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173,円柱の光

「アストラル様、王城裏門前につきました」


 リュートに声をかけられ、アストラルは顔をあげた。力なく笑みを返す。

 黙って開かれた扉から車外に出た。


 王城周辺から魔物の影は消えていた。二階の窓は割れている以外、外壁に目立った傷はない。

 裏門の外階段に、イルバーとデザイアがいた。アストラルの姿を見つけた二人が歩み寄ってくる。


(フェルノとアノンのことが気がかりなのだろう)


 憂う心を払うように頭を左右に振ったアストラルは、自らも彼らに近づく。

 合流した四人が輪を囲む。


「殿下、二人は聖堂に向かったのですか」

「二人とも無事に魔法の絨毯に乗って行ったよ」


 真っ先に問うイルバーにアストラルは答える。


「二人の騎士が我々の仲間が操縦する単車で、聖堂へ走る姿を見ました。これで環の国の中心部に異世界から来た者たちが揃いますね」


 デザイアが胸をなでおろす。

 

「殿下。王城は遺跡と聖堂を繋ぐ直線上に位置します。魔神が直進してくればただではすみません。早々に離れた方がよろしいのでは……」

「そうだね、イルバー。私もそう思う」

「では……」

「デザイア、避難誘導は武官長に任されている。今頃、建物の損傷を確認し、じきに人々を避難用車両を停める表門に案内してゆくだろう。君たちも一緒に逃げるといい」

「殿下はどうされるのですか」

「私は、最後にここを離れるよ」

「なにをおっしゃるのですか!」

「殿下こそ、ここを真っ先に離れられないと……」


 イルバーとデザイアが目を剥く。

 アストラルは憂いを含む笑みを浮かべた。


「皆、それぞれに役割があるのだ。私は、見届ける者。この世界から魔神が消えることをもって、我が王族の役割はまっとうされる」

「魔神が消える? どういうことですか、殿下」

 

 柔和な声で語るアストラル。方やイルバーの声は低くなる。


「言葉のままだ。魔神はこの世界から消え去る」

「彼らが魔神を倒すのではないのですか」

「アノンやライオットは、戻ってくるのではないのですか」


 イルバーとデザイアが怪訝な表情を浮かべる。

 アストラルは、目を伏せた。 


「彼らはもう戻らないよ」


「「戻らない?」」

 イルバーとデザイアの脳裏に、死、という文言が鮮明に浮かび上がる。怒りに似た感情か、足先から突き上げ、体に緊張感を走らせた。


 伏せた目をあげて、力ない瞳のまま、アストラルは片口をあげる。左右の表情が明らかに違う。


「彼らはこれから、魔神を連れて元の世界へ戻るのだ」


 アノンとライオットが戻ってくると信じていたイルバーとデザイアは言葉を失う。





 昨夜、アストラルはこっそり一人で預言者に会いに行った。

 鏡の向こうに預言者はいなかった。ただ、預言者と似た服装の男性が現われ、アストラルに話しかけてきた。

 そこで彼は、アノンの提案を聞き、協力を申し出た。

 最後にアストラルは預言者の代理と名乗る男に問うた。


『我々の世界を滅ぼした魔神を受け入れも、魔神を迎え撃つ準備は出来ているということでしょうか』


 預言者の代理は困り顔で苦笑する。白髪交じりの髪に、感情の薄いくすんだ目をさらに曇らせる。


『どうだろう。私はそこまでは感知していないからね。彼らは準備しているけど、それが十分かまでははかれないな』

『準備はしている? はかれない? それでは危うい状況に陥る可能性があるということですか』

『危うい状況というか……。私と君の祖先が決めたのは、君たちの世界を救うことであって、それ以上でもそれ以下でもないのだよ』


『預言者の代理の方。あなたの言葉を曲解しますと、こちらの世界を救うために、フェルノたちを犠牲にするかのようです』

『曲解も何も、その通りだよ』

『その通りとは……』

『そちらの世界から、魔神を消し去るための装置が、フェルノとアノンだ』


『装置?』 

『元をたどれば魔神はこちら側のものだ。故あってそちらに送られたに過ぎない。元の世界に返すだけなのだよ』

『こちらの世界を滅ぼした存在をそのまま送るのですか? 違う世界であっても、そこには人々が暮らし、生きているのではないのですか! そこに生きる人々はどうなるのですか!!

 戻るフェルノたちはどうなるのですか! 私たちが救われるための犠牲になるというのですか!!』

『さあ、どうなるかな。こちらでは迎え撃つ準備はしていても、それは私の関知するところではない。あくまでもこちら側の者が生き残るために、自発的に行っていることだからね。結果がどうなるかは分からないよ。

 そもそも、私たちの本懐は、そちらの世界を守ることだ。

 君は第一王子なら、そちらの世界で生きる人々を守る役割を与えられた私の仲間の子孫だ。私には私の。君には君の。互いに異なる役割を全うする責務がある』

『ですが……』

『私心は捨てなさい。私たちは、異なる世界における同志だ。互いの役割をまっとうし、環の国を守るのだ。明日は協力する。魔神復活と我々の悲願が成就する明日に、また……』


 預言者の代理人は、そう言い残し、更なる問いを受け付けないとばかりに鏡から消え去った。

 そして、聖女をお披露目する宴の最中に、約束通り現れたのだ。




 一瞬の回想を経て、アストラルはイルバーとデザイアを見つめる。

 


 その時、日食のように周囲が陰った。太陽に雲がかかったかと、空を見上げる。空中に、大きな獣が青白い箱に閉じ込められたまま飛んでいく。


「あれはなんだ」

「アノンじゃないのか。あんなことをできるのは!」

「イルバー、彼女は聖堂に向かったはず」

「アノンは飛行できる。聖堂から砂漠に行き、魔物を連れて戻る可能性だって考えられる」


 イルバーはアノンの言葉を思い出していた。

『この旅では誰も怪我をさせない。誰も傷つけない。遺跡でどんな事実に触れても、たとえ魔神が復活しても、この居住区に被害を与えない。

 僕はそのために遺跡に行く』


(あれがアノンの本心なら、森の民の居住区だけではない。彼女の守るという範囲は、環の国すべてに及ぶはず……)


 短いふれあいのなかで、アノンの芯に触れる機会が多かったイルバーは確信する。


「あれは、きっと、アノンの仕業だ」


 四人は魔神の動きを目で追った。

 

 


 空を見上げたアストラルの表情が曇る。


(……もう、引き返せない)


 芝生へと飛んでいく魔神を見送った。

 途中で、半透明な箱が消え、地面に魔神がおり立つ。すぐさま、長い尾を振り上げつつ、聖堂に向けて走り出した。


(もう一つの世界を犠牲にする選択を私は選んだ。

 フェルノ。その選択さえ支持すると、貴女は私に言えるのだろうか)





 ひと時の間を置き、環の国の中心部が発光する。

 環の国の聖堂から四方に帯状に伸びた光は、一本にまとまると天高く上昇する。円柱の光は幅を広げ、環の国の中心部である芝生部分を丸呑みした。


 円柱の光に環の国の人々は目をくらませた。


 程なく光は引いていった。


 プツンと光が消えた時、そこに残ったのは、大きなくぼみであり、くぼみに水が一気に溢れて、そこは広大な湖と化した。


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