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120、ギフト

 円卓のある会議室に残ったのは、第一王子を環の国に飛ばした国王と、一人息子を異世界の森へ飛ばした公爵。それに、魔王城に息子を差し向けた侯爵と伯爵であった。


「二百数十年前、私たちの先祖は始祖と約束をした。

 世界を統べるための強大な魔力を得る代わりに、二百数十年後に復活する魔神【凶劇 ディアスポラ】へ対抗する力を異世界へ提供することを……」


「うまくいくと思いますか」

 伯爵の問いに王は答える。


「フェルノが王城にいるとなると、問題ないだろう。あれは、最も身近な戦える場所を定めるはずだ。闇雲に動くこともあるまい。あとはアノン君がどこにいるかだな」


「アノンのことです。ある程度のことは気づいていてもおかしくない。一緒につけたライオットはアノンを見すてずにフォローし、アノンの弱いところを十分にカバーしてくれているはず。

 ああいう性格の者をアノンは結局は無下にできない」


「よく理解されてますね」

「伯爵。あなたのところのお嬢さんに似た者を人選したのだよ」

「リタとですか?」


「ああ、お節介で、何があってもアノンを見捨てず、恨まない。そういう者を選んだのだ。あれはまだリタのことを悔いているからな」

「公爵、あの件は事故なのです。子どもの体で扱える魔力量ではないのですから」

「分かっている。しかし、あれも子どもだ。そうそう割り切れないのだよ」


「我が娘のために、未だに悔いてくれているのですか。なんと……。

 私も娘も理解はしているのです。娘も理解した上で、彼の傍にいたのですから……」

「ありがとう、伯爵」


 伯爵と公爵が黙り、王が口を開いた。


「アノンにはアノンの役割があり、フェルノにはフェルノの役割がある。私たちのできることは限られている。そうだな宰相、いや、侯爵」


「はい。始祖の目的は、魔神を屠ることです。その為には、どんな犠牲もかまわない。それが始祖本来の思想であり、彼にとって、我々は……、この世界に元々住まう私たちは、人間ではないのです……」


 王は息をついた。公爵と伯爵も渋面を浮かべる。


「天候を操る始祖に世界を人質に取られている私たちは、魔神【凶劇 ディアスポラ】に対する力を備えた子どもを生み出すために、婚姻関係を調整し血縁を掛け合わせ、努めてきました。

 私たちの祖先に始祖が、王族や貴族を名乗ることを求めたのは、このような血統のコントロールのため。始祖の優先順位は、異世界で解き放たれる魔神討伐であり、その目的のためであれば、私たちは道具でしかないのです。


 約束を果たすために始祖が望んだ者は二人。

 一人は、魔寄せの体質を備えた者。

 もう一人は、膨大な魔力量を誇る者。


 フェルノ様とアノン様こそが、始祖が望んだ魔神を討伐するために、始祖が王家に求めた二人でした」


「生まれた時が悪かった、そうとしか言えないな」

「約束の節目に生まれたのが、運命なのだ」


「しかし、唯一、始祖が読み切れなかったとしたら、それは平和がもたらす影響です」


 侯爵の言葉に、三人は耳を傾ける。


「この二百年で、私たちの文化水準は上がりました。

 同時に、何の違和感もなく、自然と、なるようになったかのように、国中の教育水準をあげることができました。

 市民から逆算しても、これぐらいの教育はその立場の者なら受けて当然という社会体制を整えることができた。

 

 第一王子であれば、このぐらいの教育を受けて当然。できて当然。

 偉大な魔法使いでであれば、このぐらいの教育を受けて当然。できて当然。


 社会体制を反映させれば、二人を教育せずにはいられません。そのおかげで、議会という厄介なものを生み出したところはありますが……。

 始祖であっても、社会体制に根差した行為に口を出すことはできませんからね。


 この二百年、魔法術協会は王族と公爵家の婚姻を通して始祖に加担してきました。

 奇しくも、その枠組みから抜け出た侯爵家は、社会体制を整えていく方向に全力で舵を切れました。これにより、私たちは送り出す子どもたちのために、教育というギフトを用意できたのです」


 王と公爵は口を閉ざす。


 魔寄せの体質のフェルノは、生まれながらにして、始祖の望む体質を得ていた。王妃の胎内にいる時から、王城近くに魔物が現れる予兆が散見され、誕生と同時に隔離された。


 王妃の懐妊は慶事であり、王子の誕生もまた慶事である。第一王子であれば、王太子としても見られる。平和の世では、王子誕生を隠しきれなかった。

 体質を病弱と公表し、表には出さなくとも、教育は十分に与えることができた。


 大きな魔力量を誇るアノンも、始祖が求めた基準を生まれながら満たしていた。彼に、魔法を多角的に理解し、使いこなせるようになることは求められてはいなかった。


 時代は変わっていた。教育を受けない公爵令息などありえない。公爵家に生まれ、高い魔力量を誇るアノンには魔法に関するすべての知識を叩き込まれた。社会的に見て、強い魔力を持ち、公爵家に生まれた者ならば、当然の教育を与えたにすぎない。


 フェルノとアノンに与えた教育は、黙認された。

 魔法術協会に残る始祖の思想は、それを許した。


 大枠は始祖の思想から外れなかったために。



 始祖が目指した歯車は、侯爵家の過ちを発端に小さな鋭角でずれた。そのずれは修正されないまま、時が流れ、目的を変えた現実が生まれた。


 ただ魔を寄せることだけを求められた者は、王太子に匹敵する教養と剣技と魔力を持つ者になった。

 ただ膨大な魔力量を内包するだけを求められた者は、魔法と魔術の神髄を極めんとする者となった。


 それは、与えられた運命にあがらうために、歴史の流れに潜伏した、王族と貴族の抵抗の証であった。

 魔法術協会にて、始祖の思想を具現するための交配を続けながら、文化的な世界の根底のなかに、反旗の地下水脈を並行し流す。市民教育の向上、教育水準の底上げ、教育の重要性の認識。


 侯爵家は、歴史的な咎を教訓に、始祖の目的に対し抵抗する芽を社会に育てていた。


 その二つが融合した姿こそが、魔寄せの第一王子【鬼神残響 グレネイドインフェルノ】であり、魔法使い【忌避力学 アンノウンクーデター】となった。


 最後に、公爵こと、魔法術協会の会長が思い立ったように言葉を発した。

「本日、魔法使い【贖罪無為 ゴシックペナルティ】が魔王城に旅立ちました。彼もまた、彼らと合流します」 


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