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30,異世界へ飛ぶ

 アノンは、三人を見回した。

 フェルノは変わらず、涼しい表情をしている。

 

 リオンは眉間にしわをよせて耐えていた。

 ライオットはあからさまに嫌そうな顔を見せた後に、天を仰いだ。


「でっ、異世界って何? アノン」

「僕だって、知らないよ」


((知らないのに、しれっと異世界なんて口にしているのか! この魔法使いは!!))

 騎士二人さらに驚愕するも、すでに会話に口をはさむ気は萎えていた。


「端的に言えば、私たちは異世界に捨てられるのかな」

「たぶん、そう。僕とフェルノはね」

 アノンはそう言ってから、騎士二人に目配せする。

「リオンとライオットはついでだよね」


 ライオットがすかさず反応する。

「っつ、ついでって、何だよ!!」

 無言のリオンも含め騎士二人、めまいを起こしそうだった。


「フェルノだってさ。僕たちが、フェルノを暗殺しなさいと言われているぐらい知っているだろ」

 アノンが当たり前に言い出したものだから、さすがのフェルノも面食らう。


「そうだね。もちろん、知っているよ」

「今さらだよね。僕たち前々から知ってて知らないふりしてたんだから」

「まあねえ……」

 これは暴露なのか、なんなのか。フェルノも苦笑するしかなかった。

「大概だよねとか、いい加減にしろよとか、ってこういう時に言いたいと思わない」


 今まで、かたくなに口にしないできたのは何だったのだろうと、二人の騎士は頭痛がしてきた。

 存外、この魔法使いはいい加減なのではないかとさえ思えてきた。


「僕ね。最初、フェルノを殺せなかったら、異世界へ飛ばせって意味だと思ってたの。僕が、暗殺者の本命かなって。でもさ、僕への知らせって魔法術協会から届くから、その線はないなと思ったんだよ」

「どうしてだい?」

 フェルノは不思議に思う。魔法使いなら、寝首をかくには長けている気がした。


「僕、殺る気ないし」


(((それは知っている)))

 三人は魔法使いのしれっとした弁に脱力する。


「ああ、無気力じゃないよ。殺す気はないって意味ね。

 事情は違うけど、ライオットもリオンだって。そもそも殺る気ないでしょ。僕のこと、白い目で見る資格なんてないよね」


「まあ……そうだな」

 ライオットは頭をかく。

 リオンは無言だが、否定はしない。


「僕らって結局、何もしなくて良かったんだよ」

「異世界に飛ばすからか」

「そうだね、ライオット。異世界に飛ばしてしまえば、この世界への影響はなくなるもの。丁度いい魔道具を魔道具師が作っていたわけだしね」


「私たちの目的地を魔王城にしたのも、始めから異世界に飛ばすことだったということか」

 フェルノが二人の騎士に申し訳ない顔を向ける。

「すまないね。巻き込んでしまって……」

 ライオットは複雑な表情を浮かべ、リオンは無表情だった。


「そうとも考えたんだけど……。別になにかあるのかなって……。人間の国と魔物の国ってさ、元々繋がりがあるわけだし……」

 アノンは口元に拳を寄せて、言いよどむ。


 アノンがこれだけしゃべっていると、ライオットも(今さら隠してもなあ)という気になってきた。

「俺は、暗殺しろって話の他に、アノンを守れって言われてたよ」

「僕を?」

 思案していたアノンが顔をあげた。怪訝な表情でライオットを見上げる。


「そう、こんな可愛げのない十分強い魔法使いをだよ。俺、いらねーじゃんっていっつも思ってたわ」

 アノンは嫌そうな表情を浮かべる。フェルノとリオンは((それはそうだろう))と思った。


「では、リオンは?」

 フェルノに矛先を向けられ、リオンは困り顔になる。ここで言わないのも変かと思いなおした。

「……俺はフェルノを守れ、だよ」


「また、妙なことを言われてたね」

 フェルノが気の毒そうに笑む。

「正直、意図は計りかねてます」

 目を閉じて、苦渋の表情でリオンは答えた。


「ぐちゃぐちゃなんだよね。殺せって言ったり、守れって言ったり。じゃあ、何なのか、答えもない。言うだけ言って、実行しなくても文句もない。やれとも言わない。おかしいよね。

 おそらく、フェルノもそういう認識で僕たちを疑ってみてて、僕たちもそういうことを言われているという認識でいるってバランスで十分良かったんじゃないかって思うんだよ。僕たちは、始めからフェルノを暗殺なんてしなくても良かったんだ」

 多弁なアノンが、ごもっともなことをよどみなくしゃべる。


「異世界に飛ばすからだろ」

「そう」


 なんとなく、会話が一区切りつく。四人の間に小さな沈黙がおりた。


「アノンって意外と、おしゃべりなんだね」

 沈黙を破り、会話内容以上に、気になったことをフェルノは口にした。三人は、この旅で一番しゃべっているのが、アノンなんじゃないかと感じ始めていた。


「……なんで、こんなとこで、こんな話になったんだっけ」

 ライオットが頭に手を当て、空を見上げた。


「ただの時間稼ぎだよ」

 しれっとした顔で、アノンがはっきりと言った。


 リオンとライオットが周囲に気を配るも、時すでに遅し。


 四天王と呼ばれた魔女たちに、エクリプスの魔力が添えられた魔道具が魔力を帯びて輝きを放っている。下に上に火柱のような光が立ちのぼり始めた。


「四隅の彫像に魔力が十分にいきわたるよう時間を稼いでたんだね」

 四隅を順番に見つめながらフェルノは感心する。


「うん。フェルノもリオンもライオットも強いから、もう一度彫像狙らわれたら、僕一人じゃ防げないよ。僕を抑えに一人、残り二人で一体の彫像を破壊されたら終わりだもの。協力されたらこっちの負けだったんだよ」


 光は徐々に四人を包もうとしている。

 異世界に飛ばすという突拍子もない話題に気を取られていたせいで、普段見えるものも見えなくなっていた。


「僕が年下だからか。三人とも、僕が話し始めると、よくきいてくれるよね」

 言われてみて(((それはある)))と三人は認めた。

 出会った時、無口な子どもという印象が強いからだろう。話始めたらちゃんと聞かねばという気持ちがわくのは……。


「これから何が起こるのか、どんな風に飛ばされるかもわからないと思う」

 包まれていく光を見回しながら、アノンは横に立つライオットに少し寄った。

「でも、誰かを守れって言うのは、異世界に行った後の話かもしれないよ」


 リオンとフェルノが顔を見合わせたが最後、四人は魔道具を通して輝き放たれる魔力の光に包まれ、互いに何も見えなくなる。包まれる光の中で、ライオットは袖が引かれた気がした。

 

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