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58,遺跡か仲間か

 イルバーとライオットが雑談しながら帰宅する。

 ライオットの背後を黙って歩くアノンは、昨日と同じ態勢でも、気持ちの上での錯乱状態は脱し、冷静に思考を巡らしていた。



(協会は異世界を把握していた)


 国はどうあれ、魔法術協会と魔王城の魔道具師がつながっていることは暗黙の了解だ。少なくとも、魔道具師は異世界を認識し、その世界に飛ぶ道具を作成していた。


(僕は暗殺がうまくいかなかったら、異世界へ飛ばすものだと思っていたけど……)


 騎士と勇者には過信があった。実力があっても、容姿や年齢により、年下のアノンに対し、ぬるい目でみていた。異世界に飛ばすという絵空事をぶつけ虚をつき、彼らの目を自分に向けてさせるため、思いつくままに語った。その多弁中、ひょんな閃きに飛びかけた。


 ライオットが口を挟んできて霧散した思考がある。


 始めから暗殺はできないと国はふんでいて、異世界へ飛ばすことが本命。橋の上では、アノンはそう結論付けていた。


(その結論を口にする前。僕はあの時、何かを閃いた……)




「アノン。大丈夫か」

「あっ、うん」


 ずっと黙って歩き続けているアノンにライオットが声をかけてきた。

 はっと思考の海に沈んでいた世界から引き戻され、顔をあげたアノンの目の前にサラが待つ家が迫っていた。




 家に帰ると、サラが朝食を用意し終えていた。アノンの本は机に置かれている。イルバーの父が手に取ったかどうかまではわからなかった。出かけに置いた本の位置など覚えていない。


「ねえ、サラ」アノンは台所に立つ彼女に声をかけた。「お父さんは、この本見てた」

「表紙は見てたわよ」

「表紙だけ」

「ええ、それで、急いで食べて、出て行ったわ」


 アノンは表紙に目を落とした。

 タイトルと著者名しか、記されていない。




 優先順位として遺跡か仲間どちらを選ぶと言われたら、ライオットは仲間と即答したかった。


(俺たちから見たら、フェルノとリオンが優先なんだが……)


 テーブル席について、腕をくむ。隣でアノンが立ったまま、サラと言葉を交わし、本の表紙を凝視する。


 遺跡、聖女、魔神、宗教、召喚……。


 国教の司祭が聖女を召喚しようとしているというなかで、アノンの性別が変わっている。アノンが推測するように、血縁関係のフェルノに何らかの影響がある可能性をライオットも鑑みる


 異世界へ飛ばす前に、アノンは言った。

 異世界へ飛ばす本命は、アノンとフェルノであって、騎士二人はついでだと。さらに、二人それぞれを守れというのも、異世界へ飛んだ後のことではないかと。


(わかっていたのか……)


 二人の性別が変わり、その二人を守る必要があると事前に分かっていた……、ライオットは頭をふる。可能性を否定できなくなっていた。


(なぜ)

 疑問に思うほどに、遺跡へ行くという選択肢が際立って浮き上がる。


(三百年前に封印された化け物と、異世界の俺たちの接点とは何だ)

 その疑問への答えを知るなら遺跡に行く選択もあるだろうとライオットは傾きかけていた。





「ライオット」

「アノン」


 座るライオットが顔をあげ、立つアノンが下を向く。

 二人の視線がかち合い、一瞬止まる。


「……」

「……」


 束の間、沈黙する。


「まず、座れよ」

 ライオットがどうでもいいことを促しても、アノンは素直に従った。


「何か、思いついたのか」


 一度言葉を発すると、抵抗なく次の言葉が滑り落ちた。

 アノンは本を手繰り寄せる。


「ねえライオット。魔道具師が異世界へ渡る魔道具を作っていて、つてのある魔法術協会がその情報を掴み、人間の国が利用したと、僕は思っていた。

 実は、これが逆だったらどうだろう。

 魔物の国は人間の国より弱い。恐ろしい地だと風聞を流され、人間を寄せ付けない地にされていた。力関係上、人間の国の方が上なんだ。

 魔物の国が作っていたものを人間の国が利用したとみるより、その逆の方がしっくりこないだろうか。人間の国が魔物の国の魔道具師に作らせたとか……」


 ライオットは渋い顔になる。

(複雑。きな臭くていやになるよ)


「僕たちが各国を統一したのは二百年前だ。小国の王族だった僕らの先祖と始祖が手を組み、群雄割拠の戦乱を平定した。その始祖が作った魔法術協会は人間の国では特別な組織ともいえる。そもそも魔法術協会と魔王城の魔道具師との関係は戦乱期までさかのぼるんだ」


「国や魔法術協会が、追放と見せかけて俺たちを意図的にこっちに飛ばしたと考えるのか、アノン。そもそもこの世界と俺たちの世界の接点はなんなんだ」

「その手掛かりが、遺跡にあるかもしれないよね」


「遺跡か……」

「遺跡ね……」

 ライオットとアノンは、呟き、沈黙した。


「アノンとライオットは、誰かの策略で、こちらの世界に飛ばされてきたのか?」

 いつの間にか目の前に座っていたイルバーが肩肘をついて、聞いてきた。


 ライオットは返答に窮す。アノンも惑い、ライオットに視線を流した。


(最終判断は俺かよ)

 さすがのライオットも、二日分の思いを込めて、嘆息した。


「ああ、そうだよ。俺たちは、この世界に四人で飛ばされてきた。なぜか別れた二人はの国にいる可能性が高い。それをさっきアノンが確かめた」


「あんな小さな玉で分かるのか」


「わかる。あれは魔術具だ。俺の槍もそうだが、魔力を増強して、武器の性能をあげる術が施されている。その魔術具のおかげで、俺みたいな騎士でも少ない魔力を通して氷を具現できる。アノンは魔力量が多いから……」

「僕は魔術具を作ることもできるし、魔術具も使わないで魔法を自在に使える」


「俺たちとは色々違うな」

「俺からしたら、イルバーの使う武器も謎だ。どうやって、あれを使うんだ」

「気になるか」

「なるな。あんな小さい物がどんな武器になるんだよ」

「後でな」


 サラが食事を用意する。「冷めないうちに食べてね」という彼女の言葉に従い、三人は黙々と食べ始めた。


 食事を終えると三人は出かけた。

 歩きながらイルバーが話す。


「おそらく、遺跡に行ってほしい。文字盤を読んできてもらえないかと頼まれると思う」

「俺たちも迷っている。仲間を探すにしろ、俺たちがこちらに飛ばされた真相を知るなら、遺跡に行くのも手なんだ」

「僕らは、話を聞いてから決めるよ」


 ライオットもアノンも、決断しかねていた。


 


 首領の部屋に通されると、そこにはわらわらと男たちが立っていた。

 イルバーと一緒にいた三人、ブルース、ジャン、デザイアがいた。首領と、イルバーの父、リミナルさんもいた。

 もう四人おり、ラディ隊と呼ばれる面々であると紹介を受ける。【立ち尽くす兵器 ブラッディアームズ】のラディ。【叛乱地獄 チェインオーバードライブ】のチェイン。【漂流連撃キャノンサプライズ】のサライ。【有限戦線 ポータブルファクター】のファブル。


 話は予想通り、遺跡の文字盤を見てもらいたいという依頼だった。考えあぐねていると伝えつつも、行くとしたらどのように考えているのかとライオットが力なく聞いている最中、大人しく耳を傾けていると思われていたアノンが突如叫んだ。


「そんな人数で行ったら、僕一人じゃ守り切れないじゃないか!」



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