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100,脅迫

 魔王城の食堂では、サッドネスの悪びれもしない笑顔に、わなわなとテンペストは震えていた。


(この男、ひっどっ!!)


 内心でついた悪態に伴う嫌悪は顔にありありと浮かんだ。

 サッドネスは気にする風もない。


 デイジーとドリームが心配そうにテンペストを見上げている。エムはカップに視線を落としている。

 怒りに任せて怒鳴らなかったのは、そんな妹の目があったからだ。テンペストは、深呼吸を繰り返した。目を一度閉じ、開いた時には、冷静になっている。


「サッドネス様。私たちに四天王なんて称号をつけて利用したのですか」

「そのようなつもりはないですよ、お嬢様」


 サッドネスはかぐわしい紅茶の香りを楽しむ。


「それぞれに、役目があるのです。

 私には私の。

 あなた方にはあなた方の。

 フェルノ様勇者一行にも……。

 しかし、彼らも決して愚かではない。今頃、異世界で、事の真相に近づいているかもしれませんね」


「真相とは……」

「なぜ自分たちが異世界に飛ばされることになったのかです」

 

 テンペストは姿勢を正した。驚くままに言葉を発しても、サッドネスにはぐらかされて終わると肚を据える。これ以上、何も知らないで翻弄されたくはなかった。


「サッドネス様、二百年も前の約束なのよ。しかも異世界のための約束なら、私たちにどれほど関係あると言うの。後世の私たちがどうして、そんな約束にこんなにも動かなくてはいけないの」


「反故にしたくもなりますよね……」


 サッドネスは自嘲を込めて、僅かに口角をあげた。薄く開いた無感情の視線をテンペストに投げる。


「先祖もそのように考えました。魔法を手にしてしまえばこちらのものだと……」


「違うの?」

「違いましたよ。

 先祖が手の平を返そうとした時、始祖は災害を起こしたのです。幸い、救助や支援の手は早く、一部の地域のみの部分被害で済みました。

 失われた人命の数も少なく、国の救助と支援の速さに国民の信頼は厚くなりました。それはそうですよね、事前に起こると分かっていたのですから。


 そのように始祖は、手のひらを返そうとした国の中枢に楔を打ちました。


 それが今も、脈々と恐れと共に根を下ろしているのです。始祖は、呪っているのです。もし約束を違えることがあれば、お前たちもまた滅ぶと……」


「なによそれ……」

 

 場がしいんと静まり返る。


「魔神が異世界に蘇り、異世界を滅ぼすならば、同時に、この世界も滅ぶように仕向けられているとお考え下さい、お嬢様方」


 誰かの生唾を飲み込む音が響いた。






 エクリプスは、魔物が暮らす森を散策していた。アノンたちを見送ってから、荷物を背負い、森のなかを歩きまわってばかりいる。


 額から汗がにじみ、流れていく。


「魔道具師の仕事は体力勝負ばかりだな……」

 愚痴を零すも、返答はない。エクリプスは一人で黙々と作業を強いられていた。


 魔術師と魔道具師は呼び名は違えど、同じ仕事をする。

 魔道具師は魔力が弱い。その弱い魔力を補うために道具を駆使したことが始まりだという。違いと言えば、魔術師は武器や道具そのものを作ることが少ないことだろう。それぞれの分野に名工がおり、彼らが作ったものを魔力を通じる品に変えるのが魔術師の仕事だ。道具からすべてを作るのが魔道具師と言える。


 魔道具師と呼ばれるようになったのは、二百年ほど前でも、魔道具師の原型はそれ以前から存在していた。祖先と始祖が邂逅した時にはすでにある水準以上の技術を有していたといわれている。

 魔法の力を得て、国を統一するまでの間、魔法使いばかりが目立っているものの、その背景に魔道具師が作り出した武器が利用されていたのは言うまでもない。


 魔道具師と伯爵家ひいては魔法術協会の関係は、建国以前にまでさかのぼる。


 エクリプスはそんな魔道具師と直接つながる伯爵家の一員であり、今後も彼らとつながりを持ち続ける貴族である。


「だからってなあ~」

 エクリプスは屈折して、うめく。


「こんな体力ばっかり消耗する仕事が待っているなんて、聞いてねえよ!!」

 メカルとスロウは、老体を良いことに、若いエクリプスに体力仕事をすべて任せきっていた。






 真夜中。四姉妹はテンペストの部屋に集まって、お菓子を囲む。


「あなた達……、なんで、わざわざ私の部屋に集まってくるのよ」


 床に陣取ってお茶会の準備を始める妹たちに、テンペストは白い目をむける。


「気にしないで、姉さん」

「夜に甘いものは気にされたかしら、白姉様」

「いちねえ。体形気にしているの?」


 妹たちの発言に頭が痛くなるテンペストは、物思いにふける余裕もない。


「あんたたちこそ、この前片づけないで戻ったでしょ。他人の部屋借りるなら、ちゃんと片づけまでしてよね」

 文句を垂れながらも、結局はテンペストも三人の輪の中に入っていく。


「姉さん、悩んでも仕方ない」

「こういう時こそ、楽しみましょう。白姉様」

「いつもどおりがいいよ、いちねえ」


 ドリームがお菓子をのせた大皿をテンペストの前に差し出す。末の妹の行為を無下にも出来ず、テンペストはお菓子をつまんで口に入れた。

 デイジーはお茶を淹れる。


「姉さん、すべては守るためだよ」

「分かっているわよ、エム。私たちは街道を守ることが仕事。街道全域に住んでいる魔人は全員家族」

 テンペストは胸に手を当てた。

「私たちは、胸に宿るともしびの元で家族なのよ」


「そうね、白姉様。だから、私たちは家族なのよね」

「魔人は、魔人として生まれた瞬間に、みんなの家族になるんだよね。いちねえ」


 魔人として生きる者は、みな街道の家族。いつの頃からか、刻まれた魔人の魂だ。その灯を信じ、行動する。それが魔人の信念。


「たとえ血がつながっていなくても、ねっ。白姉様」

「いちねえたちと生まれた時が違っても……」


 テンペストは一人ひとり妹たちの顔を見つめた。


 テンペストが魔王城にはじめて来た時、魔王はまだ誰の手も借りずに歩いていた。両親より、長く生き、魔力が強いことを認められて、テンペストは魔王に引き取られた。

 魔王が少し片足を引きずるようになる頃、エムがきた。

 魔王の座る時間が長くなり、腰が曲がり、足が遅くなったころに、デイジーがきた。

 そして、魔王が人の手を借りて歩くようになり、ドリームがやってきた。


 四人の血はつながっていない。ただ街道に生まれた魔人である。それだけで、四人は姉妹になれる。それが魔人というものだ。

 

 魔人は人間のような寿命で生きる者から、魔物のように長く生きる者までいる。魔人は個人の人生の時間が違う。

 僅かに魔力を有する魔人とはなにかは分からない。ただ、そこに生きるだけで、昔から魔人は互いを家族と思って生きる。


「……私たちは、家族よ……」


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