122、準備
アノンが見えなくなるまで見送ったリオンとライオットはそのまま役場へと向かった。
「なあ、リオン。俺たちはどう動く? 魔神の遺跡までは、単車で半日はかかるが、こっちから魔神にわざわざ向かっていくのもおかしいよな。
魔神が環の国に向かうなら、自ずとこっちにくるはずだろう」
アノンから受け取ったナイフをリオンは手元で遊ぶ。
「むやみに動いて、魔物にここが襲われても本意ではないしな。フェルノをめがけてくるなら、直進して、森の民の居住地を横切っていくはずか」
階段をのぼりながら、巨木が並ぶ森を眺める。森の民の居住地は巨大な樹木に床が組まれている。そこは、他の巨木よりも高い。上方に登っていくと、木々の頭が並んで見下ろせる。
「魔神が横切っていく際に、追いかけるか」
「念のため、俺はアノンの残してくれたナイフで、飛び道具でも用意するよ」
「ナイフを飛ばすのか」
「まあ、似たようなものだな。説明するより見た方が早い」
リオンの曖昧な答えに、ライオットは後で見ればわかるかと思った。
役場に着くと怒涛のように現場は動いていた。
手前の机にばさっと広げられた紙にはテント設営の図が描かれている。壁には、工程表が張られ、それを確認しながら、人が右に左に動き回っている。
目まぐるしい動きに、ライオットとリオンは、こき使われることを覚悟した。
「二人ともよく来たね。上で、首領とブルースとジャンが待っているよ」
イルバーの父に声をかけられた。礼を言い、忙しいそうな彼らを邪魔しないように、静かに二人は上に行った。階段と廊下で男たちとすれ違う。
首領の部屋に入ると、ジャンとブルースが待っていた。
首領と挨拶したリオンとライオットは、明日の行動を彼らと話しあった後、避難場所周辺に設置する武器の準備を手伝うことを求められた。
せっかちなジャンは黙って座っているより、歩きながらでも話はできるだろうと言う。三人は、それもいいかとジャンの提案をのんだ。
四人は武器を取りに行くため、鍛冶場に向かう。リオンとライオットが役場に来るまで話した内容を説明すると、二人は簡単に了解した。
移動のための足であると自覚する彼らは、二人の希望通り飛行すると約束してくれた。
「準備が終わったら、単車にのって、飛行してみるか」
ブルースの提案に、武器を設置後、車庫へ向かうことになった。
ジャンの単車に初めて乗るリオンも、ぶつけ本場よりは、慣れておく方がいいだろうと考えた。
鍛冶場には、アノンの魔術具が並べられていた。ライオットが見た武器量より少なく、すでに持ち運ばれたことがうかがえた。今回四人は、魔物が接近した場合に屠れる狙撃用散弾銃を、テントを設営する周囲に配置する仕事を担う。
リオンは、アノンが残したかごに入った十数本はあるナイフを眺める。手にしていたナイフも今は使わないと、そのかごに戻した。見習いのサイクルがいたので、リオンはしなりの良い木はないかと相談し、後ほど取りにくると準備を依頼した。
狙撃用散弾銃を上階まで運ぶ。ライオットとリオンが軽々と持ち上げていく様をジャンとブルースが驚いて眺める。
尋常じゃない体力は、魔力の補強を受けているためだとライオットは二人に簡単に伝えた。
最上階のフロアではテントの設営が開始されていた。女性たちも手際よく動いている。年配の女性は、中心で焚かれた火元で、料理を作る。その香りが風にのって流れてきた。
武器に足をつけ、フロアの端に対魔物用の武器を設置していく。二人一組になり、作業を続けた。
すべての設置が終わる頃、日は高く昇っていた。お昼の時間になったようで、テントを設営していた人々も火をかこんで座り始める。料理を作っていた女性たちが、おぼんに匙を添えたおわんを載せて、配り始めた。元気のよい女の子達も、彼女たちに交じって手伝っている。
「ライオット、リオン。お疲れ様。お腹空いたでしょ」
明るい声をかけてきたのはサラだった。
もっているおぼんにはちょうど四人分のおわんがのっていた。
ブルースやジャン、リオンがそれぞれ受け取る。
「サラこそ、朝も早かったのに、休まないで大丈夫か」
ライオットは最後に受け取った。
「いいのよ。アノンなんて徹夜でしょ。あの子、朝、大丈夫だった」
「元気にイルバーの単車にのせてもらっていたよ。砂漠を移動する間に休むと言っていたから、今頃寝ているんじゃないか」
サラが、小首をかしぐ。
ライオットもつられて、首をかしいだ。
「ライオットは、アノンがお兄ちゃんと一緒で気にならないのね」
「なんで? イルバーと一緒なら、安心だろ」
ライオットは当たり前の答えたつもりだった。なのに、サラはおぼんを胸に抱いて、ライオットの肩を叩く。
「さっすが、余裕ね」
サラは踵を返し、跳ねるように、鍋の傍に戻っていった。
残されたライオットは、なにがなんだか分からないという表情で三人を見る。
ジャンとブルースが生ぬるい目線を向け、リオンは涼しい顔をお椀をすすっていた。
台風のように去っていったサラが残していった場の雰囲気に、ライオットは何となくいたたまれない思いを抱きながら、お椀によそわれたスープの具を口につけた。
そして、もう一度首をかしぐ。
(もう墓穴ほるどころじゃなくて、何かが独り歩きしているのか)
抵抗できない思い込みという壁が、ライオットの前に立ちはだかる。しかし、その壁を打ち破る方法は分からない。
(魔物よりも、たち悪すぎだ!)
かきむしる思いを抱えて、ライオットはおわんに盛られたスープを飲み干した。
午後は四人で、車庫に向かう。ほとんどの単車は出払っていた。
単車を準備するブルースにライオットが話しかける。
「単車、ほとんどないな。みんなどこに行ったんだ」
「アノンが改造した鎖を使った罠を周辺に設置しに行った」
「罠に鎖を使うのか」
「魔物はでかいからな、体の一部を捕まえられたら動きに制限がかかるだろう。巨木を使って、罠をしかけるんだ」
「いつもそうやって狩っているのか」
「だいたいな。動けないところを、狙って撃つようにしている。魔物が歩く道や、木肌や地面に痕跡を見つけて、罠を張る。俺たちは弱いから、そうやって工夫するんだ」
ブルースが単車にまたがり、ライオットに「のれよ」と声をかける。従うライオットが後ろに乗ったことを確認して、ブルースが単車を動かす。
「さあ、ここから渡し場までのルート確認に行くぞ」




