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50,核の利用

 アストラルとフェルノ、そして、トラッシュは王城の表門で待っていた自動車に乗った。

 すでに乗り込んでいた運転手が操作し、乗り物は進む。後ろの席にアストラルとフェルノが乗り、前にトラッシュが座る。


 聖堂に通じるのは王城の裏側であり、表側の正門側が人々の営む街へとつながっていた。


 自動車に乗り込んでもしばらくは、王城の敷地内だった。高い木々は見られない。草と花々が広く植えられ、手入れも行き届いていた。庭師らしき人が遠方に数人見えた。


 車窓から外を眺めるフェルノの視界に、キラキラと光っているなにかが映る。

「あれはなんでしょうか。アストラル様」

 フェルノが見ている車窓を眺めようと、体を傾けたアストラルが「ああ」と呟いた。


「あれは泉です。の国にはいくつかの泉があります」

「泉……。では、砂漠の水辺にこの都市は築かれているのですね」

「はい。水がなければなにも始まりません。貴重な資源なのです。ですので、きちんに分配されるように、国が管理しております」


 車窓を眺めていると泉の光が過ぎ去った。

(自動車は早いな。ほうきとどちらが早いだろうか。少なくとも、乗るだけなら、ほうきより技術はいらないようだ。ほうきは運転できる者が限られている。この自動車がどのように動いているか知れないものの、魔力を持たなくても遠方への移動手段となるのは魅力的だ)


 道が舗装されているからか揺れも少ない。ただ滑るように走ってゆく。


(乗り心地は、馬や馬車より上等だな。人間の国にあれば、物流が変わりそうだ)


 道は石畳のような細かい段差もなく、土の道のような汚れも少ない。ぬかるみもなければ、雨が乾いた後にできる凹凸もない。雨が降らないからかと道を確かめたら、とても硬かった。


(こんなにまっ平らな道をどうやって作るのだろう。大きく平たい巨石と並べるか、即席で道を想像する技術でもあるのだろうか。

 魔法使いや魔道具を用いれば、平らな道は作れるだろうが、そもそもここは魔力や魔法が使えない。資源も限られているはずだから、なにか別の技術があるのだろうな)


 同乗者を楽に運ぶ速い乗り物。硬くしっかりした道。


(ここは私の知らない技術に長けているようだな。なかなか、面白いぞ)


 魔法とは違うものの、魔法使いが扱うような乗り物だとフェルノは自動車をとらえていた。

 それだけでなく、装飾少ない建物はシンプルで美しい。その造形美から、豊かな土地に築かれた街ではなくとも、それなりの文化水準は備えていると察することができた。


(資源が乏しいなかでの、美意識を捨てずにいるとしたら……。三百年前に滅ぶ前の文化や技術の水準は想像するより高かったのかもしれない)


 静かな道路を走る。緑から、人々の営みを感じる風景へと変わっていく。


 フェルノは、隣にいるアストラルの横顔を見つめる。


(同じ第一王子でも、違うものだな)


 何を質問しても丁寧に答える。親切であり、穏やか。彼は今見せている態度そのままの性格の人物かもしれない。


(だとしたら、私とは違う理想的な第一王子様だね)


 聖女の召喚を心底から歓喜していたら、フェルノのとらえ方が間違っていたということになる。疑うだけ無駄だったと言うことになるが、そこは今のところ保留とした。


 アストラルもフェルノの視線に気づく。

 目が合うと、柔和にほほ笑む。(本当に、キレイに笑うな)と、フェルノは感心する

 

「いかがされましたか、フェルノ様」

「自動車がとても速くてびっくりしておりました。そういえば、この乗り物は魔物の核を利用されているそうですね」

 文官長の言葉をフェルノは思いだし、なんとなく問うた。


 魔物のなかには核がある。推定百前後。それをすべて燃やし尽くさないと魔物は死なない。核が一つでも残っていたら、どんなに半死の状態になっても蘇ってしまう。


 肉体と魔物の核。この二つをもって、魔物は魔物として成り立っている。


 魔物の体に、核が一つでも残っていれば、魔物は死なない。

 騎士以上の魔力を使う者でなければ、魔物を狩ることは不可能だ。

 魔法使いは、潤沢な魔力による最高の魔法を用いて魔物や人を屠る。

 魔術師は、魔術具を作り魔力を注ぐことでその道具と魔法を駆使し魔物や人を屠る。

 騎士は、魔術具に魔力を通じさせ、その技量と魔力を込めた魔術具を用いて魔物や人を屠る。


 魔物の核は魔物の命であり、フェルノの中で、それを利用するという発想はなかった。


「魔物の核はエネルギー源として、私たちの生活を支えとなっております」

「生活の支えですか。なくてはならないものなのですね」


「はい。私たちの今日の営みは魔物の核があってのものです」

「そんな大仰な……」


「この車を作ります車体の金属にも魔物の核が練りこまれております。核を練りこんだ鋼は強く、乗り物だけではなく、建物や武器、生活用品に至るまで様々な利用が為されております。

 奇しくも、本日提出期限のレポートも魔物の核の利用についてですよ」

「魔物の核を利用する方法を学ばれていると……」


 フェルノは純粋に驚く。魔物の核に利用法があるなど考えたこともなかった。いつも、魔物を屠るために、魔力で燃やし尽くしていただけだった。


「はい。魔物の核を利用しいかに生活を豊かにしていくかは我々の新たな発想によりもたらされます。魔物の核そのものは素材であり、私たちの発想なくしては、ただの石でしかございません」


「その、ただの石を活用する技術をお持ちなのですね」

 

(面白い技術だな)と、フェルノは感心する。


 自国にもたらせば、一つの産業になる。強い鋼、武器、誰でも魔法使いのように走らせる乗り物……。

 快適な乗り心地に身をまかせながら、追い出された国へ戻ってからのことに思いをはせていることに、フェルノは少々バカらしくなる。


(面白いには面白いが、戻れなくては意味がないじゃないか)

 自嘲の笑みが浮かぶ。


「フェルノ様も、ご興味がおありですか?」

 好奇心に駆られた表情が一瞬よぎったことをアストラルは見過ごしていなかった。


「はい。魔物の核を利用するなど、考えたこともなくて……」

 今さら国のことを考えていたとも言えなく、かといって否定も出来ず、フェルノは静かに頷く。


「ならば、レポート提出時に教師と会えるかもしれません。会えたら色々質問してみてはいかがでしょう。私からもお願いしてさしあげます」

「まあ、ありがとうございます。アストラル様」

 フェルノは華やいだ笑顔を浮かべた。その技術に好奇心がそそられるのは変わりなかった。


 自動車は滑るように走り続ける。道は平らに舗装された道路では、時折すれ違うだけで、自動車の数は少ない。フェルノが数えただけで数台だろう。王城へ向かう道だから少ないのかは判断しかねた。


「道はきれいなのに、走る車は少ないのですね」

「自動車は限られた場所しか走れないのです。人と接触しないように、人が歩く道路とわけてもあります」

「なぜですか」

「自動車は硬い乗り物です。同じ道路を走りますと危ないのです。事故が起きて、怪我をするだけではすまないこともございます」


 馬車でも事故はある。故郷も都市部の上空は自由飛行が禁止されていた。落下物の事故防止など理由があり、法規制されている。

 それより早い乗り物ならなおさらとフェルノは納得する。


「それにしても少ないですね」

 すれ違う自動車も数えるほどだ。

「魔物の核は、貴重なエネルギーであるため、水と同様に国が管理しております」

「とても貴重なのですね」


「はい。水と同じように、貴重なものです。

 森の民からもたらされる魔物の核は年々減っております。どうしても少ない物ゆえに管理分配しなくてはいけない現状となっております」

「減っているのも理由があるのですか」


「魔物を狩ることは非常に難しく、近年魔物の狂暴性が増しております。魔神復活の影響がでているものと私たちは考えております」


「魔物が狂暴になっているのですか?」


 フェルノは眉をひそめる。魔物が狂暴化するなど聞いたことがなかった。アストラルはフェルノの表情を恐怖を覚えていると誤解した。

 

「御心配には及びません。の国は魔物の脅威が及ばないよう、守りがかためられております。魔物が襲ってくることはございません」


(さて、私がいてもそう言い切れるだろうか)

 魔寄せの体質とこの国の守りではどちらが勝っているか。現状では比べようもない。


(しかし、魔物の核を利用か。考えたこともなかったな)


 はたと気づく。フェルノは、拳を口元に寄せた。


(いや……。魔物の核を、利用している者は一人いる。アノンだけは、魔物の核を食べていたな)

 

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