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109,対策

「環の国に宴があり、森の民も招待されているなら、僕も一緒に行く。聖女を召喚したばかりなら、薄紫の髪と紫の瞳の女の子が来ても、無下にはされないんじゃない。森の民のところに現れた異世界の女の子を連れてきたと言えばいいんだ。


 それにこちらは宴席に魔神が来る可能性が高いと分かっている。招かれた夫婦だって、代わりの者が行く方がいいんじゃないか。その夫婦は、兵士ではないんでしょ。交渉役の立場なら、危険が迫っている場所におくりこむには不向きじゃない」


 ライオットの視線を振り切り、アノンは鋭く首領を睨んだ。


「ねえ。僕の他に一緒に行く人、二人ぐらい見繕ってよ!」


 アノンのはっきりした物言いに首領も困惑する。

 首領だけでなく、その場にいた者全員が黙りこくった。

 その静寂を切ったのはイルバーだった。


「首領、俺が行きます。もう一人必要なら、デザイアを推薦します」


 言い出したらきかないことを理解しているイルバーが申し出る。それを聞いて、アノンの高ぶった気も宥められる。


 アノンは結局アノンでしかない。ライオットのように上手に周りと話す方法なんて分からなかった。


 近づくなと強く出たり、嫌な顔をして寄せ付けないようにしたり、そんな不器用なことしかしてこなかった。そうして、対話という大事な部分の成長をおろそかにしてきた。そのつけで今、伝えたいことがあっても、相手に伝わる言葉が分からずに、言いたいことをぶつけるしかできなかった。


 アノンはそんな自分を口惜しいと思っていた。自分一人の力では、出来ないこともあると、痛感し、学んでいた。


「僕がどんなに強くても、一人で全員を、全てを守ることはできないんですよ……」


 切なく、心情は吐露される。 


「僕はできるなら、森の民全員を守りたい。だからって、フェルノを捨ててもおけない。過去にこの世界を滅ぼした実績を持つ魔神が放たれれば、ここだけでなく、環の国だって亡びるだろう。そうなれば、僕らも共倒れだ。


 フェルノも助ける。森の民も守る。環の国も何とかする。


 全部、ひっくるめて考えたらさ。

 森の民の人たちには自分たちを守ることだけを考えてもらいたい。

 リオンとライオットには、魔神を誘導することを最優先にしてもらって、いざという時は人命優先で判断してほしい。


 僕はフェルノと合流する。魔神が引き寄られた時に、フェルノが一人で対峙しないですむように……。

 宴があるなら、そこにフェルノが出てくる。確実に、フェルノに会える。何かあっても、起こっても、対応でいる。

 僕が……、僕が……。

 僕が、環の国に行きたいんだよ!」


 言い切ってアノンはうつむいた。誰がどんなふうに自分を見ているのか分からなくて、周囲を見ていられなかった。


 しんと静まった空間に、机に落とすように、ぽつりぽつりと言葉を続けた。


「ここにいる間に出来るだけのことはする。

 武器を加工する。すべてはできないと思うけど、魔術具にして、僕の魔力を放てるように準備する。威力が強い武器があるのは、困らないだろう。

 思いつく、出来ることは、ぜんぶ、やるから……」





 ライオットはアノンの小さな肩を見ながら、言葉を失った。肩に乗せた手はそのままでも、もう力を込めてはいなかった。

 ただその弱い背を撫でてあげたかった。


(いったい、何を背負ってんだよ……)


 誰にも、何も言わないで、こんな小さな内から背負わされて生きることがどういうことか、ライオットは分からない。


 統一を果たした王家の血を引く公爵家だからか。この時代に生まれたからか。偶然なのか、なんなのか。こんな小さな子どもに、三百年前の大人はこんな重いものを背負わせて、何をやっていたんだ。

 これは怒りなのか、悲しみなのか。波のように寄せてくる感情は静かで、ただただ、この小さな子が抱え込もうとしていることに胸が痛むばかりだった。


 



 首領が深く息を吐いた。


「アノンさん。無理はしなくていい。俺たちは、俺たち自身で身を守る。あなたは、フェルノさんと合流することを考えてくれ。武器は……そうだな、出来る範囲でいい」

「はい。時間が許す限り……」


「イルバー、デザイア。明日の明朝、アノンさんと環の国へ飛べ」

「わかりました」

「了解」


「俺たちは、身を守ることを優先する。今まで通り、四人一組で魔物と対峙することは変わらない。いつも通り、こちらから積極的には責めない。罠を仕掛けて狩る。

 魔神の動きについては、ライオットとリオンに任せよう。二人には悪いが、俺たちは役には立たないだろう」


 首領の殊勝な言葉にリオンは頭を振った。


「いいえ、そんなことはありません。俺たちは、砂漠を飛ぶ手段がない。できたら、誰かの単車の後ろに乗せてもらいたいのです。俺たち、騎士は魔法使いのように空を飛べません」

「そうなのか」

「できたら、砂漠を飛び越える足が欲しいです。環の国の中央まで送ってもらえたら、なおありがたいです」

「それなら、単車で移動すればいい。

 あれは飛行移動距離も長い。魔神の動向を確認しながら、距離をとり、飛行できる。我々のできることで協力は惜しまない」

「ありがたいです。環の国の中央まで送ってもらうことは可能でしょうか」


「できるだろう。一度ぐらい補給は必要かもしれないな。それはこちらで考えよう。環の国の中央だな」

「はい。フェルノは、魔神とあの国で対峙するなら、中央部の緑地を望むでしょう。あの国で、それなりのスペースがあり、魔力が使え、王城から近い場所はそこしかありません。

 そこは、聖女召喚を行った場です。おそらく、そういった儀式を行うためにぽっかりと教会の祈りが効かない場を設けているのでしょう」

「なるほどな」

「送ったあとは、巻き込まれないように、すぐさま中央から飛び去ってほしい」


「わかった。では、イルバー隊を分割する。アノンの同行者がイルバーとデザイア。ライオットとリオンの移動補助をジャンとブルース。面識を考慮すると、ライオットとブルース、リオンとジャンでいいだろうか」


「俺はかまいません。ライオットは」

「俺も異論ないよ。リオン」


 ジャンとブルースも同意する。


「では、明日以降の行程をこれから考えるとして……。

 イルバー隊とラディ隊の面々は休め。明日は一日準備にあてることになるし、明後日からは休む暇もないだろう。休めるうちにしっかり休息をとる。それも大事だ。

 今日はこれで解散!」





 アノンは淡々とまとまっていく話を静かに聞いていた。

 首領の、解散の合図とともに、ざわめきが起こり、退出の足音が続く。


「俺たちも、明日以降についてもう一度思案する。アノンさんとライオット、リオンについては……。後はイルバー頼んだ」

「わかりました、首領」


「今日は私も帰れそうにない。悪いが、サラに伝言を頼むよ」

「仕方ないね、父さん」


 わらわらと席を立つ音が響く。


「さあ、俺たちは下で仕事だな」

「今日は徹夜かしら」

「仮眠ぐらいできますよ」

 首領とリミナル、イルバーの父が退室した。

 

 誰もいなくなったテーブルで、四人掛けの席にアノンだけがじっとしていた。

 再び、椅子を引く音がして、誰かが横に座る。

 おずおずと顔をあげると、ライオットが座っていた。


「アノン。一人じゃないから、なっ」

 

 ライオットが笑んで、つられるようにアノンも泣きそうな顔で引き結んだ唇を震わしていた。


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