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54,関係は?

 朝早く起きたライオットが居間へ入ると、イルバーが武器の手入れをしていた。


 ライオットが森の民が使用する武器を珍しいと感じるのと同様に、魔法を垣間見たイルバーもさまざまな疑問符を抱えていた。

 同僚や上司、家族にも、あの光景は黙っている。魔物に痕跡があっても、信じてもらえないと考えていた。それほどの現象をイルバーは見せつけられた気がしていた。


 イルバーがすべての武器を床に敷いた布へ並べ、ライオットを見据える。


「なあ、ライオット。アノンは、そこらの木の枝で、魔物に致命傷を負わせている。あれこそ、何なんだ」

 

 声低くすごむイルバーに、睨まれたライオットの喉が詰まる。


「アノンは……」


 イルバーも兵士だが、ライオットだって騎士である。似た職業でありながら、肝の座り方が若干二人は違う。命をかけてきた回数のせいかもしれない。

 なんだかんだと言って、最強の魔法使いや国随一の黒騎士と組み、ライオットは守られてきていた。


 上手うわてな彼らに頼って戦えば、守られている安心感がある。なにがあっても、彼らがフォローしてくれる。それは信頼というより、甘えに近い。


「アノンは、最高の魔法使いだ。それだけだ」

「魔法使いね……。でっ、ライオットは何」

「俺は……、騎士だ」

「魔法使いに騎士か。童話みたいだな。でっ、二人の関係は?」


 改めて聞かれるとライオットは困る。腕を組み、いくつかの単語を当ててみる。友人、仲間、同僚、主人、どれもしっくりこなかった。


「強いて言うなら、護衛対象、かな。俺の……」


 ライオットもそれしか浮かばなかった。

 イルバーも何となく納得する表情に変わる。


「あのか弱そうな女の子なら、護衛の一人ぐらいついていてもおかしくないか」


「かっ、か弱い!?」


(誰が!)

 

 ライオットの知っているアノンはもっと生意気で、文句ばかり言っている、厭味ったらしい少年だった。


 しかし、考え直す。


(いや、今のアノンならか弱いか……)


 その時、かちゃりと背後で居間の扉が開く。振り向くと、アノンが立っていた。


「おはよう……」


 サラから借りた服をちゃんと身につけた姿は、しっかりと女の子だった。


「おはよう」

 イルバーは当たり前に挨拶する。


 ライオットは(夢じゃないのかぁ……)という複雑な思いで、「おはよう」と告げた。





 アノンが目覚めた時、部屋には一人だった。つやっとしたシーツにくるまって眠っていた。目覚めた今も、なめらかな布地のなかで溶けていたい気持ちだった。

 

 枕元に、本と玉に、脱いだ衣類を置いている。目をこすりながら、座る。体からずり落ちる掛布を寄せて、肩にかけた。掛布のぬくもりが離れがたい。


 衣類を掴み引き寄せる。

 掛布のなかでもぞもぞと着ようとしたら、ぽろりと下着が落ちた。

「……」

 見た瞬間、硬直する。

 昨日の一日が脳裏をよぎり、身に起こったことをくっきりと理解した。


「……どう、しよう」

 床に手をつき、シーツを握る。


 案の定、胸がくっきりと見えた。

「もう、いやだあ」

 だれもいない部屋で、か細い悲鳴をあげていた。


 それでも何とか下着を含め服を着た。本を抱えて、玉を手にする。立ちあがり、ふらりと部屋を出て、廊下を進む。居間の扉の手前で止まる。ライオットとイルバーの声が聞こえた。


「なあイルバー、ここでは、魔物の核を食べたりはしないのか」

「あんな石のような固い核をどうやって食べるんだ」


 アノンのポケットには、魔物の核が入っている。そっと手を忍ばせて、一つ手に取る。

 咀嚼する時は、魔力を使う。口内と歯に魔力を伝わせて砕くのだ。


 溢れる魔力量を備えていながら、その多い魔力量でも不足するから、魔物の核で補っている。アノンは、そのように教えられていた。それを裏付けるように、不足時は飢餓感に襲われる。

 魔法使いの中でも、アノンは特殊だ。その魔力量から、物心つく前から管理されていた。


 たまらず、手にした魔物の核を口に放り込んでいた。


「なあ、ライオット。アノンは、そこらの木の枝で、魔物に致命傷を負わせている。あれこそ、何なんだ」

「アノンは……。アノンは、最高の魔法使いだ。それだけだ」


 ライオットの答えにほっとしながらアノンは魔物の核を飲みくだす。


「魔法使いね……。でっ、ライオットは何」

「俺は……、騎士だ」

「魔法使いに騎士か。童話みたいだな。二人の関係は?」


(……関係って何?)

 扉の前で、立ち往生するアノンも冷や汗が浮かぶ。


「強いて言うなら、護衛対象、かな。俺の……」

 ライオットの答えに、ほっとした。


「あのか弱そうな女の子なら、護衛の一人ぐらいついていてもおかしくないか」

「かっ、か弱い!?」


(なんで!)

 アノンも、これ以上聞いていられなくなる。今後、人前で魔物の核を食べるのはやめようと思いながら、扉を開いた。  


「おはよう……」


 入室すると、イルバーが普通に顔をあげた。

「おはよう」


 ライオットは振り向き、複雑そうな表情で、「おはよう」と言う。今までの話を聞いていないふりをして、アノンはライオットの隣に座る。握っていた玉を見せた。


「早く、リオンを捜したい」


「リオンとは?」

 目の前のイルバーが片づけながら訊ねてきた。


「はぐれた仲間だよ」

 ライオットは無難に答え、アノンに目を向ける。


「探すのは広いところがいいのか」

「できたら、見晴らしが良いところがいい。方角をしっかりと確認したいし、その方向に何があるか見たい」



 手がかりがある以上、優先順位はフェルノとリオンを捜すことが一番だと、二人は考え始めていた。



「イルバー。どこか見晴らしのいいところはないか。昨日、行った一番高い場所が理想だ」


 イルバーのような男達、つまりは兵士がわらわらとたむろし、焚火があった最上階をライオットは思い出していた。


「あそこは、周囲を見回すためにあるからな。なら、今から行くか」

「今から!」


 ライオットとアノンは一斉に驚いた。


「サラが朝食を用意するのも時間がかかるし、俺も今日は昼からだからな」


 惑うアノンより、ライオットの方が切り替えが早い。


「じゃあ、行くか」


 ライオットに声をかけられると、アノンは素直に頷いた。

 イルバーが、かよわいと形容した意味合いはライオットも分からないでもなかった。今の素直なアノンの一面を切り取れば、そう言えないこともない。


 しかしだ、ひとたび本性が現れれば……。


(可愛げの欠片もないはずなんだよ。まったく、いつまでこの状況が続くんだか……)

 





 アノンは居間のテーブルに本を残し、玉だけ持ち、外へ出た。三人は連れ立って、上を目指す。


 最上階のフロアはだだっ広い。中央に、焚火が燃え、炎が爆ぜる。朝日が伸びて薄明るくなり、朝もやも消えかけていた。


「今日は、ラディ隊が見張りか」

「らでぃたいとは?」


 ライオットが訊ねる。


「俺たちは、四人一組で一小隊としているんだ。その小隊ごと、それぞれのリーダーをチーム名にしているんだ」

「イルバーのところは、イルバー隊となるのか」

「よく分かるな」

「最初に、声を荒げた時の印象かな」


 ライオットはにっと笑った。次いで、アノンに目をむける。


「アノン、玉に反応はあるか」


 こくんと頷き、ふらふらとアノンは歩きだす。その後ろをライオットとイルバーはゆっくりと追う。


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