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101,遺跡での談話

「僕こそが、【地裂貫通 グラインドコア】が異世界で生み出した、対魔神用の兵器そのものだ!」


 遺跡内部にアノンの凛とした声が響く。空間が震え、闇に包まれたライオットは顔をあげた。


「あっ、アノン……」

 名は呼べても、姿は見えない。どこにいるかも分からなかった。


 今、アノンはどんな顔をしているのか。ライオットは、この瞬間を見ることができない不甲斐なさに、苛立つ。


 身体感覚を頼りに辛うじて立ち上がる。ただ、前も後ろも分からない。アノンがどこに居るのか、横にいるはずのブルースとイルバーの位置も不明瞭だ。

 片手で、顔を覆った。もう片方の手で前を探るように伸ばす。方向感覚を失った状況に恐れおののき、身がぶるっと震える。前に前にと気持ちは急いても、足は動かなかった。


 伸ばした手が左右に振れて、体がよろめきかけたところで、誰かの手が肩を支えた。

「どうした、ライオット」

 ブルースの声だ。


 ライオットは唇をうすく噛んで、放す。

「急に、目が見えなくなった」

 嘘はつけなかった。


「はっ?」

「この建物の内部を見た。触れたら、俺は物体の内部構造が見えるんだ。そこで、本当に、魔神がいるのか、確かめた……」

「それも魔法か」

 

 魔法だろうかとライオットが疑問に思う。それはこの世界に入りこんだ際に発現した能力だ。魔法のようでいて、魔法ではない。しかし、今はそれさえ説明している余裕はなかった。


「とにかく、見たんだ。この遺跡の底の底を。緑のコケの根が続き、そこに魔力の黒い筋が絡んできたかと思ったら、白い空間に飛び込んだ。緑と黒の筋が張りつめたその空間に巨大な生き物を内包した黒と緑の物体があった。それがまるで生きているかのように蠢いていた。

 あれが……、あれが、魔神なのかと……」

 

 さらに暴こうと試みて、闇が視界を走り、視界を体に戻す最中に暗転した。


「アノンの言う通りだ。確かに、あれが、魔神なら……、やつはもう目覚めて、動き始めている」


 ライオットの手を誰かの手が包んだ。それは誰よりも小さく柔らかな手だった。


「ライオット」

「アノンか」

「目が見えないの」

「ああ、見ようとし過ぎたのかもしれない」

 

 真っ暗闇のなかで、顔に添えた手をライオットは離した。目の前にアノンの顔がある気がした。ふいに両目にやわらかな感触が広がった。


「アノンか」

「大丈夫。すぐに見えるようになるよ」

 

 ぬくもりと共にアノンの魔力が両眼にそそがれる。


「アノン、お前こそ、大丈夫なのか」

「なにが」

「文字盤を読んでさ」

「今更って感じだろ。僕が何のために管理下に置かれていたのか。その理由が分かっただけだよ」

「それで、いいのか」

「いいも、悪いもない。ただそこに僕が受け止めなくてはいけない現実があるだけだ」


 そそがれるぬくもりに、ライオットの気持ちも落ち着いてくる。アノンの手が離れた。視界はまだ暗転している。


「魔法が効かないね。病気やケガの類じゃないなら、呪いに近いのかな」

「呪い?」

「見たんだろ。この遺跡の下に眠る魔物を……」

「ああ」

「内部に潜って見た代償みたいなものだろう。すぐ戻るか、戻らないかまでは分からないな。しばらく様子をみるしかないね。

 ねえ、イルバー少し休んでもいい。僕も話がしたいんだ」

「それはかまわない。ライオットの状況を考えても、少し休むしかないだろう」

「じゃあ座って話そうか」

 

 なにやら動き始めたようだが、ライオットには周囲の様子が分からなかった。


「座れるか、ライオット。転びそうになったら支えるから、ゆっくり座ってみろよ。あとは俺たちが合わせるからな」

 ブルースの言葉に、怖気づいていたライオットが床を探りながら、膝をつき、手をつき、恐る恐る座りこんだ。




 ライオットが胡坐をかいた向かい側にアノンは座りなおした。

 ライオットは、膝にひじをつき、片手を両目にあてている。未だに見えないことにうちひしがれているようだった。

 左右にブルースとイルバーも座る。


「ライオットがこの状況だ。少し休んで、視界が戻らなければ、このまま彼を支えて外に出る」


 イルバーの静かな提案に、アノンは頷いた。


「ライオットが見た魔物は本物だよ。この下には魔神【凶劇 ディアスポラ】がいる。三百年前にこの遺跡に封印されたのは事実だ。本当は、三百年前に討伐したかったのに叶わなくて、やむなく封印したんだよ」

「やむなくって……」

「それぐらい強かったんだろうね。どう強かったかまでは記されていない。僕が魔物数体を一人で屠れるぐらいなんだから、それぐらいの力がないとりあえない相手なのかもしれないね」


 イルバーとブルースがぞっとした顔になる。


「魔神を封印する力の効力は三百年しかもたないというより、その時が来たら封印が解かれる仕様になっているんだよ。だから三百年後に封印が解かれると明確になっている。


 これは僕の憶測だけど、封印に施した力が続く限り封印される状況だと、魔神がいつあらわれるか分からないだろう。だから、事前にその期日を決めておいて、その期日までに対策を講じようと考えたんじゃないかな」


「対策がとれなかったらどうするんだよ」

 ブルースの声はかすれていた。


「どうだろう。三百年も時間があるから、なんとかなると考えたんじゃない? それとも三百五十年ぐらいが限界だから、切れがいいから百年単位で区切ったとか。

 その辺は考えても仕方ないよ。当時を知る人は生きてないんだからさ」

 アノンが、両の眉をあげて、おどけるように笑った。


「魔物を封印した世界が滅んだことはイルバー達も知っているだろう。本当に何もなくなったらしいね。

 当時、封印に携わった人は始祖だけじゃないらしい。彼だけが異世界に飛んだので、名前を残したのではないかな。手がかりを残す意味もあったのかもしれない。この辺も、僕の仮説」


「どうやって、その、始祖は異世界を知ったんだ、アノン」


「イルバー、ここの魔物は元々は僕たちの世界の生き物らしいよ。実際、僕もここに来る前に【根絶 サイコ】の誕生を見てきた。向こうで生まれた生き物がこちらにやってくることから、異世界のことを知ったのかもね。

 文字盤には、魔物が生まれる異世界に渡る、と書かれているんだ。

 過去のことで分かるのは、このぐらいだよ」


 ライオットが顔をあげて、アノンを見つめた。瞬きを数回繰り返す。


「ライオット、少しは視界が開けたの?」



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