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199,変な猫

 リオンは魔神に向かって走り出した。

 四足獣は前足を広げて、頭部を低く構えた。尾が立ち上がり、リオンに向けて矢のように放つ。

 放たれた尾は、リオンの頭上を狙い打つ。

 寸前で左右に飛びながら、交わすリオンは、魔神の眼前に躍り出た。



 走り抜けるリオンの後方で、魔神の尾は地を叩く。掘り返された土が噴きあがった。


 土を叩いた尾は跳ね返り、矛先をさらに後ろへと向ける。地を這いながら突き進む。


 視界を遮られたライオットに向け、噴き上がった土を破り、数本の尾が飛び出してきた。


 槍の刃先が白く光る。重い冷気が地に落ちた。


 ギリギリまで尾を引き寄せて、ライオットは槍で尾を払った。硬化していた尾と刃がぶつかり、高音を響かせる。尾の接触点に氷結の痕跡が残った。

 

 弾かれた尾の先端が、地面にぶつかるすれすれでさらに跳ね返る。

 狙われるライオットはギリギリで横に飛び、すり抜けていく尾の側面に向け、振り切った槍を突き刺した。白く凍りつく魔神の尾。槍を突き刺したまま後方に引く。

 更なる尾が叩きつけようと斜め上から振り下ろされる。突き刺した尾から槍を引き抜き、その尾に向けて石突を叩きつける。進行方向がずれ、後方に抜けて行った尾が地面に刺さった。


 



 リオンは魔神の眼前に躍り出た。剣を振り上げ、頭部を狙う。魔神は飛躍し、剣は虚空を切った。


 重心を落とす。両手で構えた剣を下げた。

 飛び上がった魔神が着地する。前足を斜めに滑らせ、瞬発で速度を上げた。リオンに向けて走りこむ。


 下げた剣を振り上げれば、風刃が飛ぶ。魔神はものともしないで、飛び上がった。


 魔神は、時々眼球を後方に流し、ライオットの状況をも把握している。


 リオンは魔神の息の根を止めるつもりで向かっていた。

 

(狙うは、首もしくは頭部)


 取り込まれたフェルノを食べた可能性もあるが、毛玉程度の球体が人一人取り込んで逃げている。

 物理的に食べているのか。

 核がある異空間にとどまっているのか。


 小さな毛玉が吸い込んだとなれば、異空間に閉じ込められている可能性が高い。


 魔物の核を補完する異空間は体内のどこにあるか分からない。体内に別空間を保有し、その内部を自由に動いているという捉え方が妥当なのだ。


 可能性は高くとも、体内に物理的に取り込まれているのか、核を収納する異空間にいるのか、結論は出せない。


(ライオットに確認してもらうしかない)


 一番、考えたくないのは、食べられた遺体が胴に転がっていることだろう。


(剣に狙われる肉体的な部位から異空間は離すものだ)


 魔力を込めた剣で切りつけても、大抵の魔物はやすやすと命の源を仕舞う異空間を破壊させない。


 それでも、致命傷を与え、相手の動きを封じるために、リオンは魔神の頭部から首に狙いを定める。






 後ろ足が封じられていた巨躯の魔神相手が、どれだけ戦いやすかったかを、ライオットとリオンは思い知る。

 異世界で目の当たりにした素早さと縦横無尽に動く尾を同時に相手にしては、尾の付け根を氷結できなかっただろう。後ろ足を固定した魔道具師の技術と計略の功績は大きかった。


 動く魔神相手に、二人はライオットの見透かす力を使える気がしなかった。黙って体に触れさせるほど、大人しい猫ではない。


 魔道具師が後ろ足を封じたように魔神を拘束するには、リオンの時を止める能力以外方法はないと二人は考え始めていた。







 フェルノの足元で風がそよいだ。

 空気の揺らぎを感じて、足元を見下ろすと、半透明な草がなびいていた。下方から色が迫り、虹のような多相の色味が風に乗って天に向け突き上がった。


 フェルノは腕で顔を覆い、身を屈めた。


 風が止んだ。

 ゆっくりと腕を降ろす。


 足元は草地になっていた。 

 顔をあげ、左右を確認する。

 そこは、森に囲まれる一軒家があった。


(ここ、見覚えないか……)


 フェルノの記憶がつながる。

 夜と昼で違えど、その風景は街道入り口にある魔王城の別邸周辺を彷彿とさせた。


(既視感……、まさか。私も見聞が広いわけではない。似ている心象を、単純に関連付けただけか)


 一歩前に出ると、扉が開く。ぬいぐるみと見紛う生き物が出てきた。


 猫のような顔。目がくりっと大きい。胴から上が茶の毛で覆われ、下半身は緑。尾は三本あり、先端に赤い丸みがある。


(……羊を思い出すな)


 よちよちと歩きながら近寄ってきた猫が手をあげ、破顔する。

 つられてフェルノも手を振った。


「やあ! 僕は【死屍累々ジャッジメント】。ジャッジだよ。君は誰? 新しいお友達?」


 猫っぽい外見に、複数の尾。フェルノも、さすがに困って笑う。


(ぬいぐるみの猫がでてきたけど……、もしかして、これが魔神の核なのか)


「僕のお友達にしては、大きいね」


 ジャッジと名乗った猫型の魔神の核と思しき魔物はフェルノの足元まできて、片手を上に伸ばした。


「お友達の握手」


(お友達って……)

 

 愛くるしいへんてこな猫に面白味を覚え、くすりとフェルノは笑む。片膝をつき、その手を取って、上下に振った。

 幼少期から友達がおらず、喉から手が出るほど欲しかった記憶が蘇るフェルノは友達という単語に弱かった。目の前にいる魔物が、魔神の核である可能性を感じても、屠るという結論を先延ばししてしまう。


「君の名前は?」

「私かい。私は、【鬼神残響 グレネイドインフェルノ】。フェルノと呼ばれているよ」


 手を離したジャッジが、両手を高く伸ばす。


「フェルノって大きいよね」

「大きいかな?」


 フェルノは小首をかしぐ。アノンから見れば大きいが、リオンとライオットよりは小さいのだ。あまり、背が高いという意識はなかった。


「子どもじゃない」

「それは、そうだね。子どもじゃないね。身長も伸びきっているし、声変わりもおわっているものね」

「じゃあ、僕はまた待たないといけないのかな」

「ジャッジは待っているの」

「僕は人間の子どもの友達になるモンスター。友達と一緒に旅をするんだ。あれ、でも、それは、もっと昔なんだ。その頃はここにいなかったし……。

 えっと……。だから、ここはなんだっけ」 


 ジャッジが腕を組んで、体を仰け反る。頭の重みで、しりもちをついた。えへへと笑って、ジャッジはあぐらをかく。

 フェルノも芝生に座り込んだ。


「僕ね。選ばれたんだよ。昔の友達が選んでくれたんだ。もっかい会ったらね。大きくなってた。大人だったよ。フェルノより大人だった」

「昔の友達と再会できたんだ。良かったね」

「うん。僕だけじゃない、他にもいた。【眼球 サイコ】、【闇黒 イリュージョン】、【叫喚 フェスティバル】も【水銀羊 ジャンクション】もいたよ」

「友達?」

「ううん。仲間」

「友達と仲間は違うの?」

「友達は人間の子ども。仲間はモンスター。でも、一緒にいたらどっちでもおんなじだね」

「ジャッジは、友達がいっぱいいるんだね」


 楽しそうなジャッジを見ていると、フェルノの表情も柔らかくなる。


「でもね。いっつも一緒にいる子は一人だよ。その子と、一緒に旅をするの。色んな世界を旅して、いろんな風景を見て、時々、戦うんだ」

「ふうん」

「違う、違う。最後はそこにいないんだ。昔の友達に呼ばれて……」


 ジャッジは、ふいっと振り向いた。


「僕は、ここで暮らしていたんだ」



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