117、護衛騎士と待つ王子
「リオンは誤解されなかったのか」
「誤解される以前に、フェルノの方からけしかけていたよ」
「けしかける?」
客間でライオットとリオンは話し続けている。並んで用意された寝床の一つにリオンは横になり、ライオットは胡坐をかいている。
「俺のことを、恋人呼ばわりしてな」
「うわぁ。何考えての、フェルノ」
「相手を警戒したフェルノが欺くために、とっさについた嘘だな」
「すげえ……」
ライオットは呆れかえる。
「環の国の中心地から抜けた瞬間に、魔力が抑えられて使えなくなった。加えて女になってしまったことで、本人も必死だったんだろう」
「だからってなあ。限度もあるだろう……」
ライオットが気持ち悪いという表情を浮かべ舌を出す。
リオンは無表情で話し続ける。
「フェルノも自国で長く軟禁されてきたからな。見ず知らずの宗教や国に召喚されたことに警戒したんだ。
暗殺という密命を受けた俺たちに囲まれて、常に危機感を抱いてきたフェルノらしい発想と言えば、らしいじゃないか」
「よく耐えたな」
「その場では気持ち悪かったぞ。虫唾が走るという感覚を真に体感した。と、同時に、離れろ、止まれ、だろうか。そんな風に思ったらな……。そしたら、本当に止まったんだ、時間が……」
「時間が止まった?」
「ああ、時が止まって、俺と触れた人や物だけが動けた。能力は、自分の意志で制御できて、願えば時間が止まりる。その止まった時間の中で自由に動けた。願えば、また時を動かすこともできた」
ライオットが手をあげた。
「それ、俺もある! 俺は、内部構造にもぐりこんで見えるようになったんだ。遺跡に行った時に、内部に本当に魔神がいるのかと思って覗いたら、白い空間に魔力に包まれたうごめく生き物を見たんだよ。遺跡には間違いなく、魔神がいる。しかも、すでに目覚めている。
だけどさ、その時、俺、一時的に目が見えなくなったんだ。それで、アノンからは多用するなと言われている」
「俺も、時を長時間止めたら、その時間分は睡眠をとらないといけなくなる」
「能力くっついてきてもさ。結構、制約あるよな」
「あるな。多用はできない」
「戦闘中に失明したら一大事だよ」
「俺とライオットにおかしな能力が付帯して、フェルノとアノンが性別が変わった。
やっぱりこれは、あっちの世界からこっちの世界へと移動した影響と考えられるよな」
「俺たちって、事前にこちらに飛ばす予定だっただろう。
で、こっちでは、最初から聖女が召喚されるって話がなり立っていた。
ってことは、フェルノとアノンは始めから、女になるって、仕組まれていたのかな?」
「仕組まれているか」
リオンが考え込み、ライオットは軽い調子でしゃべる。
「そうそう、俺たちみたいに、変な能力ついたら困るとかさ、なんか理由があるんだよ。魔物を呼び寄せる体質変化とか、アノンの魔力量が変化するとか、肝心な部分に影響出たら困るだろう。だからさ、始めに変化することが決められてるってこと」
「そう考えれば、あるかもな。アノンの魔力と、フェルノの魔寄せの体質に変化が起きないように、事前に体が変わるように仕組まれていた、可能性……」
「でもさ、誰が、どうやって、仕組むんだろうな。魔法術協会か、魔道具師か?」
「魔法術協会の可能性が高いか……」
「必要なのは、アノンの魔力と、フェルノの体質。この二つだろ」
「そうだな」
ライオットが眉をひそめる。視線を床に落として、息を吐いた。
「わっかんねえよな。なんで、って考えたら何もわからない。
分かっているのは、明後日に魔神が復活したら、大変だってだけだ!
でっ、それを排除しないと、俺たちも含めて、生きる場所がなくなるって話だろ」
(俺たち、何をしているんだろうな……)
そんな身もふたもない愚痴がこぼれそうになって、ライオットは吞み込んだ。
「そもそもさ、俺もリオンも国から離れたんだ。暗殺だけでなく、護衛としてだって、関係ないんだよな。
俺たちが戦うってのも、強いて言うなら、今、俺たちが生きているのがこの世界だからってだけだ。砂漠ばかりの世界で、逃げる場所もない。知らんぷりもできない。数日の飯の恩もある。そんな理由か?」
「俺たちは、そもそも背水の陣だ。森の民も、環の国も、どちらも失えば、この世界で生きる術がない。
この世界に飛ばされ、この世界の人々を見捨てても、この世界で俺たちに未来はない。結局、戦う以外、道がないんだよ」
ライオットが、わしゃわしゃと頭をかいた。
「もう、寝るわ」
ライオットは寝床にもぐりこんだ。考えても仕方ないとばかりに、目を閉じれる。すぐに夢の中に落ちて行った。
ライオットとリオンが再会し、言葉を交わし合っていた頃、フェルノは星を見るために用意されたテントで、アストラルと向き合っていた。
「環の国で私が戦える場所は一か所しかない。私を召喚した聖堂。あそこならば、私は魔神と戦うことができる。宴の当日、どうにかして、私は聖堂へと行きたいんだ。
魔神は、必ず、私を襲いにくる」
瞬きもしない、見開かれたアストラルの両眼にフェルノはうつしだされる。
片手を床につけ、もう片方の手でストールを胸元でつかみ、フェルノは身を乗り出す。あぐらをかくアストラルは、覗き込んでくるフェルノから目を逸らさなかった。
「アストラル。君にも言えないことがあるだろう。ここは君の祖国だ。
君が自身の立場に立ち、私情を優先しないで、行動するなら……」
フェルノは目線をアストラルから外し、一瞬で戻した。
「それは仕方ない」
「いや、私は……」
アストラルは言いよどむ。
「いいんだ。アストラル。言えないこともあるだろう。魔神が宴の時に現れることを私なりに危惧していると理解してもらえればいい」
「いえ、フェルノ……」
フェルノは身を引いた。言えることはここまでだった。座り直し、膝のクッションを抱いた。
「リオン殿はご存じでいますか」
「ええ、分かっています」
「フェルノに、魔物が寄ってくることを……」
「はい。そして、宴までには、なんらかの形で戻ってくると思っております」
戻ってくる。そして、そこにはきっとアノンとライオットもいるとフェルノは信じていた。
「私は、彼らを待っている」
アストラルは身を屈め、苦悶の表情を浮かべた。




