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23,魔王城の選択

 魔王城に帰ったドリームは食堂の扉をあけ放った。

「大変なの。大変なの。おっきな【叫喚 フェスティバル】がでたの。森から、まっすぐ一直線に街道に向かっていったんだよ。あんなの見たことない!」


「フェルノのせいね」

 テンペストが忌々し気に呟く。デイジーは目を見開いた。

 魔王とボードゲームをしていたサッドネスが顔をあげる。魔王は腕を組み盤面を睨み、悩み続けた。


 食堂に入ったドリームは、テーブルにパンの入った袋を置く。


「どうしよう、いちねえ。にねえが愛刀をもって向かったから、応戦中だよ。助けに行く」


 テンペストは腕を組み、難しい表情を浮かべ、目を閉じた。フェルノは強い。あの強者の護衛ならそれなりの強さは備えているだろうと予想していた。

 大丈夫だと思いつつも、確かめるように、顔をあげ、サッドネスに問うた。


「サッドネス様。フェルノが連れている、騎士二人と魔法使いはどれほどの方なのかしら」

「どれ程と言えば、【叫喚 フェスティバル】ぐらいなら、一人でも負けないでしょうね」

「それぞれ、一人で?」

「もちろんです」

「フェルノ自身も強いものね」

 呟きながら、テンペストは険しい表情を浮かべる。


(強いからいいということじゃない。このままフェルノが街道を歩き続けて、被害がなくすむ保証がどこにあるの。街道近くで戦いが起こること事態、望ましくないわ。そもそも、魔王城にたどり着いてどうなるというの。彼を中心に、ここで巨大な魔物相手に立てこもれと言うのかしら)


 テンペストはため息をつく。

「ねえ、サッドネス様。フェルノを追い出すにしても、ここってないんじゃないかしら。魔物の国を人間のゴミ捨て場にしてもらってもこまるわ。この際、人間の国へ引き返してもらえないのかしら」

「申し訳ありませんが、それはどうしてもできないのです」


「こちらまで来たことにして、という訳にはいかなの」

「いきません」

「戻ってこないことを望んでいるのね」

「さあ、どうでしょうか」

「もう、面倒見切れないわよ。初日から、化け物を呼び出すなんてありえないわ」


 巨大な魔物は滅多にあらわれない。出てきたとしても、樹海の奥を徘徊している姿を見るばかりだ。

 街道に出てくるのも徐々に近づくことが多く、塔の上から監視するだけで終わることも多い。街道に直進するなんて経験上なかった。


 忸怩たる思いで、テンペストは悩む。このまま、数日監視すれば終わりという話ではない。魔物がいない人間の国にいたって困る魔寄せの王子様なら、魔物の国に入れば、もっと迷惑な存在になる。魔を寄せるなんて、どこにいたって邪魔者だ。

 さすがに爪を噛みたくなる。


「捨てる場所ならあるぞい」

 腕を組み、盤面睨む魔王が呟いた。


 姉妹三人が魔王を見つめた。

「パパ、どういうこと」


「この世界から、飛ばす方法はある」

 魔王は顎を撫でながら、ぼそぼそと呟いた。

「スロウとメカルに聞け……」


 魔王が駒を一つ動かした。サッドネスはちらっと見て、瞬時に駒を動かす。

「魔王様、詰みです」

 魔王は体をよじる。前のめりになり盤面をじっと見つめた。


 その隙にサッドネスは立ち上がる。

「人間の国でも、あの第一王子を置いておくわけにはいかないのです」


 テンペストも睨みあげる。

「こちらも、あんな勇者がきても迷惑よ!」


「人間の国では、この魔物の国で王子が命を絶ちましても不問です」

「へえ、王子様なのに、その命に関心ないの」

「そのようなことはございません。ですので、三人も護衛がついております」


「護衛ねえ。あんな山を登らせておいて、扱いがまるで王子様じゃないわよね」

「あの体質です。街中は必然として歩けないのですよ」


「本音を言うわ。人間の国の問題をこちらに飛び火させて、足元すくわれたくないの」

「ここは世にも恐ろしい、魔物の国なのです。巨大な魔物さえ出る地であることは重々承知しております。どんな()()()がいても、人間の国の者は、やはり魔物の国だからと思うでしょう」


 テンペストが何を言っても、サッドネスの鉄面皮は動かない。

 

(つまりは、魔物の国であの王子様をどうしたとしても、関知はしないということかしら)


 テンペストが心配することは一つ。

 王子の処遇によって、言いがかりをつけられ、人間の国に攻められることだった。


「護衛ごといなくなっても、人間の国は、かまわないのかしら」

「勇者として、旅立って行った王子です。守る護衛も同様。命がけなのは、当たり前ではないですか」


(絶対に、裏がある)

 テンペストは唇を噛んだ。どんな決断が正しいのか、考えあぐねる。一言が重い。その一言で、人間よりずっと少ない、街道で暮らす魔人たちの命にかかわることをテンペストは意識していた。


 それでも、現時点の脅威は、あの王子様の迷惑体質以外ありえない。テンペストは決断した。

「いいわ。飛ばしましょう。メカル様とスロウ様のところに行くわよ」


 テンペストが意気揚々と退室しようとした時。


「白姉様! 一緒に、三人分のお昼ご飯も運んでくださいませ」


 振り向きざま、食事を乗せたおぼんを三女に突きつけられ、長女の顔が引きつった。悩んでいたことがバカらしくなる日常に引き戻され、テンペストは動揺する。


「そつ、そうね。食事は大事よね」


 こと生活面に関してだけは誰もデイジーにはかなわない。





 反り返った曲刀を振り下ろし、蛇の尾を切り裂いた女の子を、リオンとライオットは見上げた。四姉妹の一人だと二人はすぐさま理解する。


 裂いた蛇の尾を踏み越えて、彼女は騎士の前に立った。曲刀を納め、腕を組んだ。


「あなた達、邪魔」


 あからさまな嫌悪感をたたえた表情で言われて、二人の騎士は困った。至極迷惑な主人と同行している自覚はある。


「街道に魔物が直進することはない。私たちは街道を守る義務がある。魔人は家族。家族に仇なす勇者一行は、迷惑!!」

 二人の騎士は黙って耳を傾ける。冷ややかに睨まれても、言い訳のしようがなかった。


 明らかに、この魔物が街道を目指したのはフェルノのせいだろう。

 騎士二人、本来の仕事は、人々を守ることである。魔人を守ろうと剣を振り上げる彼女の方が、職業柄まともに見えた。


 惑う騎士二人は目を合わせた。

(謝罪するか?)

(それですむか?)

 苦い表情を浮かべる互いに、嘆息しか出ない。


「私たちは、ただ平穏に生活することをのぞんでいるだけ。それを脅かすお前たちは、私たちにとって悪でしかない」

 騎士二人、不本意ながら、正しく評価をされていると納得するしかなかった。


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