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223/223

220,ただいま

 フェルノは、大鏡の前に立った。


「これで異世界に行けるの、アノン」

「行ける。予測する消費魔力量を考えると、フェルノぐらいしか行けない」

「そんなに、魔力を消費するんだ」

「うん、それもあるし。そもそも、本人の魔力を使って異世界に飛ぶ仕様になっているんだ。自ら望んで異世界に行こうとしないと使わない道具だ」

「そうか、本人が納得しないと異世界に行けない道具なら、使いにくいよね。魔神や異世界の説明をして納得させて行くかと言われて、行くとは思えない」

「そうそう、だから僕らの時は、外部から魔力を注ぐ魔術具だった」

「突発的に飛ばされたよね」


 アノンが握っていた玉を、フェルノに差し出す。


「この玉に魔力を込めて鏡に手を当てると、異世界に行けるよ。

 十分な魔力を持って、かつ、異世界に行きたい人なんて、僕はフェルノ以外思いつかない」


 フェルノは玉を受け取った。


「大事なことを説明するよ、よく聞いてね、フェルノ。

 魔道具師が残したメモによると、この魔術具には条件があって、一日しか使えない。

 行って、戻ることはできるけど、二十四時間以内に戻らないと、戻れなくなる。

 もし戻れなかったら、戻れるのは最短で一年後になる」


「ということは、来年の同じ日にはまた行くことができるのかな」

「できるよ」

「一年に一回か」


「戻る時は、異世界に出た場所で玉に魔力を込めること。どこに飛ばされるかは分からない。もし場を離れたなら、必ず戻ってきて。そうしないと一年戻れないからね」

「わかった。剣やほうきは持って行った方がいいね。魔物が跋扈する森に飛ばされて、身を守れなかったら大変だ。身支度してくるよ」


 アノンに玉を返し、フェルノは一人ひらひらと出て行った。


 フェルノは着替えて戻ってきた。剣を佩き、片手にほうきを持つ。アノンの指示通り、魔力を込めた玉を持つ手を鏡に押し当てた。青白い魔力がフェルノを包む。鏡面に波紋が広がり、水のように波打った。さらに押すと玉を持つ手が肘まで沈む。一歩踏み出せば、鏡の向こうにするりと足が通り抜けた。


「行ってくるね」


 鏡面のなかにフェルノは消えた。





 身体感覚が薄れる。

(異世界を渡る時は、いつもこうだな)

 四肢の存在が消えて、再び再構成される時、別世界にぽんと押し出されるのだ。

 世界がひらいた瞬間、フェルノは目を剥いた。光の歪な輪に照らされる明度の高い真っ青な世界に放たれた。


 がばっと口を開くと、口内から泡が飛び出しだ。


(水中!?)


 想定外の事態だった。命の危険を感じて、フェルノは魔力を暴発させた。

 

 水が左右に分かれてゆく。魔力で無理やり水を左右に押しのけた。浮遊していた体が、地面に落ちる。しりもちをついたフェルノが、「いてっ」っと呟き、腰から臀部をさすり、気づく。


(……また、女になっている)


 フェルノは空を見上げた。左右に割れた水の壁面がそびえる。その壁と空の境界線がゆらめいていた。


 目の前には澄み切った水世界が広がり、元の形が分からない倒壊した聖堂があった。


(ここは、環の国の中心部か)


 光を受けキラキラと輝く水壁を見渡す。フェルノは聖堂前にあった円形の元芝部部分にしゃがんでいた。


 円を形作る道も崩れ去っていた。きれいに舗装された道には亀裂が走り、めくれあがっている部分もある。


(魔神と私たちを飛ばす時に、地面がめり込み、そこに水が溢れたか) 


 フェルノは振り向いた。

 壊れた長い道が続く。その道の彼方に、うっすらと環の国の王城が見えた。


 フェルノは立ち上がる。ポケットに玉をしまい込むと、走りだし、手にしていたほうきに飛び乗った。


 全速力で空を駆ける。左右の水壁など見向きもしない。ただ、真っ直ぐに王城めがけて、ほうきを飛ばした。


 湖畔に到着し、ほうきをおりる。これより先は魔力が制限される。

 湖と陸地の際で道は綺麗に二分され、ぼろぼろの道から、舗装された道にきりかわっている。背後の水壁が崩れ、元の湖へと戻っていく。波が立ち、フェルノの足元を濡らした。


 フェルノは気にせず前を向く。


(この道を進めば、王城がある)


 そこにはアストラルがいる。


 フェルノは、まっすぐに続く道と、左右に広がる庭と、王城と空を見つめる。


(異世界だ)


 身体が震えた。

 もう二度と戻れないと思っていた光景が広がっている。


 道の上に黒い点が見えた。それはどんどんと大きくなる。自動車が近づいてきた。

 急停止するなり、扉が開く。

 飛び出してきたのは、アストラルだった。


 フェルノは、手にしていたほうきを落とす。道路に落ちて、からからと鳴り、動きを止めた。


 アストラルが転びそうになりながら、前のめりに走ってくる。

 フェルノの数歩手前で足を止めた。


「嘘だ……、なんで……、なんで、ここに」


 アストラルの表情は、どこか泣きそうで、済まなそうで、傷ついていた。何かを言いたげで、これ以上なにも言えないと、苦しそうに目元を歪ませる。


 フェルノはくすりと笑んだ。


「アストラル、一日だけ戻ってこれたんだ」

「なんで」

「アノンが面白い道具を見つけてくれてね。詳しいことを話すと長くなるよ」


 打ち震えるアストラルに、フェルノは微笑を浮かべる。


「信じられない」

「幽霊ではないよ」

「魔神は……」

「屠った。だから、こっちの世界も無事だ。私たちは強いからね」


 満面の笑みを浮かべるフェルノと対照的にアストラルは今にも泣きそうである。


「まだ悔いているのか、アストラル」


 想定内であった。

 支持する、と言っても、悔やむ男だとフェルノは分かっていた。

 

(アノンの言う通りだな)


 確かに、フェルノには、もう一度、異世界に行きたい理由があったのだ。

 ただ一言、助けてくれた人を助ける一言を伝えたかった。


 大きく息を吸って、フェルノは朗らかに告げる。


「私はアストラルの判断を支持している」


 笑顔でフェルノは両手を大きく広げる。

 アストラルは地を蹴って駆け出した。

 

 二人の影は一つになる。

 アストラルはがむしゃらに謝り、フェルノはその背を静かに撫でた。



 


 フェルノは、魔神が屠られたこと。

 アノンやリオン、ライオットは無事であると伝えた。

 アストラルの計らいで、森の民の代表を王城に呼んでくれた。彼らにアノンとライオットの様子を伝えることができた。

 学園からエレンやメア、トラッシュを呼び寄せ再会もした。彼らも相変わらず、元気そうであった。


 一日はあっという間であり、翌日、フェルノはまた湖面を裂いて、沈む聖堂へとほうきを走らせた。

 中心部で、アノンから預かった玉に魔力を込めると、光に包まれる。

 身体感覚が戻り、再び目を開くと、鏡面の向こうに家族がいた。

 手を伸ばし、一歩前に踏み出す。


 歩めば、魔道具師の作業場に立っていた。


 アノンが手前におり、その後ろにリキッドとキャンドルがいる。

 取り巻くように四姉妹とライオットが立っていた。

 

 フェルノがくすりと笑む。


「ただいま。どうしたのさ、みんな一緒で」


「どうしたって、気になるだろ。魔道具が誤作動でもしないかって。戻ってきて良かったよ。ほっとした」

「アノンが調整しているんだ。間違いはないだろう」

「買い被り過ぎ」


「戻ってきた」

「もどってきたね」


 リキッドとキャンドルがぴょんぴょん飛ぶ。


「無事でよかったわ」

「おかえり」

「楽しかったかしら」

「おかえりなさい、フェルノ」


 四姉妹が口々に迎えてくれる。ライオットも安堵の表情を浮かべている。


 フェルノの胸がじんと熱くなる。温かい家に帰ってきた喜びに満ち満ちた。


 魔王が残してくれた家族が、フェルノの家族になり、魔王が残した家が、フェルノの家になった。

 森に追いやられ、街道に逃げた子どもたちの夢は確かにここで叶っていた。

 その夢は引き継がれ、一人ぼっちの男の子をすくいあげたのだった。


「ただいま。

 とても有意義な一日を過ごしてきたよ」


 フェルノは家族に笑いかけ、ちらりと背後の鏡に視線を投げかける。


(また来年、遊びに行くよ。アストラル)


 フェルノは、アストラルと一年後の再会を約束していた。








 夕刻、フェルノは一人で塔の最上部から街道を眺めていた。


 戦火を逃れて歩いてきた人々が踏み固めてきた道が、しっかりとした街道として残されている。左右には民家が並び、家灯りが眩しい。


 子どもがかけて行き、家へと飛びこむ。帰る家があるのは嬉しいことだ。迎えてくれる家族がいてくれるだけで、気持ちがあたたかくなる。


 フェルノは窓辺に手をかけ、柔らかい表情で街道を見つめる。


(この景色を守るために私はここにいるのだな)


 それも悪くないとフェルノは思う。


 約束はフェルノを縛る。何に縛られるかを決めたのはフェルノだ。縛られていることを不自由とは感じない。


 意志をもち、自ら発した約束を果たすのだ。どうせ何かに縛られて生きるなら、その縛られるものを自分の意志で選びたい。


 選んだフェルノがここにいる。

 

 約束はフェルノ自身。意志と決意をもって、その道を進み、フェルノはよりフェルノらしくなる。深く深く、自分自身を成していく。


 意志を持って歩む先の未来で、自ら選び取ったものに囲まれて生きてゆく。


 窓辺から身を乗り出し、宵をむかえる空に満面の笑みを浮かべる。


 フェルノの心はとても満ち足りていた。




最後までお読みいただき、心よりありがとうございます。


この小説は、飽きっぽい礼が50万字ほどの長編小説を書く経験が欲しくて書き始め、内容は本当に自由に書かせてもらいました。

キャラ設定はビジュアルから入っており、結局、礼専用のお絵かき登場人物ばかりとなる始末。創作の幅も広がり、個人的にはとても楽しかったです。


自由に書かせて(描く方も)もらい、二つ名をおかしいただいたキャストの方々は、心よりありがとうございます。(たぶんこれからも誰かかれか絵にしていき、勝手に割烹にあげていきます。あしからず)

きっかけを与えてくださったひだまりのねこさんに感謝しつつ、二つ名小説はこれにて終わりとなります。



明日からは、また雰囲気が違うハイファンタジーを投稿始めます。

『魔導士オーウェンはどこへ消えた!?』

https://book1.adouzi.eu.org/n5877id/


6月中旬まで投稿し、

その後は第十回なろうコンで一次通った小説の長編版を始めます。現在100話以上執筆済みです。

『公爵令嬢に婚約破棄を言い渡す王太子の非常識をぶった切った男爵令嬢の顛末(長編版)』

https://book1.adouzi.eu.org/n4901ib/


今後も変わらず毎日なにかしら投稿していきます。


ブクマやポイント(★)で応援いただけましたら、励みになります。

よろしくお願いします。

最後まで読んでいただき、心よりありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人を信じられず孤独だったフェルノが、友と家族に囲まれ、周囲にも愛されるようになって……本当に良かったです。 アストラルのことも心配だったのですが、見事に再会できて、こちらもよかった。 それ…
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