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161,魔王城の朝

 魔王城は朝から慌ただしかった。

 

 日が昇る前に魔王城を出たテンペストとエム、ドリームは、魔人たちに人間の国側へと移動するように各家をまわった。伝達を受けた彼らは、すぐに荷造りを開始する。


 魔人は家族であり、長年街道を守ってきたテンペストたちは街道に生きる魔人たちからの信頼も厚い。彼女たちが言うならと、皆、理由を聞かず、従った。

 足の速い何人かの青年には、伝達の協力もお願いした。

 荷物をまとめ終えた者から、街道をのぼり始める。


 ほうきにのったテンペストは街道の端まで飛んでいく。魔王が言った通り、人間の国側へ通じる街道の端に大勢の人間がいた。恰好から、騎士と魔術師、魔法使いであると分かる。彼らは多数のテントを用意していた。


魔王パパの言った通りだわ)


 テンペストは、彼らの中におり立った。騎士や魔法使い、魔術師たちは、いきなり空から少女が現れたことに驚いた。敵意がないことを示すため、ほうきと魔法の杖をほおり投げる。魔王城の四天王の一人と名乗り、責任者に会わせてとテンペストは叫んだ。

 そこに現れたのは将軍だ。彼は、指揮系統が集まる一番大きなテントへとテンペストを案内する。争う気はこちらもない意思表示として、彼女に拾ったほおきと魔法の杖を返した。


(こんなところで、肩書が役に立つとは思わなかったわ)


 そんな思いで、案内された一番大きなテントで将軍と話し合う。街道で魔人たちの移動が始まったこと、彼らは無害であること、一時的に守ってほしいこと、などを伝える。

 状況を理解している将軍は、絨毯を操縦できる魔法使いと魔術師を魔王城近くまで飛ばし、人々を移送することを約束した。

 将軍は、同席していた騎士と魔法使い、魔術師の長にそれぞれの部隊の行動を示唆する。

 魔法使いと魔術師は移送用に使える六人以上のれる絨毯を飛ばすこととし、野営に慣れた騎士達は、その間に水とパンにあたたかいスープを用意するという。朝ご飯も食べずに飛び出してくる魔人たちへの配慮に、テンペストは感謝した。


 テンペストは魔人の安全を将軍に任せ、再び飛び立つ。時折、街道におり立ち、周囲にいる人々へ話せるだけの事情を伝え、人間の国の援助を受けるように指示を出す。同じ内容を口頭で伝達するようにも依頼した。

 

 魔王城手前まで行き、エムとドリームと合流する。事情をきいたドリームが自ら申し出た。


「いちねえ。にねえ。私が、街道のみんなに人間の国の人達に助けてもらうように伝えるね。人間の国の人達が来たら、みんなびっくりして、表に出ないかもしれないじゃない。

 私は説明役に回るよ」

「お願いするわ、ドリーム」

 

 魔王城に戻るテンペストとエムを見送ったドリームはほうきにのり、空に待機する。遠くから飛んでくる魔法使いと魔術師の一団がドリームの目の前で止まった。


「私は、四天王の一人。【忘却消去 デイドリームデリート】のドリームだよ。魔術師さん、魔法使いさん。助けにきてくれてありがとう」

 

 屈託なく笑う赤毛の愛らしい少女に、人間の国からきた魔法使いたちは目を丸くする。まさか、こんな小さな少女が四天王だとは誰も思わなかったのだ。

 ドリームとともに魔法使いたちは街道におり立ち、魔人たちの移送を始めた。


 人間の出現に驚く魔人もいたが、ドリームが丁寧に説明すると、その意図を察し、魔法使いの絨毯に乗りこんだ。


 ドリームにも用事がある。なるべく早く魔王城に戻りたかった。絨毯に魔人を誘導しながら、末娘は良いことを思いつく。



 


 テンペストとエムが魔王城に戻るなり、食堂へと飛びこんだ。


「白姉様、黒姉様。お食事の準備はできてます。今日は一日、食事もままならないかもしれないなら、食べれる時に食べてください」


 台所の主、デイジーが、お帰りなさいより早く、食事を促す。いつもと変わらない彼女にテンペストとエムは、一息つく。


 魔王と預言者、魔道具師二人。リキッドとキャンドルもいた。もちろん、始祖にサッドネス、エクリプスもそろっている。

 ドリームも程なく戻ってきた。早い帰宅にテンペストとエムは驚く。


「もう、終わったの」

「ううん。みんなに任せてきちゃった」

「任せる?」

「街道の魔人と魔法使いの人間にペアを組んでもらったの。説明は魔人、移動は魔法使いって感じね」

「さすが、末っ子。甘え上手ね」

 

 テンペストが呆れながらも褒める。

 ドリームはへへっと笑って、目の前に用意された食事を食べ始めた。




 食事も終わり、羊たちが食器を片づけ始める。今日の片づけはすべて羊に頼み、デイジーも椅子に座る。テンペストがお茶を淹れ、リキッドとキャンドルが運ぶ。


 昨日と同じ面子が食堂に揃った。

 話は始祖が切り出した。

 

「では、私は今日は鏡の間で、私の椅子で待っているよ。昨夜の約束したんだ」

「約束とは?」

「うん、サッドネス。夜に向こうにいる私の協力者の子孫が顔を出してきてね。ちょっとしたお願いを受けたんだ。折角のご縁だし、大事な用時でもあったから、私も一枚かませてもらうことにしたんだ」


 それはなにかとサッドネスが問うことをゆるさぬように、間を置かず、始祖は魔王たちに話しかける。


「クリムゾン、アノス、メカル、スロウは勇者一行を迎えに行くんだね」

「はい。私たちもこれでお役御免ですので、好きにさせてもらいます」

「君たちもだね。私の意図はくみ取りながら、君たち自身も考えていたのだね」

「ええ……」

「その点は、侯爵家と魔王はよく似ている。そうは思わないか、サッドネス」

「どうでしょうね」


「テンペストたちはどうするの」

「私たち四姉妹は、魔王パパに同行します」

 

 テンペストがきっぱり言うと、三人の妹も強く頷く。

 始祖は彼女たちの意志を垣間見て、ほくそ笑む。


「そうかい、行っておいで。 

 リキッドとキャンドルも一緒だね」


「一緒に行く」

「一緒に行くね」


「エクリプスとサッドネスは?」

「俺は、魔道具師様方と同行します。後方支援にまわりますので」


 始祖は懐かしそうに目を細める。


「魔術師はそうだね。万能で、いつも裏で走り回っている」

「本当に、こき使われましたよ」


 エクリプスはうんざりという顔をする。

 魔道具師二人はその顔を面白そうに眺めていた。


「サッドネスはどうする」

「私は、塔の最上部から状況を確認します」


 始祖は、穏やかだ。魔神がこちらの世界に放たれた後の行動は、彼らの信条のおもむくままであればいいのだ。あとは感知するところではない。


「私は鏡のある部屋で椅子に座って待っているよ。できたら、戻ってきた勇者を、こちらに連れてきてもらえると嬉しいね」


 二百年足掻き、縛られてきた彼らに対し、始祖なりに思うところはある。その真意を語らぬまま、始祖は希望だけを口にする。



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