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112、武器

 アノンは、鍛冶場に来ていた。魔物の核を鋼に溶け合わせる高炉があり、武器の作成も近場の小屋で行われている。そこは、実質、森の民の武器製造所であり、武器庫でもある。


 テーブルに森の民が使用する武器を全種類出してもらった。それらを見聞しながら、どれだけのことが一晩でできるだろうかと検討する。

 銃に鎖、ナイフ。各々サイズ違いはあるものの、三種類の武器を使い分けていた。 


 アノンは小さなナイフを手にして、回しみる。キレイな刃だ。つるりとした鏡面にアノンの顔がうつる。紫の瞳も、薄紫の髪も、肌の色もの何も変わらない。見慣れた自分がいて、その根本は魔法使いだ。


 騎士ならナイフを魔術具に変えても使用できる。アノンでも使える。魔力を込めて放てば、飛び道具のようにもなるだろう。

 しかし、森の民に魔力はない。彼らに魔術具としてのナイフを与えるのは不適切だ。


(小型のナイフ。魔術具に変えて使えるなら、ライオットやリオンに分けてもらえないかな)


 鎖は太さに違いがあるが、すべて魔物の核が練りこまれている。これも十分に魔術具になるだろう。


(この鎖、どんな風に使うのだろう。使い方によっては、魔力を込めておけば……)

 思いついたことに、にやついてしまう。


 銃は三種類あるというが、テーブルにはまだ二種類だけだ。もう一種類は、鍛冶場で働く見習いのサイクルがとりに行っている。


 拳銃を魔術具にして、アノンの魔力を込め、だれでも撃てるように準備しても、一丁につき数発が限度。威力は折り紙付きでも、改造後に弾薬を込めて使えるかまでは、検分していない。魔物が近くに寄ってきた時のいざという場合を想定するかどうか、アノンは迷う。


 短機関銃は魔物を驚かせる程度の威力だが、どこか魔力を込めるには不向きな気がした。弾薬がベルト状につながり流れゆく仕組みに、どのように魔力を込めればいいか、アノンは思いつかなかった。

 弾薬の代わりに、魔力を事前に込めて置くことを想定していた以上、即興で魔術具にするには検討時間が足りない。


「アノンさん。あと一番大きいのがこれです」

 鍛冶場の見習いであるサイクルが、抱きかかえるように子どもの身長ほどもある武器をもってきた。


「サイクル、それは?」

「これは、狙撃用散弾銃です。森の民が罠にかかった魔物を最後に仕留める時に使用します。でも、弾薬の装填に時間がかかるので、本当に一回使ったらしばらく使えないんですよ」


 アノンは、サイクルの抱える武器を面白そうに眺める。


「これ、威力が増したら、使いやすい」

「どうでしょう。今回、どのように使うか分からないですし……」


「もし避難場所付近に設置するなら。その分だけでも魔力を込めてあげれると思うんだ。弾薬の中が空っぽだったらいいのに、そしたら、その中に魔力を込めて、何発か使用可能なのにね。残念だな」


「えっ、弾薬が空でいいんですか。薬莢だけあればいいですか?」

「……薬莢?」

「はい。散弾を入れるケースですよ。散弾の代わりに魔力を入れるということですよね」


 アノンの目がきらんと光る。

「それ、見せてよ」

「あっ、はい。分かりました」


 サイクルが狙撃用散弾銃をテーブルの横に置くと、奥へと走って引っ込んでいった。

 アノンはしゃがんで、銃本体に触れる。


(これは、一度役場に戻って、どういうものをどれくらい魔術具にするか、相談しないといけないよね)


 昔のアノンなら、片っ端から改造したかもしれない。

 時間がない。使う人間も素人であり、森の民は森の民のやり方がある。一人で全部はできない。少しだけ悟ったアノンは、相談してから、改造に取り掛かることに決めた。

 

 駆け戻ってきたサイクルから散弾銃の薬莢を受け取った。本体が大きい分、今までの弾薬の数倍はある大きさだ。この大きさなら、相当量の魔力を込められる。


「これ、いいね」

「使えます?」

「うん。一度、役場に戻るよ。首領達と話し合わないと、一晩でできることを相談したい。悪いけど、サイクルついてきてよ」

「えっ、なんで僕が?」

「ここの武器庫の内情ぐらい知っているだろ。僕ができることと、していいこと、どう使うかも含めて、相談するために役場に戻るよ」


 ふぇぇという顔をしたサイクル。今まで、アノンに言われるまま、武器庫とテーブルを往復し、へとへとになっていた。

「いくよ!」

 語気強いアノンに、サイクルは言い訳もできず、口元をみみずのように歪み結ぶ。嘆息し、背後に振り向いた。

「親方! アノンさんとちょっと役場まで行ってきます!」


 奥から、「おおー!」と返事が届く。すでに歩き始めたアノンを追って、サイクルも走り出した。






 アノンを希望通り、鍛冶場に送り届けたリオンとライオットはイルバーとともに、サラが待つ家に帰宅した。

 事情を知る妹は怒らず、迎える。彼女なりに非常時だと理解していた。


「お兄ちゃん、お疲れ様」

「ライオット、アノンは? あら、そちらの方は?」


 リオンに気づくサラに、ライオットの仲間であると紹介し、アノンは一人鍛冶場にいると伝えた。


「じゃあ、お兄ちゃんたちは、お風呂先にする? それともご飯?」


 三人は、すぐさま食事を希望した。

 居間に行き、テーブル席に三人が腰掛ける。

 すでに食事の用意は終わっており、サラは台所でお皿に料理をよそい始める。イルバーは座るなり、父が今日は役場で泊りがけのなること、明後日には魔神が復活すること、明日は一斉に上層のフロアへの避難が為されることを説明した。サラは眉をひそめたものの、日ごろから話を耳にしていたからか、思いのほか冷静に受け止めていた。


 夕食を食べながら、(やっとここまでか。長かった……)とライオットは振り返る。リオンと再会できて、肩の荷も少し降りた。明日以降、アノンは環の国に旅立つことは心配だが、イルバーとデザイアがついてくれるなら、任すしかないと肚をくくる。


 なにより、アノンが希望する森の民を守りながら、環の国へと魔神を誘導するわけだ。どんな力を秘めているかも分からない相手に挑むことになる。

 

 人の心配ばかりしていたら、自分が喰われる。ライオットはそう自覚していた。


「ライオット」


 ご飯をかっこんでいたライオットは、サラに名を呼ばれて、手が止まる。口の中に頬張った食べ物を咀嚼し、飲み込んだ。


「ご飯食べたら、アノンにも食事届けてね」

「えっ、俺が?」

「今、おぼんにのせるから、よろしくね。アノンのことはライオットが一番よね」


 笑顔で宣言され、ライオットは苦笑する。


(俺とアノンは、セットかよぉ)


 一席分空いているテーブルのスペースにおぼんをのせて、サラはそこに一人分の食事をのせはじめる。


「アノンだって、ちゃんと食べないと、倒れちゃうわ」


 ライオットも心底同意し、黙って食べ続けた。


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