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181,仕返し

「異世界からこっちに飛ばされる間に、魔力はすべて吸い上げられた。僕に魔力はもう一滴も残されていない」


 悲哀が滲むアノンの笑みに、ライオットは言葉を失った。魔力が失ったアノンなど想像もしたことがない。

 ライオットの胸が締め付けられる。


「魔力なんてさ。いつも、ありすぎて困っていたぐらいなのにね。ごめん、フェルノ、リオン。僕はもう、なにも、できない」


(謝る必要なんてないんだ)


 思ってもライオットは口に出せなかった。

 自らの魔力に翻弄され、それでもそこからもたらされる強さを正しく使おうと、必死になっていたアノンを見ているだけに、心がきしんだ。


 魔力を失うことはアノンにとって半身を失うかのようではないか。

 軽々しい慰めなんて役に立つわけがないと、かける言葉も思いつかなかった。ただただ、ライオットはなにも言えず、なにもできない自分が悔しかった。





「アノン! フェルノ様!!」

 

 聞きなれた呼び声に四人が上を向く。

 リキッドはキャンドルから手を離した。

 二人が操縦する絨毯が空中にとめられる。


 上方から急降下してきた絨毯が、六人がのる絨毯の横についた。

 そこにのっていたのはエクリプスであった。


「無事に戻られましたか。 

 っと、異世界に飛ばした張本人の一人に言われても、困りますよね」

「その節はお世話になったよ」


 苦笑いを浮かべるエクリプスに、くすりと笑むフェルノは嫌味を返す。


「私たちはこれより魔王城の始祖に会いに行くところだよ。エクリプス、君もこの件に、人間の国側として最初からかんでいたんだね」

「はい……」

「エクリプスがいるなら、サッドネスもいるのかな」


「はい。彼は魔力がありませんので、戦局を魔王城の塔より監視しております」

「そうか、魔王城には始祖の他にサッドネスがいるのか……」


 魔王城の塔へと、フェルノはちらりと視線を流した。喉の奥で、ふうんと呟き、視線を戻す。


「エクリプスは、魔王様や四姉妹の援護を予定しているのかな」

「はい。今のところ四姉妹が作った魔力の箱内部で収まっていますが、どこまで持つかわかりませんので、後方で待機しております」


 フェルノは腕を組んだ。片手を頬に添えて、斜め上に視線を流し考える。


「それは、魔王様や四姉妹に何かあったら、魔神と対峙するのはエクリプス一人になるのかな」

「はい。ですが、それまでにはフェルノ様方が戻られると思っております」

「念には念をと考えてもいいだろう。リオン、リオンはエクリプスとともに現場ここに残ってくれ」

「かしこまりました」


 リオンがゆれる絨毯に立ち上がる。

 ライオットは肩膝をたてた。

 アノンが、ライオットの腕を掴む。

 フェルノが、ライオットとアノンに笑いかける。


「ライオットは、アノンの護衛。少なくとも、魔王城の塔までは、アノンについていること」

 

 フェルノは、ライオットに言いつける。

 その間に、リオンは魔女たちが操縦する絨毯から、エクリプスの絨毯へと飛び乗っていた。


「リオン、頼んだよ。

 娘の四姉妹が傷つけば、魔王様方も悲しまれるだろう。彼女たちを守ってあげておくれ」

「はい」


 リオンはフェルノに従う。

 この場において、リオンはフェルノの護衛であり、彼の望むままに動く、矛であり盾である。


「では、そちらは頼むよ。リオン、エクリプス。用が済んだら、私も行こう。

 魔女リキッド。魔王城まで、お願いします」


「魔王城までいく」

「魔王城まで行くね」


 リオンとエクリプスを置いて、魔女が操縦する絨毯は、魔王城を目指し飛び去った。


 残されたリオンとエクリプスが互いに軽く会釈をする。


「その節はどうも」

「いえ、こちらこそ。事情伝えられないもので、いきなり飛ばし、申し訳ない」

「飛ばされただけなら、なんとでも。環の国は穏やかで、まるで休暇のようなひと時でした」

「魔神により滅ぼされたと聞く異世界も、復興されているのですね」


 休暇と言われ、エクリプスは苦笑する。彼は毎日日暮れまで森を歩き回り、泥だらけになりながら魔術具を置いていた過酷な労働の日々を過ごしていた。気を取り直し、彼方を見つめる。


「さて、リオン殿。魔神に近づきますか」


 



 魔王城に戻る最中、フェルノは上着をたくし上げて、腕を背に入れ、もぞもぞとまさぐる。

 ライオットがぎょっとして話しかけた。


「フェルノ、どうした。暑いのか」

「いや、ちょっと下着が邪魔なんだよ」

「下着?」

「そう。ほら、私たち、異世界で女の子だっただろ。さすがに男物の衣装に変えても、胸があるから女性の下着を外せなかったんだよ。動くと邪魔でね」


 女姉妹おんなきょうだいが多いライオットは、フェルノがなにを言っているすぐに理解した。


「それは、大変で」

「アノンは女の子のままだけど、私は男に戻ってしまったからね」


 背面から腕を引いたフェルノは今度は腹側から片腕を突っ込み、前傾姿勢でもぞもぞと動く。


「なんで、フェルノだけ戻るんだろうな~」

 じとっとフェルノを眺めるアノンが小さな不満を漏らす。


「なんでだろうね。始祖なら知っているかもね」

 次いで、胸元のボタンをゆるめたフェルノは、襟元から腕を突っ込んだ。するりと女性用の下着を襟元から引き抜く。


「ああ、すっきりした」


 フェルノは抜き出した下着を握り、清々しく叫ぶ。

 あまりの気持ちよさげな声に、ライオットは苦笑してしまう。

 アノンは、少し羨ましかった。


「女性用の下着って少しきつめなんだよ」


 座る足に下着をひっかけ、フェルノは衣類の乱れをなおす。身ぎれいになったところで、魔王城の塔最上部に到着した。下着を手早くたたみ、握りしめる。


 塔の最上部にはサッドネスがいた。

 異世界に飛ばした側の人間が、ご無事でなにより、などというわけにもいかず、サッドネスは窓辺から下がり、最敬礼する。


「ライオット先に降りて」

「俺が最初に?」

「そう。アノンを降ろしてあげないとね」


 魔力を失ったアノンは無力な女の子だ。身体の動きも魔力に支えられていたアノンは、体を動かすことも億劫なはずだった。


「フェルノ。気遣いは嬉しいけどさ。魔力が枯渇したと言っても、最低限体は動くよ」

「そう、アノン。ならいいけど……」


 フェルノに指摘され気づいたライオットが、先に絨毯を降りた。槍を壁に立て掛けてから、アノンに手を差し伸べる。拒むことなくその手を取って、アノンは絨毯を降りた。

 次いで、下着を握ったまま、フェルノが降りる。


「では、始祖様にお会いしに行こうか」


 最後に絨毯を降りた魔女二人が、ぴょんぴょんとフェルノの横を通り過ぎる。


「案内する」

「案内するね」

 

 絨毯を最上部の壁際に置き、案内人の魔女が階段を降り始める。アノンとライオットも続く。


 フェルノはサッドネスの前に立った。


「ご苦労様、サッドネス」

「ご帰還、お待ちしておりました」


 フェルノはくすりと笑む。サッドネスの胸元に、どんと拳をつく。

 驚き、目を白黒させるサッドネス。


「これ、捨てといてね」


 ぱっとフェルノの手からこぼれ落ちたものをサッドネスが慌ててつかむ。

 それを横目に、フェルノは階段へと向かう。


 階段を降りはじめ、ちらりと振り向く。

 女性ものの下着に絶句し、かたまっているサッドネスがいた。

 フェルノはくすくす笑いながら、塔の階段を軽やかに踏んでいく。


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