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66,歴史あわせ

 リュートが運転する自動車で帰路につくリオンは、車窓の風景を眺めながら、街の様子を思い起こす。


 街は均整がとれており、美しかった。昼食にと寄った店の料理も、見知らぬものであったが美味しかった。家族連れの祝い事が当たり前に行われ、それを祝い、喜ぶ。余裕のある生活が垣間見える。人々の暮らしも安定しているように見えた。


 車内という個室ゆえに、リオンはレントに訊ねた。


「街は平穏そうに見えました。人々には、魔神復活は伝えていないのですか」

「いいえ、伝えております。聖女召喚の儀式が行われ、聖女が召喚されれば、国は安泰だと市民は思っています」


「それだけで信じていられるのですか」

「はい。人々は国教を深く信用しております」


 宗教意識の薄いリオンは(そんな簡単に信じられるものか)と若干懐疑的に受け止める。


「それほど、人は簡単に信じるものでしょうか」

「これには歴史的な背景もありますので……」

「歴史ですか」


「三百年前、魔神により、我々の文明は崩壊しました。魔神が封印されたとしても、破壊されたものが元に戻ることはありません。

 何もかも失った私たちは、自然と泉を求め集まりました。集った人々の、残された記憶と知恵と知識により、この街は復興を目指しました」


(見渡す限り砂漠となるほどの滅びか。一体、何がおこればこんなことになるんだ)

 リオンはレントの語りに耳を傾けながら、疑問に思う。


「復興の妨げになったものの一つが魔物でした。

 砂漠に生息する魔物のうち【薄闇 ゴーストブルー】は凶悪です。彼らに襲われること数知れず。襲われるたびに、一進一退を我々は繰り返しました」


 リオンは自国の二百年前に重ね合わせる。人間の国は、数多の国々に分かれていた。それらが魔力を有する一国の王と貴族に平定された。投降した国もあれば、滅ぼされる国もあった。

 多くの血が流れた統一に向かう戦乱は長く、一筋縄ではいかなかったという。


「我々の宗教の最も大事なことは、魔よけと神託です。

 教会を建て、祈りをささげることで、魔物を寄せ付けなくなり、安心して暮らしを立て直すことができるようになりました。

 これだけの足場を確保するだけでもおよそ百年はかかっています」

「魔物を排除する力を有し、復興の礎となる宗教だから、人々の信頼は厚いのですね」


 レントはこくりと頷いた。


「それからまた百年かけて、今の状態に近くなりました。その間も、やっと落ち着き、今に至ります。魔神が復活し、再び破壊されれば、私たちに元へ戻す力が残っているとはかぎりません」


 そんな話をしているうちに自動車は王城へとたどり着く。レントとリュートは親切で、部屋まで送ってくれた。


「今夜は王族の方々との謁見が行われ、晩餐の席も設けられます。その際は正装に着替えていただきます。後ほど手伝いの者がきますので、着替えなどは、その者にお任せください」

「わかりました。今日は、ありがとうございます」

「こちらこそ、とても有意義な時間でした」

「また何かご希望があればお呼びください」


 互いに礼を交わし、レントとリュートが去る。残されたリオンはテーブル席に座った。

 ポケットから、玉を取り出す。わずかに魔力を通すと、内側がキインと光る。


(教会で見たものとよく似ている)


 触れただけで、少し魔力を吸い上げるような感触もあった。ああやって、幼児の中からわずかな魔力を探り出すのだろう。


(魔力もある、魔術具もある。これは一体どういうことだ)

 

 その時、トントンと扉が叩かれた。

 顔をあげると、扉が開く。ひょっこりとフェルノが制服のまま現れた。


「リオン様、お邪魔してもよろしいですか」

 明るい笑顔は妹姫そっくりだ。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 弾むようにフェルノはリオンのそばに寄る。テーブルに添えられたもう一つの椅子に座った。


「今日、学園の空に魔物が現れました。黒い影なので【闇黒 イリュージョン】です。滅多に姿を目撃されないそうなので、皆さん、驚いていましたわ」

「俺も街を案内してもらっている時に、見ました。きっと、フェルノも見ていると思っていましたよ」

「まあ、察しの良いこと」

 フェルノはふふっと屈託なく笑った。


 リオンはフェルノを見つめた。妹姫の面影が重なる。フェルノから、どこかいつもの人を喰う厄介さが薄れているような気がした。


「なにかありましたか。とても、楽しそうですね」

「わかります」

 フェルノは両肘をテーブルにつけて手の甲に顎を寄せる。

「学園という学び舎に行くのも、同年代の方々に囲まれるのも始めてでして、ちょっと浮かれてしまいました」


 リオンは心中で、驚く。


「限られた時間ですけど、誰のことも疑わずに過ごしてしまいました。心配には及びません。またいつものようにちゃんと戻ります。ほんの少しだけ、本当に少しだけ、忘れてしまいました」

「いいのではないですか、たまには……」


 二年前、護衛として選ばれた際に、リオンはフェルノの境遇を聞いていた。入れ替わる教師や使用人だけで、彼はずっと一人だったはずだ。

 リオン、ライオット、アノン。この三人が、フェルノにとって今まで接したなかで最も歳近い関係者であると、リオンは知っていた。


 同い年のアストラルとともに出かけ、彼の友人に囲まれて楽しかったというフェルノは、とても健全な反応であるとしかリオンには思えなかった。


 笑みを浮かべるフェルノは話し続ける。

「今日は、魔物の核についてと、この国の歴史について少し教えてもらってきました」

「俺もこの国の復興について少々聞きました」


 一呼吸置き、リオンは声のトーンを落とした。

「気になることが……」


 そう伝えて、手をテーブルの上にあげ、フェルノの方へ寄せた。


「まあ、なんでしょう」

 そう呟いて、フェルノは片手をリオンの手に乗せた。


 空間が変化した。


 フェルノは一瞬目を閉じて、開く。


「私の体質は健在だったね」

「街中で見ました。ちょうどその時、俺たちは街の教会にいたのです。そこで、幼児のための慶事に偶然出くわしました」


「へえ……子どもの祝い事か」

 フェルノも目を細める。


「魔術具と魔力を見ました。

 幼児に玉を触らせて、光ると神官の素養があるとみなされるそうです。それはまるで、アノンからわたされた玉のような物でした。

 さらに、教会は円形、床には曲線が描かれています。聖堂で見た床の模様に似ていました。そこで毎朝祈るそうです」


 フェルノは表情を引きしめる。


「魔物を寄せ付けないために祈ると私も聞いた」

「はい。神官は魔力を有しており、聖堂や教会はおそらく魔術具のようなものでしょう」

「魔法も魔力も魔術具もないという異世界なのに、すべてあるか……。

 いよいよ、こちらの世界とあちらの世界においてのつながりの気配を感じるね」


「この世界は滅んでいます。文明は失われたと聞きました」

「私も聞いた」

「魔法は、この世界から俺たちの世界にもたらされたのでしょうか」


「祖国は三百年前は戦乱期の一小国に過ぎなかった。

 私の祖先は、二百数十年前に一人の魔法使いと手を結び、全土を治めるに至る。

 人間の国が正式に歴史に名を刻んだのは、二百年前だ。

 三百年前、二百年前……。おおざっぱな時期を見ても、ずれている」

 

「この世界で、仮にこの世界で魔法が失われたのが三百年前、俺たちの世界に魔法がもたらされた時期も二百年前の開国を鑑みますと、数十年も開きがありますね」


「魔法使いがこの地にある失われた文明の一旦を伝道したと仮定してみるか……」

「一人の人間が数十年も壮健なまま存在しうるでしょうか」


「子孫が脈々と思想を受つぎ、二百数十年前に私たちの世界に渡ってきたのか。はたまた、教会を作り、人々を守る裏側で、異世界へと渡ってきたか」

「わかりませんね」

「一番分からないのは、わざわざ何のために世界を飛んだのか、だ」


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