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183,交点

 魔王たちは、魔神の特性を始祖から聞いていた。


 穏やかであれば魔物を使役し、鞭のように尾はしなり、時に硬化する。巨体であっても動きは素早い。

 逃げられた場合、よほどの魔法使いでなければ追いつけないと予想できた。

 魔神の動きをまずは止めるべきだと、試作品プロトタイプの四人は考えた。

 

 老いた魔王と預言者に、全盛期の力はない。魔神を屠る力は残っていない魔王たちは、魔神を場に固定するために命をかけることを決めていた。


 魔神を囲み、目隠しする預言者。

 魔神を抑え込む魔王。


 魔神の後ろ足にしがみつく魔道具師が、魔神の足を地面に固着させる。かつて戦場で主力であった二人はその補助にまわった。


 胸部に刃を突き立てたメカルとスロウは半ば息絶えていた。


 元来二人に、魔力はほぼない。彼らは魔道具を通して、僅かな魔力を絞り出すことしかできない。そんな魔道具も、より魔力を持つ者が使う方が効率が良かった。

 魔道具師という肩書は、挫折のなかから、二人で切り開いた道だった。

 彼らは、人生で数多の道具を作ってきた。魔力をそそげば永遠に灯る蝋燭。時間を止める絨毯。空飛ぶほうき。魔力を増幅する漆黒のローブ、など。人を殺す道具も作った。

 

 最期に作った魔道具は二種類。

 一つはコアに残した剣。

 もう一つは、自らに刺した鎖鎌。


 ともに、命を食らって働く武器である。


 魔道具師が魔神の足に刺した鎌から、魔神の魔力を吸い上げる。その魔力は鎖を辿り、両刃のナイフに届く。白刃から魔道具師の体内に魔神の魔力が注がれれば、その魔力を持って、体内の核を一つずつ破壊する。


 破壊された核は魔力へと転換され、鎖へと逆流する。

 鎖部分の魔道具がうねり始めた。浮き上がり、魔道具師の身体から離れるなり、魔神の足に絡まって、青白く発行する。


 合成体キメラとなった魔道具師二人が、最初で最後の魔術具を通しての発現する魔法は自決を伴う。







 始祖の話から、断片的だった既知の情報が繋ぎ合わされる。

 フェルノたち三人は、語られた内容を泰然と受け止めた。


「環の国から魔神がいなくなり、目的は達せられた。始祖あなたにとってこの世界は、滅ぶも、生き残るも、どうなってもいいことだったのですね」


 フェルノの理解に始祖は目を伏して答える。


「この世界を守りたいと動いていたのは、言うなれば、魔王と侯爵家なんだ。彼らは、初代王とその兄の友人であり、忠臣だからね。私の意図もよく理解していたのだよ」


「魔王様は始祖あなたのこともよくご存じでしょう」

「そうだね。古い付き合いだ」


 始祖は、前を向き、遠くを見つめる。その視界は散漫として、どこを向いているのか分からなかった。


「私は彼らの好きにさせた。彼らの計画は、あくまでも私の望みの後から始まることだ。望みが叶ったのなら、それ以降のことまで、関与する気はないんだよ」


 フェルノやアノンに教育を施したのも、人間の国側の意向であり、始祖の計画とは無縁。それは意外だった。


(これだけ強い魔力と、それを扱う技術を持っていたら、魔神を屠るためにいるのだと誤解してしまったよ。

 王太子候補としての教育は、環の国での滞在に役に立ったし、武芸や魔法の修練を受けていたら、対魔神用に備えていたのだと思っていたよ。それが、誤解だったとはね)


(僕への魔法使いとしての教育さえ、おまけだったとはね)


 フェルノは立場上、王太子としての教育を受けて当然と思っていたし、アノンも強力な魔力を持っていれば、魔法使いとしての教育を受けることは当然だと思っていた。

 そのような社会制度さえ、始祖への抵抗のために作られたなど、よもや思いつきやしない。

  

(私に強い魔力は不要だったのか)

(僕は魔力さえあれば良かったのか)


 始祖の目的だけでなく、魔王や人間の国内部に潜む思惑が、二人の上で交差していた。

 フェルノとアノンは顔を見合わせる。彼らは、互いがいかに長い歴史の末端に立っているのかと思い知った。


「さすがに、魔神をこちらに呼び戻す計画プランに刺さりこんでくるなら別だけどね。私の邪魔をしないなら、彼らがどう動くも自由なのさ」


 喋りながら始祖は椅子の脇に立て掛けて置いていた剣を手に取った。

 立ち上がり、フェルノの前まで歩み出る。

 

「私も便乗させてもらうことにしたしね」


 始祖は、フェルノの胸元に剣を水平に突き付ける。

 

「これは、魔道具師が残した遺作の一つだ。君に贈ろう。魔道具師が作った傑作と言える剣だ。ぜひ、ここで、抜いてもらえないだろうか」






 テンペストたち四姉妹は、魔王と別れて後、魔道具を配置した円の外側へと飛んでいた。一筋の光が彫像に落ちる。膨張した光まで、すべて彫像へ吸い上げられた時、空に大きな魔物と四人の人間が出現した。

 預言者が魔神を包み込んだ合図をもって、四姉妹は飛んだ。

 赤黒い影を、力を合わせて、魔力の箱内部に包み込む。魔神を逃さないために。  


 四姉妹は魔王たちが命をかけていることを知っていた。


 死んでほしくない。

 生きててほしい。

 喉までせり上げてきた希望は飲み込んだ。


 三百年、生きてきた魔王たちが死に場所を選んだ。

 長命な魔人が命の終焉を選んだなら、その意志を尊重する。


 四姉妹もまた、魔王と同じく、長命な魔人だ。核を内包している。魔人は寿命が固体により違う。人間に近い寿命の魔人から、魔物のように長命な魔人までいる。

 それも、これも、三百年前に異世界からきた始祖の実験の慣れの果てに生まれた。


 フェルノとアノンを生み出す基礎となる実験。戦乱を逃れてきた者たちが、始祖の実験を受け、魔人が生まれた。

 人間の国が建国された後は、魔人は魔人同士の小さな集落で、互いを家族と思いやり暮らしてきた。


 魔人は家族なのだ。故郷を追われ、寄り添って生きて、今がある。


 最初の実験体の魔王は、始祖の目的を最初から知っていた。知りつつ、ずっと協力してきた。


 合成体キメラとなり、二百年前の人間の国建国にもかかわった。不本意な殺戮に手を染めて、なお生きてきた彼らが、今日を死に場所とするなら、四姉妹は止めることができなかった。


 彼女達もまた長命であるがゆえに、親や兄弟姉妹きょうだいを見送ってきた。誰よりも長く生きることは、いつも誰かを見送って生きることだ。

 いつかは死ぬと言えないならば、いつ死ぬかぐらい、自分で決めたいと思う気持ちは、四姉妹も理解している。


 魔王がいなくなった後、街道を守ることが四姉妹の役割である。

 魔王たちの死を見届けて。

 分かってはいても、テンペストも、エムも、デイジーも、ドリームも、哀しかった。死に場所に選ぶ意志をかためて去る背を見送ることは、身を裂くような悲しみを伴う。




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