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24,三女の怒り

 サッドネスとともに、テンペストは城の下層にある魔道具師がいる部屋の扉を開けた。

 魔道具師のスロウとメカルが、魔術師エクリプスと何かを囲んで話し合っている。


「ちょっといいかしら」

 テンペストが声をかけると、三人が驚き顔をあげた。まずテンペストは、入り口近くにあるテーブルに、スペースをあけ、おぼんを置いた。


 テンペストは、端的に状況説明と魔王が語った内容を尋ねた。

 エクリプスは話を聞きながら、眉間にしわを寄せる。

 スロウとメカルは、顔を見合わせた。

「異世界に飛ばす魔道具は作っているぞ」


「異世界なんてあるのですか、メカル様」

 テンペストは訝りながら問う。

(異世界なんて、聞いたこともないわ)


「うーん」とスロウが頭をかく。

「大きな魔物はそっちから来ているんじゃないかって話もあってなあ。儂たち異世界を渡る魔道具を作ってたんだ。一種のロマンだよなあ」

「別世界だ。そそるよなあ」


「魔王さん、覚えてたんだなあ」

「ああ。肝心なこと忘れててもおかしくないと思ってたのになあ」

「絶対、忘れとると思ったわ」

「昔のことだからなあ」

 あっはっはっと二人は声を揃えて笑った。


 のんびりと魔王の言動に感動する二人にテンペストは続けた。

「その道具はすでに使える状態ですか?」

「うん。使えるぞい」

「魔王城の橋に道具をセットするから、そこに勇者一行を誘導すればよいよい」

「早めに準備をお願いしたいわ。後は最短時間で勇者を呼び寄せることね」


 エクリプスが肩あたりに手のひらにかざした。

「魔法使いが一人いる。彼に四人乗りの魔法の絨毯を届ければいい。俺が用意しよう。少し時間をくれ、夕刻前にはできる」


 テンペストは、んっと眉をひそめた。

「あなたも、人間の国の人なのに、勇者一行を異世界に飛ばすことに異論さえないのね」

「ああ、ないね。魔法術協会はここに異世界に飛ばす技術があることを知っている。最終手段として、それを行使するならば、協力するために、俺はここに来たのだから」


 テンペストが、んっと片眉をあげる。

「それ、本当に最終手段なの?」





 大蛇【叫喚 フェスティバル】を燃やし尽くし、リオンとライオットがフェルノとアノンの方に歩いてくる。空から降りてきた子はまた空へと飛んでいった。

 スノーボールの小瓶はすでに空になっていた。


 戻ってきた二人の表情は曇っている。

「さすがに、この旅はきついな」


 ライオットのつぶやきにフェルノは小首を傾ぐ。

「なにか言われたかい」

「端的に言えば、邪魔者扱いです」

 リオンの答えに、フェルノも苦笑する。


「言われても、反論のしようがないね」


 リオンは諦め、ライオットは精神的にきついと感じていた。肝心のフェルノは、どうしようもないと苦笑し、魔法使いは我関せずだった。


 結果、アノンが魔物の動きを監視するために絨毯で空を飛び、残りの三人は民家の裏手を街道に沿って歩くことにした。




  

 地下から出てきたエクリプスは、四人乗りの絨毯を抱えて食堂に入った。食事時を過ぎれば誰もいない。食堂以外人が集まりそうな場所を知らないエクリプスは、抱えた絨毯を誰に渡せばいいものかと少し困った。


「誰かいませんか」

 声をかけると、奥から顔を出したのは、デイジーだった。


「あら、エクリプス様、いかがされました」

「勇者一行に、プレゼントを用意したんだが、誰か届けてもらえないかと思ってね」

「エクリプス様がお行きにならないのですか」

 

 エクリプスが苦笑する。

「彼らから見たら、俺はここにいないはずの人間なんだよ」

「なら、家事も終わりましたし、丁度良いです。私が届けて差し上げますわ」


「いいのかい。それでは君も休みなしだろう」

「かまいませんわ。四姉妹のなかで、勇者ご一行様とご挨拶しておりませんの、私一人ですもの。口実が欲しいところでした」

 にっこりと笑んで、デイジーはエクリプスより四人乗りの絨毯を受け取った。



 


 アノンはのほほんと絨毯で空を飛んでいた。時折、下を眺めて急ぎ過ぎてないかだけ確認する。本を読みながら、適当に絨毯を操縦しても、人の歩調に合わす程度は楽なものだった。

 さっきのような魔物の影も見えない。


 割と早い足取りで進むといえど、魔王城は遠い。

 アノンの目には、その城の塔がよく見えた。


 その塔に重なるように、高速で飛行してくる影が見えた。

(誰かまた来たのか)

 そう思う間に、影は一気に近づく。

(早い)


 絨毯に乗っているアノンの胴にドンと荷物が投げ捨てられた。

「いってっえ」

 腹に響く鈍痛の下に、広がったのは絨毯だった。


 愛用の絨毯より広く、それが四人乗りのものだとすぐに見て取れた。施されている魔術をアノンは確認し、地上に目をやる。

 四人目の女の子がフェルノ達に絡んでいる様が目に入った。





 たたんだ四人乗りの絨毯を膝にのせ、魔法のほうきでデイジーは空を駆ける。四人姉妹の中で、スピードは随一の自信はあった。

 のんびりと航行する絨毯を見つけ、更に加速する。


 デイジーは怒っていた。

 普段、彼女は生生しい感情を露にすることはない。四人の中で自分が一番激情しやすい性格だと自認しており、デイジーはいつもは努めて穏やかに見せる努力をしていた。

 しっかり者を建前とする長女、物静かな次女、甘え上手の妹の間で、立つべき位置を理解していた。

 誰もが大事だった。姉妹たちの助けになるならそれが一番。デイジーにとって大事なものがなにかは、明確に定まっていた。


 のんびりと魔法の絨毯を操縦する魔法使いの真横を猛スピードで通り過ぎる最中、腹立ちまぎれに彼の腹めがけて四人乗りの絨毯を投げ捨てた。どうせ彼に渡せと言っていたのだから、丁度いい。


 そのまま急降下し、デイジーはフェルノに迫る。


 横をかためる騎士二人が気づき、武器を構えようとして、勇者が止めた。一行の足も止まる。


 フェルノの前に滑り込み、デイジーはほうきを手にし、地に立った。

「ごきげんよう。招かれざる王子様」


 真顔で警戒する騎士二人を横に立たせる勇者は、困り顔で笑む。物柔らかい雰囲気だけど、迷惑な男は嫌いとばかりにデイジーは冷ややかに睨んだ。




「ごきげんよう。お嬢様、あなたもテンペストの妹かな」

 フェルノは、空からおり立った少女に穏やかに話しかけた。


「【狂音模型 トーキングデイジー】こと、デイジーと申します」


 二人の騎士達は、勇者一行に一家言ありという少女の雰囲気に、また目を合わせ嘆息した。誰かに迷惑をかけたり、傷つけるために、騎士になった覚えはない。なかなかに不本意な評判ばかり積み重なっていく現状に無力感を覚えつつあった。 


「あんな大蛇を招き寄せる迷惑千万な方。悪いけど、このまま街道を沿って歩かれたくないのよ」

 そう言うなり、デイジーは再びほうきにまたがった。

「今しがた、魔法使いに、四人乗りの魔法の絨毯を渡してきたわ。それを使って、飛んできてもらえるかしら」

 デイジーは少しだけ空に身を浮かし、フェルノを見下した。

「あなたみたいな、迷惑男に大切な街道に一歩も踏み入れて欲しくないわ」

 言い捨てデイジーは空へと消えて行った。


「とことん嫌われてしまったね」

 飛び去る彼女を見送って、フェルノはぽつりとつぶやいた。


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