52,魔物の核
学園から王城へ戻ってきたフェルノは、アストラルと別れてから、リオンの部屋に真っ直ぐに向かった。
扉を数回ノックする。
「リオン様、起きてらっしゃいますか」
待っても、返答はない。聞こえていないか、まだ寝ているのか。
「お邪魔しますよ」
そう言いながら扉を開けた。
リオンは起きていた。剣を抜き、立っている。片手で柄を握り切っ先を床にむけ、もう片方の手をまじまじと見つめていた。
「リオン様、何をされているのですか」
リオンがはっと顔をあげた。
フェルノが寄っていき、腕に触れた。
空間がふっと変わる。
フェルノは、周囲を見回して、目を閉じて、開いた。
「リオン、休めたのか」
「はい」
「外へは出てないのか」
「出ていません。探索は夕食後にしようかと思います」
「今は剣を抜いて、何をしていたんだい」
「目がさめたので、魔術具に魔力が通らないかどうか確認していました」
「どうだった」
「ほぼ通りません」
「ほぼということは……少しは通ったのか」
「はい、辛うじて……。火球を飛ばしたり、爆発を起こすような派手な使い方はできません。それでも、僅かに刃に魔力を通じさせれましたので、魔物を切る程度はできるかと思います。魔術具に通った魔力自体はほんの少しだけ使えます」
「魔術具に魔力を少しは通せるということだね」
「中途半端ですよね、完全に封じていないなんて。不完全すぎます」
「なるほどね」
「あと、これを見てください」
リオンはポケットから手に収まる透明な玉を出した。
「これにもわずかにですが魔力が通りました。以前、アノンから受け取った魔術具です。これを持っていると、居場所が分かると言われています」
「使えたら、アノンやライオットの居場所が分かりそうだね」
「たぶん。しかし、ここはあまり魔力が自由に使えません。わずかな魔力を通じさせて、近くで反応すればいい方だと思います」
「ないよりはずっとましだよ。少なくとも、アノンなら遠くでも探れるかもしれない。微弱でも、魔力を通しておくのがいいだろうね」
「そうします」
「あまり、この空間も多様出来ないだろう。私の学園での出来事は、通常の空間で話す。話し方は、不満だろうが、つき合ってもらうよ」
そう言うと、フェルノはリオンから手を離す。
空間が元に戻る。
(私から見ると、リオンから手を離した瞬間に元へ戻る印象だな)
手を離してすぐにリオンが時を動かしているかどうか。フェルノに知る術はない。
リオンから見ると、フェルノの手が離られれば彼も空間と同化してしまう。人形のように動かなくり、色味も失われる。そこでは動けるのはリオンだけだ。
能力を多用するのが難しい以上、すぐにリオンは時を動かす。
色味を取り戻したフェルノが動き出した。
リオンはまず剣を鞘に納めた。空間に入る直前のフェルノからの問いを思い出し答える。
「少し、剣を振っていました」
「お休みになることができて、良かったです。私は学園に行ってまいりました。少々お話よろしいでしょうか」
フェルノは軽やかにテーブル席に向かう。椅子の背もたれに手を添えて、座る前にリオンに向けて身をひねる。
「今日の夕食は、こちらでと、お願いしました。間もなく運んでくれると思いますわ。あと、明日は会食になるそうでる。環の国の国王様と王妃様もご一緒だそうですよ」
リオンはげんなりした。異空間を多様出来ない以上、この調子で話すフェルノとつき合わなくてはいけないわけである。
重い足取りでテーブル席へと向かった。
フェルノが近づくリオンを見上げる。
「私、学園で面白い話を聞いてきましたの」
リオンが耳だけ傾けて、椅子に腰をかける。声だけ聴いていれば、妹姫そのものだった。
「魔物の核を利用して、聖堂からここまで乗せてもらった乗り物を動かしているのですって……」
リオンが目を見開く。
「あれを? 魔物の核で?」
フェルノは静かに頷いた。
「私も驚きました。自動車を動かす燃料だけではないのです。車体、あの乗り物の金属部分ですね。その金属の素材にも魔物の核を練りこんでいるそうです」
「まさか」
「私も、驚いてしまいました」
くすくすとフェルノは笑う。
「やっぱり、リオン様も驚きますわね」
「驚くでしょう」
「この環の国では、魔物の核をエネルギーとして、様々なものを加工し活用しているそうです。
自動車の車体、燃料。建物のを建てる際の骨組み。日用品も魔物の核を練りこんだ金属で作られた品の方が高価だそうです。その方が丈夫なのですって、面白いでしょう」
フェルノがふふっと笑う。
リオンは表情を変えずに頷いた。
「魔物の核はどのように入手を……」
「森の民 という森を拠点に暮らす方々が大きな魔物を狩っているそうです。それを環の国が買い取り、森の民の方は、その買い取られたお金でこの街の品々を買い求めて、暮らしているのだそうですよ」
「地図に描かれた森に家に住んでいる人々ですね」
「そうです。たまに、首都に魔物の核を持っていらっしゃるそうなので、その際に会うことが叶うかもしれませんわ。その方々も、魔物を狩る武器には、魔物の核を練りこんだ金属を使うそうです。そうしないと魔物を屠れないというお話でした」
「武器に、魔物の核を使用するのか」
リオンは呟く。
フェルノは強く頷いた。
しばし沈黙の帳がおりる。
押し黙ったリオンにフェルノが合わせたのだ。
騎士であるリオンは魔力は魔物の核を破壊するためにあると思っている。
(武器に魔物の核を利用し、魔物を屠る森の民か……)
多量の魔力を必要とするアノンは魔力補充のために魔物の核を食べていたとリオンも思い出した。
(ここの人間は魔力がないから、魔物の核を利用しているのか……)
「リオン様」
思考に没していたリオンへ向け、フェルノが穏やかに名を呼ぶ。
「アストラル様の他、今日は同じ学園に通われる三人の方とも知り合いましたのよ」
一瞬、フェルノの目が底光る。
「お一人目は、武官長の子息で、【微塵暴虐 クラッシュゴースト】、トラッシュ様。
お二人目は、文官長のご令嬢で、【黒の炎球 プラズマナイトメア】、メア様。
最後は、司祭様のご令嬢で、【無限贄 パラサイトエンドレス】、エレン様。
いずれかの機会で、リオン様もお会いするかもしれません」
(覚えておけということだな)
そういう意味を込めて、リオンは頷く。
その後、二人の元へ夕食が運ばれてきた。静かに食べ終えた後、フェルノは部屋へと戻る。
「今日は私疲れました。すぐに寝てしまおうかと思います。では、また明日リオン様」
残されたリオンは、夜の探索を始めることにした。




