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193/223

190,姦しい

 剣を抜いたフェルノは、両手で柄を掴み顔の真横に構える。

 白刃に青白く細い光が弾けた。




 デイジーがほうきを翻した時、ライオットはフェルノの構えに気づいた。

 対極に見える箱の角に、エクリプスが杖を構えている姿は見えている。四姉妹が離れ、この箱を彼一人で維持しているのだろう。


 その様子から、ライオットも勘付く。 


(フェルノがなにかしかけるんだ)


「このまま魔王城に向かってくれ!」

 ほうきから箱の上部へ飛んだライオットが叫ぶ。


 背後の重みがなくなったデイジーは前方を見据え、ほうきを滑らせる。この場から早く去ることを求められていると理解していた。






 フェルノの変化にリオンも気づく。

 デイジーのほうきにのっていたライオットが箱の上部に飛びうつった。


 ドリームのほうきが箱の真横を通り過ぎようとする時、ライオットと同じくリオンも箱の上に立った。


「そのまま魔王城に行け」


 後ろが軽くなり、ドリームは一瞬判断に迷う。

 かけられた言葉を反芻し、デイジーの背を追いかけた。





 エクリプスは、ぎょっとした。

 突然、フェルノが構えたからだ。


(魔力を解こうと思っているところなのに、なにすんの! あの王子様!!)


 さらにライオットとリオンまで箱の上にのった。


(しかも、ライオットもリオンも箱に乗りやがった!!)


 箱を維持せざるを得ず、エクリプスは奥歯を噛んだ。





 フェルノの眼前で、エクリプスが供給する魔力によって、箱の角が塞がれていく。

 

 横に構えた剣がバチバチと細く青い光を弾く。白金の髪が照り返し青白く染まる。


 箱が閉じようとする最中、フェルノは剣を突き出した。


 剣先から、青い稲妻が魔力の箱内部へ放たれる。


 轟音は響かない。音は箱内部で反響する。ふきかえす風がフェルノの髪を後方になびかせた。肉が燻される匂いがフェルノの横を抜けていく。

 



 

 フェルノが雷撃を放った瞬間、リオンとライオットの足裏がびりびりと痺れた。

 箱が解除された瞬間、二人は魔神の上に落とされる。 

 魔神の厄介な尾に応じる。それだけを二人は意識していた。





 エクリプスは、杖を通す魔力で、箱を維持する。


(予告なしで何してくれるの、あの王子様は!)


 上部にいる騎士二人も、足元を眺めている。魔力の供給がなくなれば、足場が崩れることも分かっているだろう。そうすれば、魔神の真上に落ちることになる。


(なに、あいつら! 二人とも俺が今魔力解いてもいいって思っているの!) 

 

 エクリプスには二人の行動が理解しがたい。


(俺が魔力を解けば、フェルノの放った雷撃に巻き込まれるって分かっていて、それでもそこにいるのかよ)





 四姉妹は魔王城の塔を目指す。それぞれの飛び道具を走らせ、塔の壁面まで一気に走り抜けた。デイジー、ドリーム、テンペスト、エムの順番でたどり着き、空に漂ったまま、振り向いた。


 樹海の一角に、大きな魔力の箱がある。四人が飛び出してから、箱を維持しているのはエクリプスだ。四人は一人で維持する魔力と技術に、驚く。

 改めて、四姉妹がいては彼らが戦いにくいのだと自覚する。 


「すごいわね。あれを一人で維持できるなんて」

「白姉様、魔道具師様がお褒めになっていただけありますね」


「大丈夫かな、いちねえ」

「彼らがダメなら、終わりよね……」


「姉さん……」

「見守りましょう」


「白姉様、あれだけ巨大な魔神なら人間の国でも目視でき、援護をたのめるのではないかしら」

「確かに、そうね。街道の端からでも、見えそうよね。頼んでみる価値はあるかもしれないわ」


「いちねえ。私、行くね。街道の端に集まっている魔人たちも危ないかも。もっと人間の国側に寄せてもらいたいよね」

「それだけじゃないわ、ドリーム。あの魔神が人間の国に侵入するとなれば、王が住まう宮殿だって危うい。人間の国がどう判断するにしても、伝えないわけにはいかないわ」


「わかったよ。いちねえ」

「頼むわね。無理はしないで、たどり着ける速さでいいから」

「うん」


 ドリームは塔の外壁から距離をとり、姉妹に向けて、行ってきますと言おうとした時だった。窓辺に紫の髪を揺らす、アノンが立っていた。


「アノンがいる」


 ドリームが思わず指をさしてしまう。姉妹は一斉に窓辺に振り向いた。ほうきを前進させ、ドリームがアノンと顔を突き合わせる。


「うそ。アノンは絶対にあっちに行っていると思ってたよ」

「それは、えっと……」


 魔力がないとは言い出せないアノンは口ごもる。


「あれ、声。違うね」


 アノンは咄嗟に口元へ拳を添えて、視線を落とす。性別が変わったとは、なお言いにくかった。

 テンペストが横から覗き込み、ドリームの後ろにデイジーとエムも寄ってくる。


「そうかしら。前に会った時も、こんな感じじゃない?」

「ううん、いちねえ。前はもっと凛々しかったよ。今は、なんか、可愛いくなってる」

「かっ、かわいい!!」


 素っ頓狂な声が出してしまいアノンは蒼白になる。

 四姉妹はまじまじとアノンを見つめた。


「女の子?」

「アノンって元々、女の子だっけ。てっきり男の子だと思ってたよ。甘党な男の子」

「黒いローブですし、体形分かりませんものね。私、女の子に絨毯ぶんなげてしまったのかしら。ごめんなさい、乱暴なことしてしまって……」


「あっ、あの時は、別に……」


「さんねえ。あの時は、もっとこう、男の子の声だったよ」

「声を変える魔法なんてあったかしら」

「魔法で、声かえてたの? 器用ね。さすが魔法使いね」

「ええぇ、アノンは元々男の子だったよ。女の子が男の子のふりしてたわけじゃないよね。ねえ、アノン。一緒にお菓子分けた仲だもん。間違いないよね」

「性別が変わる方が変」

「男装魔法使いなんて、なんか事情あるのよね」


「ち、ちが……」


 アノンは冷や汗を浮かべ、蒼白になりながら、らしくなく言いよどみ、表情もぎこちなくなる。


「ぼ、僕は……」


 言い訳をしようとして、言葉を選べず、サッドネスを見ても、彼は別の窓から戦況を眺めていた。


(そうだ、今は、魔神がいるのに。僕が男の子か、女の子かなんて、かまっている場合じゃないよ)


「今は、そんな話より、魔神がいて、ライオットたちだって大変なんだよ。僕の性別なんて……」


 猫のように見開かれた八つの目に射貫かれ、アノンはたじろぐ。


(僕の言葉、聞いてない!!)


「それとこれは別ですわ」


 デイジーはきっぱりと言い切る。


「はあぁ!!」


 アノンは、彼女の発想が理解できない。


「四人男の子で旅していると思ったら、一人女の子のだったなんてねえ」

「事情があってしかるべき」

「聞き捨てならないのは、ライオットたち、って言ってたとこだよね」


 うっ……、っとアノンが詰まる。


「あの金髪の槍使いよね。白騎士でしたっけ」

「アノン、白騎士と仲良しかも。さっき、絨毯で去る時、ぴったりくっついてたもん」

「あぁっ、あれは……」


「事情があって言えない仲なの」

「女の子一人が男の子に紛れていると気をつかわせるとかで……」

「性別を偽ってた」

「でも、やっぱり。この前、街道で、一緒に食べた時は、男の子だったよ~」


 四姉妹の見開かれた目が、再びアノンを射貫く。

 脂汗とも冷や汗ともとれない汗が吹き出し、アノンは窓辺から身を引いてしまう。


(なに、この威圧感……)

 

「これから、アノンの尋問を始めます。異論ある方!」

「なし」

「意義ありませんわ」

「スッキリしてから、人間の国へ行くよ」


「はあぁ!!」


 アノンは開いた口も塞げなくなる。


(どうして、こうなるんだ!)


「どうなの、アノン。あなたは、始めから女の子なの、男の子なの」

 

 テンペストが詰め寄ってきて、アノンは胸元で手を組んで、目を逸らせた。


(これ、言わないと、はじまらないやつじゃん! 尋問、詰問、誘導尋問かよ!!)


「どうなの」

「どうなんですの」

「アノン、魔神のこと、人間の国に伝えないと、都が危ないよ」


(可愛い顔して、なんでおどしてくんの!)


「さあ、アノン。あなたは男の子なの、女の子なの」


「だっ、だから……」


 四姉妹がずいと迫る。

 逃げようと一歩下がったら、そこにリキッドとキャンドルが立っていた


(なんで、なんで、そこに立っているの。にげれないだろ)


「アノン、ライオットと仲良し」

「アノン、ライオットと仲良しね」


 わなわなと震えて、アノンは腰をかがめた。言わないと始まらないと、覚悟を決める


「異世界に行ったら女の子になっちゃったんだよ!!」


 恥ずかしくて、顔が熱くなる。胸苦しくなり、アノンは肩で息を繰り返した。


 四姉妹が、ああスッキリした、という表情に変わる。

 涙目のアノンとドリームの目が合った。


「アノンは元々可愛いから、男の子でも、女の子でも、いいよ。ねっ」

「ライオット以外に、可愛いなんて言われても嬉しくない!!」


 叫んでしまった言葉に、アノンはばっと両手で口をふさぐ。首だけでなく手まで真っ赤に染まる。

 その様に、四姉妹の目が、きらんと輝いた。


((((かっわいい~))))


「どっ、ドリームは、人間の国に行くんだろ。急がないと、ダメじゃないの。ねえ!」


 苦し紛れに話を変えようとするアノンに、目をぱちくりさせて、ドリームは明るく笑んだ。 


「そうだね、行ってくる。スッキリした、これで、心置きなく人間の国にいけるよ~」


「行ってらっしゃい。ドリーム」

「ドリー、頑張れ」

「ドリームちゃん、お願いね」


 ドリームが飛んでいき、これで話は終わるかと胸をなでおろすと、窓の横にテンペストとデイジーが背をつけて留まる。エムもテンペストの横にぴたりとつく。


「アノン、ちょっと、異世界でなにがあったのかしら」

「ライオットって、あの黄色い髪の、白騎士よね」


 アノンは青ざめる。


「なんで、なんで、なにが楽しいの。こんなことが! 魔神が暴れるのを真剣に見守らないの。今、とっても大変な時なんだよ!!」


「そうなんだけど、私たちもう何もできないし……」

「コイバナは別腹です」

「同じ待つことになるなら、楽しい方がいいもの」


「楽しいってなにが! 僕はまったく楽しくないよ!!」



 気を張りつめ、哀しみを抱えた四姉妹。

 目先の面白いことに縋り、気を紛らわす。


 良い迷惑なのは、アノン一人。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界も魔界もとんでもない展開になってて、フェルノとアストラルの覚悟とか、祖先のこととか、もう色々ありますが、言葉をまとめるのが苦手なので感想が書けずにいましたが、 突如ここにきて、姉妹…
2023/04/16 10:45 退会済み
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