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134,森に潜む

 ラディ隊の面々は、森の中に潜んでいた。巨木の樹上で、仕掛けた罠を取り巻き、息をひそめる。各人、魔物の気配に敏感になっていた。


 三度目の火柱も、彼らは巨木の枝にて、間近で見ている。


 火柱は魔物を一飲みし、その体を炎の中で灰になるまで燃やしきった。罠が仕掛けられた地点の草木や生物には何も影響がない。葉は燃えず、小動物は不可思議な光から逃れるように逃げて行った。


 魔物だけを燃やしつくし、消しさる威力を目撃するのも三度目。そうなると、初回の驚きは無くなり、あの地点の罠は消えたと、脳内に刻んだ地図の地点にバツを記すのみだった。


 居住区を中心に輪を囲むように仕掛けられた罠は三層ある。最も遠い輪にアノンが残した鎖を使った罠を仕掛けた。二層と三層は、森の民がいつも用意する罠を用いている。


 短時間に三つの火柱が立った。

 異常だと森に散った者たち全員が意識する。


 一層目の罠の輪は欠けた。突破された隙間から、入り込む魔物がでてくる。次いでかかるのは二層目の罠。

 いつもなら、一隊は月の日数分程の罠にかかった魔物を狩る。いくつかの罠を順番で監視し、かかったところで屠ってきた。一日一体かかれば良い方だ。多くても二体。三体立て続けに罠にかかるなど年に一度あるかないかだ。


 ラディ隊は二層目の罠に潜んでいた。面々はすでにこれが負け戦であると意識している。


(二層目は突破される。おそらく一層目も持たない。結局は、時間の問題だ)


 蘇った魔神が、聖女フェルノの体質に呼び寄せられ、通り過ぎていくまでをやり過ごす。その間だけもてばいい。魔神が今日中に通り過ぎてくれなければ、居住区の存続は危ぶまれるだろう。


 



 ジャンは森の上空を単車で駆ることに意識を集中していた。リオンは、静かに後ろに座っている。


 白い岩肌を露にする石切り場の尖った頂上が、木々の上にせり出して見えた。ジャンはその頂を目指す。


 環の国から森の渡し場にたどり着く間に、リオンの剣技を目撃したジャンは、異世界から来た者たちの力を信頼すると肚に決めていた。

 

 リオンとライオットは、逃げない。魔力を屠るだけの強さではない。彼らもまた、自身に与えられた役割に徹することに躊躇がない。


(俺は、俺の役割をまっとうするだけだ)

 ジャンは、与えられた役割に徹する道を選択する。私的な疑問は邪魔なだけだ。その一瞬の迷いが、誰かの危険にすり替わる。





 ラディが、反対側の枝に陣取るサライとファブルに目配せした時、背後で、罠を仕掛けるために利用していた枝が跳ね飛んだ。しなった枝は葉をかき鳴らし、曲がりきり、跳ね戻っていく。


 地を何かが叩きつける。囚われた魔物が地団太を踏んでいる。罠が引っかかった不自由さに暴れていると、振り向いたラディは想定する。


 ばねのように前後に数回、しなった枝が前方に強く引っ張られる。

 次いで、狙撃用散弾銃の発射音がドンと轟いた。引く力を失った枝が、再び枝葉をかき鳴らし、揺り戻される。

 しなる枝の動きは徐々に小さくなり、あるべき自然の姿へと返った。


 ラディは、真顔になる。隣に仕掛けられた二層目の罠にも魔物がかかった。

(こんな時間で、すでに二層目到達するのか!)

 予想より、魔物の動きが速い。



 


 

 ライオットとブルースは、役場の入り口をくぐった。一階にいる人員は少なかった。多くの人が出払っており、残っていたのは、イルバーの父とリミナル、リングだった。


 ライオットとブルースの姿を見て、リングが駆け寄ってきた。


「ライオットさんに、ブルースさん。どうしてここにいるんですか。もう、出ていると思ってましたよ」

「リオンとジャンが飛び立ち、俺たちはこっちに残ったんだ」

「こっちにですか?」

  

 リングは首をかしぐ。森の民たちは、リオンとライオットは日の出とともに出立をすると想定していた。


「今、樹上の枝が大きくたわんだのを見なかったか」

「はい、見ました。珍しいですよね。葉が落ちるほど揺れるなんて。強風も吹いていないのに」

「大蛇が潜んでいたんだ。今、俺が凍らせてきたけど……」


「大蛇? って、【叫喚 フェスティバル】ですか?」

 リングがきょとんとする。


「枝の隙間から体躯がちらりと見えて、枝をのぼって見たら、ここの真上まで迫ってきていた。凍らせてきたけど、核まで破壊しきれてないから……」

「待ってください。ライオットさん。大変じゃないですか! ここの樹上までは魔物はこないんですよ」


 リングはあわあわと慌て始める。


「いつもはな」

「ブルースさん、落ち着いてられないじゃないですかぁ」

「アノンが残した罠が三つも火柱を立てたんだ。非常時だぞ」


「知ってます、知ってますよ。だから、わらわらしているんじゃないですか」

「樹上まで迫っているとは思わなかったよな」

「そうそう、それ想定外ですよ~」

「だろ。だから、首領に会いにきたんだ」


「首領は上にいるか」

「ライオットさん。います。いますよ」


「なに長話しているの、リング」


 背後からリミナルが近寄ってきた。リングは振り向くなり、泣きそうな顔で、両腕をばたつかせる。

「リミナルさん、大変です。大変ですよ~」


 リングは半泣きになりがら、かくかくしかじかと訴えると、リミナルは眉間をもんだ。


「上までは想定していなかったわ」


 ため息交じりのセリフとともに、上にあがってとブルースとライオットは促される。仕事の邪魔をしたことを詫びて、二人は階段を登った。


「ライオットは落ち着ているな」

「俺が?」

「魔物と対峙してきたんだろ。しかも、動きが活発になっていきているというのに……」

「まあなあ」

 ライオットは、槍を持たない手を首に添えた。


「ああいうの、慣れているんだよ。仲間が一人、魔物を寄せつけるやつだったから」

「聖女フェルノか」


 聖女と言われてもライオットはピンとこない。再会していないライオットにとって、フェルノは食えない第一王子のままだった。


「そう。フェルノは魔物なら何でも寄せつけるんだ。魔物が奇妙な動きをするのは、見てきたというか、な……」

「そんなに聖女が魔物を引き寄せる力は強いのか」

「すごい強い。だから、もし、魔物を狂暴化する影響を魔神が持っていたら、怖いだろ」


 淡々としたライオットの言葉にブルースは身震いした。


「今の魔物の動きは……」

「魔神に狂暴化されているのか、フェルノに引き寄せられているのか……」

「判断できないんだな」

「まあな」


 階段を登りきり、首領の部屋へと進む。彼は机に地図を置き、難しい顔で目を閉じていた。ライオットが森の民を守るために残ったことを知り謝辞を述べた後、ライオットとブルースがもたらした報告で、ずどんと頭を抱えたことは言うまでもない。






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