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99,蠢き 

 三百年前に何があったのか。滅びとは何か。知りたいことはたくさんあった。しかし、読んでみるとなんとあっけないものだろうか。


 アノンは眉一つ動かさず、凝視する。文字盤に書かれている文面をもう一度辿った。更に、もう一度読み直す。 

 腕を組んで、唸った。片手をあげて、首を抑え、深く息を吐いた。


(言われてみれば、そうだよね)


 それしか、感想は出てこなかった。

 橋の上で四人で飛ばされた瞬間を思い出す。会話の途中、閃き、消えた思考が今まさにぶわっと蘇った。


「この国を動かしているのは、魔法術協会だ」


 浮かび消えて、もう一度浮かびそうになり、かき消えた文言が、今ははっきりとアノンの胸に刻まれる。


 魔道具師と適時連絡を取りつながっているのは、魔法術協会である。特に魔術師と魔道具師は親密だ。魔術師【魔導瘴気 エクリプスメソッド】こと、エクリプスの出自である伯爵家はほぼ魔術師長を世襲し、魔道具師とのパイプが最も太い。


 アノンの多すぎる魔力の制御のために、魔術具を用意し、日々の体調管理と魔術具管理を担っていたのは、伯爵家の長女であり、エクリプスの姉【四重円舞 ソリタリーチルドレン】こと、リタである。


 首にあてていた手を離し、額に押し当てた。

 騙されたとは思いたくない。二人がアノンを騙していたとは思いたくなかった。それでも、疑いは胸を焼き、喉にせりあがってくる。

 

「僕の体を管理していたってことだよね」


 魔力を補充しないと持たない体。無尽蔵に見える魔力を持ちながら、更なる魔力を欲する意識。

 偶然耳にした、ライオットとイルバーの早朝の会話を思い出す。あんな硬い魔物の核をどうやって食べるんだとイルバーは言った。


 口角があがり、はっと自嘲の息が漏れた。 


「僕の体に何をした」 


 魔物の核を喰う時、アノンは口内を魔力で充満させる。歯に魔力を浸透させれば、それは一種の魔術具だ。


 イルバー達が、魔物から核を取り出す時に、魔物の核を練りこんだ鋼で作られた刃物を使うことと一緒である。恐らく魔物の核そのものを加工する道具もすべて、魔物の核を用いて作られた道具を使っているだろう。

 では、魔物の核を喰えるようになるまでどうしていたか。記憶をたどれば簡単なことだ。


「魔力を制御するための薬と言って、投薬に見せかけて、僕に魔物の核の粉末でも飲ませていたんだろう」


 唇がわなわなと震えた。怒りがたんたんとあふれて熱を帯びる。両眼をうっすらと濡らす。

 

 はっっともう一度、捨てるように息を吐く。怒りが充満し、足先から脳天まで突き上げられるように総毛だった。



 

 ライオットの視界は遺跡の最奥へ潜りこんでいた。

 石の隙間を縫うようにくだっていくと空間が変化する。緑の根に重なるように、黒々しい魔力と思しき筋が、縦横無尽に張り巡らされていく。方向感覚は薄れ、下へ行っているはずだという意識に頼りながら進んだ。


 緑の根と黒い筋がねじり混ざる。その流れに沿うように視界は突き進む。ぐんぐんと奥へと流れて行った果てに、空間が開けた。

 そこは真っ白な空間に縦横無尽に走る黒と緑の直線に張り巡らされていた。


 ライオットの視界は周囲を詮索する。奥行も見えない白い空間に黒と緑の線がピンと無数に張りつめている。


(遺跡の下になんでこんな空間があるんだ)


 遺跡は石でできていた。石を積み上げる合間に空間を作るにしても、こんな真っ白くただ広いだけの空間が作れるはずはない。

 石を積み上げられて作られている世界ではないとライオットは確信する。


(まるで、遺跡の下に異空間があるようじゃないか)


 張りつめた緑と黒の筋群が捩じり合いながら集約する一点を見つけた。そこからすべての黒い筋と緑の根が四方に飛んでいる。見たいと思うとその一点に視界が近づく。集中する一点はなかなかの大きさだった。

 その物体は小刻みにぶるぶると震えている。


(あれはなんだ?)


 小刻みに動いていた物体が急にビクンと跳ねた。その形をぐにゃりぐにゃりと曲げる。まるで生きているようだ。左右にも、上下にも動く。すると、内側で何かがのけぞたっかのように、屈折した。


(生き物がうごめいているのか)


 視界の端で黒の筋がぶちんと切れた。音はない。見えるだけだ。一本切れ、二本、三本と続いた。切れた黒い筋分だけ、緑の根が物体より放たれる。


(こんなところに生きているものがいる? あれが魔神?)


 核心は持てなかった。ただ躍動する物体がすでに、包まれている緑と黒の膜内で、相応に覚醒した動きを見せている。


 ライオットはさらに見ようと試みた。その物体の最奥まで、見てやろうと意気込む。


 その時、視界が暗んだ。ざざっと右に左に闇が走る。見ようとして、見えなくなった。

 視界が引き戻される。


 左右に走る闇の隙間から覗く風景が逆回転していく。白い空間がかき消える。緑の根と黒い筋が石の隙間を縫うように、後ろへと視界が下がる。黒い筋が消えた。緑の根だけが残り、石の隙間を更に後退する。

 左右に走る闇はどんどん太くなり、ついにはライオットの視界を暗転させた。


「うああっ」


 ライオットは呻いた。両手は床につけているはずだ。しゃがみ込んでいる態勢は記憶がある。体の位置は分かる。片膝は地面につけている。


「ああっ」


 喉奥でうめき声をあげる。両膝をつけ、床に置いた手を持ち上げた。視界は真っ暗だ。つながる体感覚だけで、両手で頬を覆った。


(目が、見えねえ)


 ライオットは暗闇のなかで途方に暮れた。





「黙って聞け!」


 アノンは文字盤を直視したまま、叫んだ。


「三百年前、最強の魔物である魔神【凶劇 ディアスポラ】は、この遺跡に封印された。

 封印したのは【地裂貫通 グラインドコア】。この世界では、遺跡の名に刻まれた者であり、僕らの世界では、魔法術の始祖として名を刻む者。

 

 魔神封印に携わった者は複数いた。彼らは魔神を滅すること叶わず、やむなく期限付きの封印を施した。

 だが、封印までに至る代償は大きかった。世界は草も生えない砂漠となり、遺跡の周辺に大樹の森を残すだけとなる。

 

 滅んだ世界で対魔神の戦力を準備することが不可能だと悟った【地裂貫通 グラインドコア】は、異世界へと旅立った。


 目的はただ一つ、たどり着いた異世界で、封印が解ける三百年後に対魔神用の力を生み出し、こちらの世界に送り出すことだ!」


 アノンは振り向き、喉を枯らす勢いで叫んだ。


「僕こそが、【地裂貫通 グラインドコア】が異世界で生み出した、対魔神用の兵器そのものだ!」



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