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21、末妹のお願い

 ずんぐりした小ぶりな馬に荷車に引かせてパンとお菓子を売る魔人がいる。長い街道の入口あたりから、馬を引き売り歩く。彼は一時ひととき人間の世界に入り込んで、とある店で修行してきていた。

 見た目だけは魔人は人間と同じだ。だから、人間の世界に入り込み、技術を少しだけもらってくる変わり者がたまにいる。

 焼き菓子とパンを売るその店は、四姉妹のお気に入りだった。人間の世界は技術の修練が速い。昔、固かったパンが、柔らかくなっていて、四姉妹は感動したものだ。

 上空から街道を馬でのぼってくるパン屋を見つけたドリームは街道へと滑り降りる。パン屋の主人も降りてくるドリームの姿を見つけ、馬を止めた。


 挨拶を交わし、ドリームがぱっぱっと品を注文していく。パン屋の主人も言われた通り、それらを袋に包む。


 最後に、ドリームは夜中に食べるお菓子を物色し始めた。一つという条件である。こればかりはドリームも悩んだ。

 小瓶入った数種類の焼き菓子。丸く平たいものから、茶色く半球型のもの、白くまあるい物もあった。

 こういう時は、どうしても最後の一瓶になる品に目が行ってしまう。

 

 スノーボールが入った小瓶にドリームは手を伸ばした。

 すると、横からも手が伸びてくる。 

 小瓶の蓋手前で二つの手は止まった。


 伸びてきた隣の手を辿り見れば、珍しい薄紫色の髪をした子がいた。濃い紫の瞳がこちらをむき、少しだけ見開かれていた。


「あっ……」

 その子は手を返す。

「どうぞ」と言うと、手を引いた。


「どうした、アノン」

 背後から声がかかる。薄紫の髪の子が振り向いた。

「もう売れていた」


 小瓶は残っている。ドリームは買うとは決めていない。

(えっ、いいの?)

 薄紫の髪の子は、踵を返す。ドリームはその動きを視線で追った。


 その子が駆け寄る仲間は三人いた。

 金髪の青年。黒髪の背の高い青年。その後ろに、白金の髪に灰褐色の瞳の青年。

 彼を見つけたドリームは思わず叫んでしまった。


「フェルノ!」


 はっとした四人が同時に、ドリームを凝視した。

 四人の目にとらえられたドリームはどぎまぎして、えへへっと誤魔化すように笑ってしまった。





 フェルノはテンペストを思い出していた。


(あの子の、妹かな?)


 リオンとライオットよりも前に出たフェルノは彼女に近づく。アノンの横もするりと抜けて、薄桃色の少女の前に立ち、少しかがんだ。

「ねえ、君はテンペストの妹さんかな?」

 柔らかく問えば、薄桃色の髪と赤い瞳の女の子がうんうんと頷いた。

「ああ、やっぱり。心配することないよ。私たちは何もしないから」


 フェルノの笑顔に加え、他の三人にもまじまじと見つめられたドリームはその視線にどぎまぎして、きゅっと身を小さくした。




 

 買い物を終えたドリームは、勇者一行とともに場所を変えた。

 街道沿いに建てられた民家を囲む低い石造りの塀に腰をかける。隣にフェルノとアノン。目の前に、リオンとライオットがいる。

 ドリームは、勇者一行がどんな人か知りたかった。


「私は四姉妹の四女で【忘却消去 デイドリームデリート】。ドリームって呼ばれているの」

 名乗ってから、買ったスノーボールが入った小瓶を紫の髪の子に差し出す。それを一つつまんだ。


「僕は、【忌避力学 アンノウンクーデター】。魔法使いで、アノンと呼ばれている」

 名乗った魔法使いアノンはスノーボールを口へほおりこんだ。


 ドリームは順番に小瓶を差し出す。

「私は、【鬼神残響 グレネイドインフェルノ】。フェルノだよ。お姉さんから、私のことはきいたのかな」

「うん。いちねえが夜帰ってきて、勇者と会ったって話してくれたの」


 ドリームは、黒髪と金髪の青年にも小瓶を差し出した。

「【串刺し多面体 コズミックリベリオン】。リオンと呼んでください」

「俺は【凍結劇場 ホワイトライオット】。ライオットと呼ばれている」


 ドリームは順番に見渡した。アノン、ライオット、リオン、フェルノ、と確認し、記憶する。


「街道は大人しく歩こうと思っているし、人々の暮らしを脅かすつもりはないよ」

 フェルノは少女に語り掛ける。 


「そう……。でも、いちねえは、街道に魔物が出ることをすごく心配していたよ」

 騎士二人は(やっぱり)と思う。さすがの魔法使いも、森を出るまで魔物行脚していたフェルノを思い出し、なんとも言えない気持ちにかられた。


「今日から、二十四時間、私たちも警戒することにしたの。魔物が現れたらすぐに対応できるように備えているんだよ。それで、今晩は私が見張りをすることになってね」


 明らかに、歩くことで、魔王城に迷惑をかけているのはフェルノの方だ。なんとなく、騎士達はいたたまれない。


「それで、お昼のパンと一緒に、夜のお菓子を買いにきたんだよ」


 騎士二人は、申し訳ない気持ちになる。小さな子に一晩中、街道を見張らせるなら、こちらの方がもっと真剣に懸命に歩くべきだろうと、そんな結論に至りつつあった。


「もうしわけないね」

 フェルノも柳眉を歪め謝罪する。

「なるべく、早めに魔王城に向かうことにするよ」

 勇者が目配せすると、同行者はしっかりと頷いた。


 ドリームは少しほっとし、フェルノにさらに問うた。

「魔王を倒しに来るの?」

 フェルノも答えに窮する。これが自分が望んだ旅でも、達成すべき目標でもないからだ。ただテンペストに告げた同じ答えを繰り返した。

「魔王様とお会いしても、私は今後について相談する心づもりでいるだけだよ」


「……そっか、よかった……」

 小さな女の子がはにかんだ。




 その後、昼食までに戻らないとならないドリームは勇者一行と別れ、魔法のほうきにまたがり、空へ飛んだ。

 四人は彼女を見送って、顔を見合わせる。


「アノン。魔法の絨毯でひとっとびとか、できないの」

「無理だよ、ライオット。僕が使っているのは二人乗りだ。せめて四人乗りの絨毯があればいけるけど……」


「あの子みたいに、ほうきは?」

「ほうきは一人乗りだ。僕やフェルノはいいけど、スピードも出るから最低でも上位の魔術師じゃないとコントロールできない。騎士は乗れないよ」


「地道に歩くしかないか」

「寝る間を惜しんで急げば二日ぐらいだな」

 ライオットが嘆き、リオンが結論を出した。

 フェルノが苦笑する。

「頑張って歩こうか」




 飛び立ったドリームがほうきを止めた。

 視界の片隅で、樹海がざわめく。木がへし折られる音がかすかに鳴った。


 デイジーには早く帰るように言われていた。しかし、非常時の予感に、ドリームがほうきの向きを変えようとした時だった。


 巨木がなぎ倒された。無数の鳥の影が飛び立った。ざわざわとなぎ倒された木を起点に生い茂る葉が波のように、ざわつく。


 なぎ倒された木々の間から巨大な躯体が天に向かって頭をもたげた。

 それは、蛇型の魔物【叫喚 フェスティバル】。


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