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 身を翻したライオットは、魔神の側面へと回り込もうと大回りに走る。振り上げられた尾がライオットを追いかけるように、背後に落ちた。




 魔神の首や頭部を狙いリオンは剣をふるう。巨体を軽やか動かし、魔神はリオンの攻撃をかわす。後ろ足の自由を得た魔神は、リオンの挙動を易々とかわす。


(ライオットと接触したら、時間を止めたい)


 それまでの魔神への攻撃は時間つぶしであり、魔神に逃げられないためのものだ。素早い動きで振り切り、森へと逃げ込まれることをリオンは恐れていた。


 リオンの視界にもライオットが大回りで、魔神に近づこうとしている姿は見えている。




 ライオットは鋭角に曲がった。魔神に向かって直進する。

 魔神は走ってくるライオットに向けて、尾を仕向ける。




 魔神の足止め役を務めるリオンは、ライオットに放たれた尾をぶった切った。しゅるりと血を空に散らし、胴につながる尾が上方へと逃れる。吹き出す血はあっという間に止まった。怪我が癒えるなり、再び尾は再構成されてゆく。


 魔神は体をのけ反らせ、前足を一本振りあげた。リオンに向けて払いのけるように仕掛けた攻撃は空振る。当たらない苛立ちに魔神が喉を低く鳴らす。空振りに終わった手を止めた。跳ね返すように戻し、再度リオンを狙う。


 揺り戻された前足もリオンは軽く飛び退いた。さらに間合いを詰めて、真下から首の根元へと剣を振り上げる。


 地につく三点の足をばねに、魔神は後方へと下がる。着地の反動をもって前進する。大口を開け、リオンを喰ってやろうと首を伸ばした。


 リオンは飛ぶ。

 追うように魔神も飛んだ。飛躍は魔神の方が上だった。

 リオンの頭上が陰る。

 叩き落そうと、魔神は腕を払った。

 リオンは剣で魔神の手を受ける。衝撃は、リオンを地上に叩きつけた。

 



 リオンに追撃しながら、数本の尾がライオットを狙う。身を屈め、左右の動きをもって、尾の直撃を防ぐ。


 数本同時に迫ってくる。ライオットは、槍先に魔力を込めた。目一杯注がれた魔力が白刃を氷で包み巨大化する。

 

 巨大な氷の白刃をもって、眼前に迫る尾を、薙ぎ払う。氷の白刃に切断された尾は、凍り付く。地上に落ちた先端部分は氷結し、空へ逃げた尾の断面も氷が覆う。


 目の前でリオンが地上に叩きつけられた。


 開けた視界で、リオンまで続く道だけが光って見えた。


 ライオットは、唸りながら走り出す。





 叩きつけられたリオンの頭上。更に魔神の手が迫る。

 真横に転がるように逃れた。元居た場所に魔神の手が落ちる。半秒遅ければ、つぶされていたであろう。砂埃が舞い、顔をリオンはかばった。


 その隙をつき、頭上に魔神の尾が降り上げられる。

 今まで散々邪魔してきた黒髪の人間に向けて、硬化した尾がしなりもせずに、叩きつけられんとした時だった。


 走りこんできたライオットが飛躍した。氷の刃は一回り小さくなっていたものの、リオンの前に躍り出て、魔神の尾を薙ぎ払う。氷の刃と硬化した尾はぶつかり合い、氷の飛沫を散らしながら、耳障りな高音を響かせた。


 着地するライオットの背へむけて、リオンが思いっきり腕を伸ばす。

 ライオットの背にリオンの手が触れる。

 その瞬間、時が止まった。





 ライオットは、着地した。膝を折り、屈みこむ。青みががった土が視界に飛び込む。地面を見つめたまま瞠目する。


(時が止まったのか?)


 必死で走ってきた。体は火照り、汗が全身からふきだす。肩で呼吸を何度も繰り返した。


 背に触れる感触。かがんだまま、背後に顔を向けた。リオンが片腕を伸ばし、ぴたりとライオットの背に触れていた。

 リオンもまた、肩で呼吸し、額に薄っすら汗を滲ませていた。


「無事か」

「ああ」


 二人、呼吸が整うまで、黙って息だけを繰り返す。


「ライオット、行けるか」

「もちろん」


 二人は、躍動する魔神が青白い像のように立つ姿を見据える。


「あの背に飛び乗って、魔神の身体にいるフェルノを探す」

 

 フェルノが無事でいると信じるライオットは言い切った。


 二人は立ち上がった。立ちながらライオットの背から肩へ、リオンは手を移動させた。魔神の横まで二人は並んで歩く。


「ライオットが魔神に手を触れる直前、俺は時を止める能力を解く」

「なぜ?」

「おそらくライオットが魔神に触れた瞬間に、魔神の時間も動き出す可能性が高い」

「つまり、リオンが触れて俺と話せる。そんな俺が魔神に触れたら、魔神の時間も動きだす。魔神の時が止まった中で、魔神の中を覗くことはできないのか……」

「言い切れないが試すにも時間がない。同じライオットを危険に晒すなら、俺の両手が空いている方がいいだろう」


 魔神に手をかざし、内部を透かし見ている間、視覚も奪われ防御もできないライオットが、危険な状況になることを示唆していた。

 場合によっては命にかかわる。フェルノを助け出す間にライオットの命が尽きることも、フェルノを助けた後にライオットが命を散らすこともリオンは避けたかった。


 ライオットの口角があがる。明るい笑みが浮かぶ。


「俺さ。フェルノを引きはがしたら、発砲するつもりなんだ」

「拳銃をか」

「アノンの魔力が込められている。魔神の肉体を裂き、さらに亜空間を裂くことになったら、そこでぶっ放した方が、致命傷を与えられるだろ」

「危険だぞ」

「そうだな。でもさ、最後の一発は、そのタイミングしかない気がするんだよ」

「無理するなよ」

「もちろん」


 魔神の横に二人はたどり着く。


「ライオット、自由に飛べ。魔神の背に着地する寸前で手を離す」

「わかった」


 飛躍しようとしたライオットが一瞬止まって、リオンを見た。


「俺が止まっている間に、魔神を切り裂いておこうとか考えるなよ」

「それはしない。というか、出来ない。魔神を切り裂く瞬間、武器を通して接触したことになるかもしれない」

「なるほどね」


 ライオットは膝を屈した。

 リオンも同じく膝を曲げた。


「飛ぶぞ、せーの!」


 ライオットの掛け声とともに、上に向かい飛ぶ。頂点から落ち、ライオットが魔神の背に四つん這いになるように着地しようとしたところで、リオンは手を離した。


 ライオットを宙に残し、リオンは着地する。再び膝を屈して、跳躍した。かたまっているライオットとすれ違う。さらに上を目指した。


 空中で頂点にたどり着く。弧を描くように、落下する最中、リオンは手にしていた剣に魔力を込めた。炎は出さない。触れて魔神が動いてはならないと考えたからだ。


 刀身が赤く染まる。熱を帯びた刃を振り上げ、魔神の尾の付け根めがけて振り下ろす。尾を切り裂く間際、リオンは時を動かした。

 

 ライオットが動き出し、魔神の背に両手両足をつけた。

 炎を噴き出したリオンの刀剣が振り下ろされる。


 炎を纏う刃は、魔神の尾の付け根を切り落とした。


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