表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

190/223

187,あるべき姿

 しゃがんでいたライオットが立ちあがる。

 アノンを守るように横に立った。


「遅くなりました。すぐに向かいましょう。フェルノ」


 引き締まった表情、あふれる魔力が毛先まで浸透し、はらはらと白い結晶を散らす。胸を張るその姿は凛々しく、サッドネスの目にも屋敷暮らしの時とは別人のように映った。


 アノンを支え、森の民を背負い戦うなかで、責任を負い、乗り越えてきたライオットもまた、この旅で成長していた。


 ライオットの魔力は侯爵家由来の氷結魔法。その力を有する者が、公爵家の子孫に忠義を尽くす姿は、侯爵家の悲願であり、本来の姿だ。


 公爵家や魔王とともに戦った侯爵家の血に連なる者が、この場に立っていることに、サッドネスは震えた。公爵家のアノンに寄り添い立つ姿に、せりあがる感慨を覚える。


 アノンを守る立ち位置がしっくりくるライオットは、アノンの隣に立つのは自分だけだという自負心さえ抱いていた。 


 アノンはライオットの精悍な横顔を見つめる。


(前は、もっと頼りなかったよね)


 アノンにとって屋敷で暮らす二年間のライオットは、弱いお節介騎士だった。それなりの力は有していても、邪魔ばかりする奴と半ば嫌悪していた。


 あの頃を思うと、ライオットも変わったが、アノンも変わった。

 魔力がなくなっても、ライオットにとって、アノンの価値は変わらない。それを肌で感じるアノンは、ライオットの傍が心地良い。


(これから、フェルノと一緒に行っちゃうんだよな)


 アノンはライオットの袖を引いた。

 引かれたライオットの半身が落ちる。

 もう片方の腕を伸ばして、アノンはライオットの首周りに回した。


「アノン!?」

「ライオット。戻ってきてよ、絶対に戻ってきてよ」


 アノンは無言で、袖を引いていた手を離す。浮いた片腕もライオットの首に回した。

 目を白黒させていたライオットも、アノンのささやきに、口元をほころばす。


「わかった」


 目を閉じて、ライオットはアノンの髪をなでる。






 もう一人、目を白黒させたのはサッドネスだ。 

 隣にいるフェルノは、目元を緩めて、涼しい顔で眺めている。


「びっくりしたの」

「……まあ」

異世界あっちで色々あって、仲良くなったみたいだよ」

「仲良くねえ……」


 落ち着きを取り戻すサッドネスがぬるい目を向ける。


「アノンは、女の子の方が似合うよね」

「見た目がってことですか?」

「見た目もだけど、中身もさ」


 フェルノは元に戻って、アノンは戻らなかった。

 そんな選択ができるのは、始祖しかいない。


(長年、アノンを見てきた始祖ひとはなにを考えていたのかな)








「アノンが世界を守りたいなら、俺が代わりにはたしてやる」


 ライオットが囁き返す。

 アノンはさらに泣きたくなった。

 今のアノンは、世界なんかどうでもよかった。ライオットだけ、いたらいい。戻ってきてくれたらいいと思っていた。

 

(ライオットだけ無事でいたらそれでいいなんて、なってちっぽけな考えだろう)


 力を失って、守る責務もなくなった。何もないなかで、ずっと傍にいてくれた人だけが残る。

 性別が変わっても、魔力が無くなっても、ライオットはいつもアノンの傍にいた。どんなに無力になっても、どこまで一緒に堕ちてくれる。

 

 矮小で、価値がなくても、力を失っても、ずっと、ライオットは傍にいた。アノンを助けようとし、本当に助けてきた。


(ライオットだけ、無事ならそれでいい)


 フェルノも、リオンも、エクリプスも、四姉妹も、魔王様たちもいるのに、アノンはライオットにしか意識が向かない。

 

 世界から預かっていた力が手もとから去った。

 たったそれだけのことで、すとんと肩から力が落ちる。ただ、目の前にいる人だけしか見えなくなった。

 

(僕って、本当は、こんなに小さな人間なんだな)


 ライオットに抱き着く腕にさらに力がこもる。

 ライオットが、もう一度抱きしめてくれた。







 フェルノは、魔女から、絨毯を受け取る。魔神の元へは、フェルノとライオットだけで向かうと告げた。

 

 窓辺から、絨毯を広げる。魔力が伝わった絨毯はぷかぷかと宙に浮く。


「ライオット、アノン。そろそろ行くよ」


 フェルノが声をかけると、アノンがライオットの首に回していた腕を離した。

 アノンはライオットの胸を押し、体を離す。横を向き、フェルノを見つめる。


「僕は、行かないよ。フェルノ」

「賢明な判断。さすが、アノンだ」

 

 フェルノは笑む。

 アノンは、小さくむくれて、頬を赤らめた。


「今、行きます」


 アノンから離れ、ライオットは壁に立て掛けていた槍に近づく。さっきフェルノから渡されていた細身の剣と取り換える。ライオットの主たる武器は槍であり、補助としてアノンによって魔術具に変えられた拳銃を持つだけだ。


 その間に、フェルノは絨毯に飛び乗った。絨毯に座り、あぐらをかく。彼方の青白い箱には変化は見えない。


(私が戻ったら、あの箱をすぐに解かせて、四姉妹を魔王城に下がらせよう)






「ライオット」

「サッドネス?」


 槍を持ち、窓辺へ向かうライオットにサッドネスが声をかけた。

 いつになく神妙な顔のサッドネスにライオットは立ち止まった。


「君の魔力は侯爵家由来の魔力だ」

「俺の魔力が?」

「本来、氷結魔法とは侯爵家を象徴する魔法だった」


 魔力の由来など考えたこともなかったライオットが目を見張った。


「知りませんでした」

「建国して間もなく、我が家から魔力は失われている。知らないのは当然だ」


 真剣なサッドネスに、ライオットも真顔になる。


「私たちは、初代王の兄を起源とする公爵家の祖に忠誠を誓う戦士の血筋だ。魔力を剥奪されても、巡り巡ってこの場に、君がいてくれて良かった。

 アノンの護衛に君が選ばれて、本当に良かった。授かった力をもって、魔神に立ち向かってくれることに心より敬服する」

「いえ、俺は、本当に、ただ偶然、人選されただけなんで……」


 サッドネスに敬服され、ライオットはまごついてしまう。ちらりとアノンに目をやると、じっとこちらを見ていた。

 その顔を見ると、ふざけた答えは出来ないなとライオットは姿勢を正す。


「この力に恥じないよう、努めます」


 サッドネスは頭を下げ、ライオットもまた頭を垂れた。


 顔をあげて、ライオットは振り向く。今さら、かしこまる気はおきなかった。


「じゃあ、アノン。行ってくる」

「うん」


 アノンは軽く手を振った。


 ライオットが窓辺から絨毯に飛び乗るなり、すぐさま絨毯は走り出した。







 フェルノとライオットがいなくなった塔の最上部は静まり返る。サッドネスはアノンに一礼をし、背を向けた。


 アノンはふらりと壁際による。背をつけて、ずり落ちるように座り込んだ。

 衣類のポケットから、小ぶりの魔物の核を手にする。


 日に透かし、輝きを確かめる。硬く青白いガラス玉のような鉱石だ。かりっと噛めども、石のように硬い。魔力を失っては、かみ砕くことはできない。


 アノンはため息をついて、膝を抱えて、うずくまった。






 ライオットが飛び乗るなり、フェルノは絨毯を走らせた。


「急ごう。魔王様方にご負担をかける」

「はい」


 フェルノの胸はざわついていた。


(始祖が死を選んだんだ。魔王様がたが命をかけていない保証はない)


 まだ、四姉妹が作る魔力の箱は、維持されており、なかは赤黒い影で覆われている。


(間に合うだろうか。あの箱をすぐに開けさせねば!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ