態だ。


 フェルノが学園に楽しんで出かけていく姿を見送れば、兄のような気分を味わう。フェルノがいつも妹姫を屋敷から見送る心境に近いかもしれないと一人浸り、苦笑した。


 侍従も侍女も、レントもリュートも、親切で、丁寧で、あたたかい。何かに巻き込まれているという猜疑心が薄らぎ、ついつい気安くなってしまう。


(うまいよな。騙されているとしたら、警戒心が削がれ、懐柔されている感が否めない)


 リオンは階下におりた。時折すれ違う人も、軽い会釈を欠かさない。礼儀正しい人が多い。


 裏玄関も表玄関も、昼間は開け放たれている。裏玄関を見れば、青々とした芝生に小さな聖堂が見えた。


 その景色に背を向け、表門へと向かった。

 門から道へ降りる間に幅広くゆるい階段がある。


 前方から四人、歩いてきた。

 前を歩く年配の男女二人。その後ろに、箱を抱えて歩く男が二人が続く。


 リオンは彼らに道をゆずるように、階段の端によけた。

 階段ですれ違う際に会釈をする。慣れたリオンは、先にあるく男女二人に一度目、背後から歩いてくる二人の男に二度目の会釈をした。


 顔をあげた時、最後尾を歩く男と目が合った。しっかりとした体つきで、短髪が多いなかではわりと長めである。どこかで会ったことがあるだろうかと思うほど、目を凝視された。

 瞳が琥珀のリオンを奇異に感じるのは、昨日もあった。ただ珍しいだけだろうと、視線を前に向けた。

 

「ジャン。これも持って!」

「うわっ、いきなりのせんな。重いだろ!」


 背後で慌てた声が響き、ついで階段を駆け下りる足音が続く。リオンは何事かと思い、振り向きざまに腕を掴まれた。


 掴んだのは、リオンを凝視していた男だった。そして、叫んだ。


「【串刺し多面体 コズミックリベリオン】のリオンですか!」


 突然、名を呼ばれ、リオンは目をむく。

 目の前の男が、ポケットに手を入れ、探る。


「俺はデザイア、【絞殺戦線 コンバットデザイア】。森の民です」


 取り出した手に握られていたのはアノンが持っているはずの玉だった。


「アノンとライオットから預かってきました」


 アノンとライオットの名を目の前の男が告げた瞬間、リオンは能力を行使し時を止めた。


「二人は、森の民 ディーダイガル の元に身を寄せています」


 デザイアが肩で息を二三繰り返した。


「まさか、本当に、会えるとは思っていませんでした」


 出会えたことに驚いているという表情を露に息を吐き、デザイアは手を離そうとした。


「離すな、周囲を見てくれ」

 リオンが静かに言った。


 デザイアは空間が停止していることに気づき、うろたえた。振り向けば、ジャンが荷物を二つ抱えた態勢で、よろめきかけて、止まっている。


「なんですか、ここは……」

 動揺するデザイアにリオンは静かに語りかける。


「あなたが気づいた通り、俺はリオンだ。この空間は俺の特殊能力で作った空間。止まった時間の中では、秘密裏の会話も誰にも聞かれないですむ。ただ、触れていないと会話ができないため、このまま俺の腕をつかんでいてもらいたい」

「あっ……ああ」

「アノンとライオットは無事なのか」

「無事です。この玉を使って、リオンがの国にいることは気づいていて、俺に託してくれました」


「さすがアノンだな」

 微弱に魔力を通していただけで、気づく魔法使いにリオンは感嘆する。

「アノンとライオットは元気なんだな」


「元気ですよ」

 デザイアは苦笑する。

「なかなかなお姫様と、護衛の騎士という関係ですけどね」


「お姫様?」

「アノンですよ」

「アノンも、女の子なのか?」

「も? アノンは女の子では?」


 デザイアは訝る。リオンの感情は顔には出ない。衝撃を受けつつも納得する。


(フェルノだって女の子になっているわけだ。アノンもそうであって、何が不思議だろうか。そもそも、そんな予想だってしていたわけだしな)


「ライオットも大変だな」

 自然と出た結論に、デザイアも嘆息する。


「よくやっていますよ、ライオットは……」

 二人の間に、なんとも言えない空気が流れた。


 表情を引き締めデザイアは語る。

「あなたは俺たちと同じ髪色をしているのに、瞳の色が言われた通り黄色い。すぐ分かりましたよ。俺は二人から、もしリオンと出会ったら、居場所を知りたいと言われていました。もし、かなうなら、連れてきてほしいとも言われています」


「俺たちは今、王城に客人として過ごしている。聖女召喚に巻き込まれ、フェルノは聖女として召喚された」


「聖女の召喚に成功していたのですか!」

「公表はもう少し先だが、二日前に俺たちは召喚された」

「アノンとライオットが保護されたのも二日前です」


「今も、二人は森の民の元に身を寄せているのか」

「寄せていると言えば寄せています。が、今朝方、遺跡に旅立ちました」

「遺跡に行ったのか、なぜ」


「アノンさんが持っていた本の文字が文字盤の文字と同じだったんです。彼女ならそれを解読できるのではないかとこちらからお願いしました。魔神復活に関する情報が、俺たちはなさ過ぎて、彼女に頼るしかなかったんです」


「戻るのはいつだ」

「明日の夕方以降ですね」


「聖女として召喚されたフェルノはこの地から移動できない。しかし、俺はそこまでは拘束されないと思う。もし、かなうなら、俺だけでも森の民の元へ行くことはできるだろうか」

「可能です」


「本来、俺はフェルノの護衛としての役目もある。フェルノに黙って去ることはできない。相談する時間も欲しい」

「いつまでに確認がとれますか」

「今日の夕方だな。フェルノが学園から戻ればすぐだ。

 実は、俺たちはアノンとライオットの話はまだ誰にもしていない。

 話を聞く限り、もしアノンの存在を知られたら、おそらくアノンも聖女の可能性を疑われる」

「その可能性は大いにありえますね」

「二人の存在をこの場で秘匿することは可能だろうか」


 デザイアはじっと考え込み、顔をあげた。

「その方がいいでしょう。俺一人で、結論を出せる気がしません。ひとまず二人を保護している話は出しません。リオンを首領に引き合わせた後に、判断を仰ぎます」 


「上にいる三人にも言伝したらいいだろうか」

「そうですね。私から伝えます」


「俺は、魔物を狩るという森の民に興味がある。フェルノの了解があれば、森の民の元へ行きたいと考えている。もう一つ、未公表の聖女召喚についても、俺から聞いたことは内緒でたのむ」

「わかりました」


 色々要望が多いなという表情をデザイア浮かべた。

 それでも、こちらの意向をのんでくれる。そんな相手に、玉を託してくれたことを、リオンは感謝していた。


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